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【最終17視】出会いの見える女、六月一日優芽美

 テニス部のサイトを作り終えて数日後。

 文芸部の部室に、結束星月が、女子テニス部の部長を連れてきた。

 ちなみに彼女は三年生で、名前は茂庭波帆もにわなみほ

 鈍い鈍いと言われている俺でも、テニス部室にいたとき、自身の能力ゆえに分かっていたのだが、男女のテニス部長同士付き合っているらしい。

 お互い好意をもっていたからな。

 自然なことだろう。

 男子部長の名は球磨川佐武くまがわさぶだ。

「茂庭先輩、今日は何のご用ですか? お二人からいただいた部長メッセージももうテニス部のサイトに掲載しましたし……、サイト作りの作業はすべて終わっているはずですけれど」

「透、茂庭部長は今日は別のご用でみえたんだよ」

「別のご用? それって何だよ、星月」

「だあー! もーー! 透は例によって鈍くてデリカシーがないな!!」

「透。またガムテープ用意しないとだめかしら?」

 標智憂梨の言葉に俺は思い当った。

「あ、そういうことか。じゃあ、俺黙ってる……。っていうか、外出ててもいいけど?」

「あ、いいの、いいの。男の子の考えも聞いてみたいから」

 茂庭波帆がそう言って、出ていこうとする俺を止めた。

 そういえば、芦生麗のときもそうだったな。

 ま、いていいいと言ってもらえているんだから、いるとしよう。

 第一、俺、れっきとした文芸部員なんだから、文芸部室にいる権利あるし。

「ここ、恋うらないやってくれてるんだよね?」

「茂庭部長、恋うらないじゃないですよ。まあ、恋愛相談みたいな感じですか。的確なアドバイスということで、評判なんです」

 結束星月が我がことのように自慢する。

「そういうご用なのですか」

「うん、まあ……」

「球磨川先輩のことですよね」

「よく分かるね……」

 茂庭波帆は標智憂梨に力なく笑った。

「お二人は両想いなのに、何のご相談なんでしょう」

「なんかさ……、最近うまくいってないんだよね。すれ違いがちっていうか……。もしかして、佐武に他に好きな人できたのかなとか思って……、そういうの、ここでのうらない、百パー的中させるって」

「いえ、うらないは特にやってないのですが」

 うらないも何も……、俺も標智憂梨も人の頭の上さえ見ればそういうのは分かってしまうからな。

 標智憂梨は俺を見た。

 俺には……、茂庭波帆の頭上に「球磨川佐武」と出ているのが見える。

 これはリアルタイム表示だから、今現在、球磨川佐武が茂庭波帆に恋愛感情を抱いていることは百%間違いない。

 俺は、標智憂梨にうなずいた。

 球磨川佐武が茂庭波帆に好意をもっているかどうかは、標智憂梨の場合は球磨川佐武の頭の上を見に行かなければ分からない。

 その点、俺ならここにいながらにして、球磨川佐武の、茂庭波帆に対する気持ちを知ることが可能だ。

 俺と標智憂梨の能力を合わせれば、ここにいながらにして両者の恋愛感情の完全把握が可能なのだ。

「茂庭先輩と球磨川先輩は両想いです。だから、球磨川先輩に他の人がいるということはありませんよ」

「そうなんだ……。でも、じゃあ、どうすればいいのかな……」

 両想いだということを再確認しても、茂庭波帆は元気を出さないまま帰っていった。

「なあ、茂庭部長のこと、なんとかしてやれないかな」

「星月、そんなこと言っても、私にできるアドバイスはここまでよ」

「そうだよ。俺にしたって智憂梨にしたって、恋のキューピッドじゃないんだ。強制的に二人の関係を良好にすることなんかできないんだから」

「でもさ、二人とも好き合っている者同士なのに、このままぎくしゃくして別れてしまったら、かわいそうじゃないか」

「じゃあ、星月、茂庭先輩と球磨川先輩について一つ教えてくれるかしら?」

「なんだ?」

「二人のそのことについて聞く以上は、それなりのことをするつもりはあるわ。――透、あなたはどうするの?」

 標智憂梨は俺に確認してきた。

 結束星月にあらたまってたずねるとしたら、あのことだ。

 俺は――、俺も腹を決めた。

「鈍い鈍いっていつも言われるけど、ちゃんと智憂梨の言いたいことは分かっているつもりだぞ。分かった。俺も星月の言葉を聞く。星月の言葉いかんでは、茂庭先輩と球磨川先輩のことに、及ばずながら力を貸すぜ」

「――だって。で、どうなの、星月?」

 結束星月は一呼吸おいてから、俺たちに伝えた。

「茂庭部長と球磨川部長は運命の赤い糸で結ばれているよ。前も言ったけれど、高校生カップルの段階でそういうのはあんまりない。珍しい、貴重な、レアなケースだな」

「じゃあ……、二人は将来結ばれるわけだ」

「それはそうなんだけど透、前も言った通り、それがいつなのかは分からないんだぞ。もしかしたら、高校でいったん別れて、五十歳ぐらいになってから再会して結ばれるというパターンだってあるんだから」

「せっかく運命の人なんだから、結ばれるなら早いほうがいいでしょう。だから、星月も茂庭先輩と球磨川先輩のことに乗り気なのよね」

「まあな。あたしも、赤い糸同士で結ばれていた二人がけんか別れしたからといって、これまでは特に干渉はしてこなかった。だって、別れた時点ではそれぞれ別々に好きな人がいた場合もあったから。でもさ、茂庭部長と球磨川部長の場合はそうじゃない。智憂梨と透の能力でそこは保証されている。現時点で好き合っていて、しかも運命の人同士なんだから、二人の仲が壊れてしまうようなことは避けてあげたいんだよな」

「そうだなあ……」

 俺たち三人は考えた。

「あ、そうだ、俺の友達の助川佑にちょっと聞いてみようか?」

「助川君に?」

「ああ。智憂梨も知っているとおり、入学早々から高校一の事情通を自負している佑だったら、球磨川先輩の最近の動向について知っているんじゃないかと思うんだ」

「なるほどね。私たちは別に情報収集の専門家じゃないもんね。じゃあ、透、助川君に頼んでみて。あ、でも、茂庭先輩がどうこうとか、そういうプライバシーについては配慮してよ。あなた、デリカシー足りないから」

「もーー、分かってるよ、智憂梨」


 次の日、俺はさっそく助川佑に相談をもちかけた。

 いつも宇賀神利依奈と昼飯食ってる佑だが、あらかじめ前の晩に昼休みに相談事があると頼んでおいたので、佑は宇賀神利依奈との昼食をこの日はキャンセルしてくれていた。

 校舎の屋上で助川佑と二人になるのは久しぶりだ。

「球磨川部長の様子で最近なにか変わったこと?」

「そうだよ。何か佑の情報網に引っかかってないか?」

「たとえばどんなことだよ?」

「たとえば……、その……、女性関係とか」

「女性関係?」

「た、たとえばだぞ」

「女性関係か……、じゃあ、あのことかな?」

「なんか知っているのか?」

「いや……、ここから少し離れた河原のテニスコートで……、毎週日曜に、球磨川部長が女の子とテニスしているって情報が俺の耳に入っている」

「まったくおまえ、どんだけ情報網すごいんだよ」

「まあ、球磨川部長は茂庭部長と付き合っているっていうのがもっぱらのうわさだったけど……、その話聞いて……、もしかしたら球磨川部長、心変わりしたのかなとは思ったんだよな。でもさ、そんなの俺が口出しすることじゃないじゃん?」

「それは……、たしかにそうか」

 俺や標智憂梨と違って、誰が誰を好きかなんて、知る由もない助川佑の反応は当然だろう。


 次の日曜の午後一時、俺と標智憂梨、結束星月に茂庭波帆を加えた四人は、助川佑に教えられた河原のテニスコートに行った。

 佑の情報通り、球磨川佐武はコートに現れた。

 しかも、茂庭波帆以外の女の子と一緒に。

 コートには二人きり。

「ゆめみ、行くぞ」

「お兄ちゃん、お願いします」

 こんなやりとりが聞こえてきた。

 だが、俺たちはそんなことより別のことに驚愕させられていた。

「智憂梨、星月」

「ええ」

「まいったな……」

 その女の子の頭上に、名前がなかったのだ。

 もっとも、その認識は俺と智憂梨のもので、星月には女の子の小指に赤い糸が見えなかったに違いない。

 なんと――。

 彼女は、俺たちにとって四人目の能力者だったのだ。

 こんな形で出会うことになるとは。

「お兄ちゃんって、言ったぞ。智憂梨、星月。あの子、球磨川部長の妹なんじゃないの?」

「少なくとも、球磨川先輩にはあの女の子への恋愛感情はない。今でも彼の頭上には茂庭波帆先輩の名前があるから」

 標智憂梨が、茂庭波帆に聞こえないように声の大きさに気を遣って、俺と結束星月に伝えた。

「あなたはどうなの? 透」

「俺も球磨川先輩の頭上に、茂庭先輩以外の名前は見えない。だから、コート中の二人は恋愛関係ではないよ」

「じゃあ、あの子が能力者であることは後でまた考えるとして……、万事解決じゃんか。茂庭先輩に伝えようぜ」

 そう言う結束星月を標智憂梨が制した。

「そう簡単にいくかしら」

 すでに、茂庭波帆はコートに向かって歩き始めていたのだ。

 俺たち三人が止める暇もなかった。

「佐武!」

 茂庭波帆は、フェンスの外から大声で球磨川佐武を呼んだ。

 呼ばれた球磨川佐武は、びっくりした拍子に、女の子が返してきたボールを空振りしてしまっていた。

「な、波帆……」

「その子、誰?」

「え? あ、こ、この子は……」

「お兄ちゃん?」

 コートの中で対戦していた女の子は、驚いた様子で球磨川佐武に駆け寄った。

「お兄ちゃんって……、妹だなんて言い訳はしないでよ。佐武に妹がいないことは知っているんだから」

「波帆、どうしてここに……」

「答えてよ。最近、いつも日曜会えないと思っていたら、こんなことになっていたなんて。私のこと好きじゃなくなったんなら、はっきりそう言ってよね。何週間も理由も分からず日曜日ごとに避けられて……、どんなに辛かったことか」

「い、いや、誤解だよ、波帆」

「なにが誤解なのよ!」

 茂庭波帆の怒りと悲しみのボルテージが一気に高まったのが見てとれた。

「あ、あの、すみません、私……」

 女の子があわてた様子で口を開いた。

「わ、私、お兄ちゃんとは……、球磨川さんとはそういうんじゃないんです。私、六月一日優芽美さいぐさゆめみっていいます。高校一年で……、お兄ちゃんにはテニスを教えてもらっているんです」

「本当だよ、波帆。優芽美は親戚の子で……、頼まれてテニスを教えていただけなんだ」

「本当に?」

 茂庭波帆は判断を仰ぐように、標智憂梨を見た。

「本当です。茂庭先輩と球磨川先輩、お二人は両想いです。お二人は運命の糸でつながっています。でも、それはあくまでも、こちらの見立て。今、そしてこれから、どうするかはお二人次第ですよ。私たちには、お二人の仲をコントロールすることはできませんので」


 俺たちは二人の部長と別れ、ファミレスに入った。

 四人がけのテーブルにかけた。

 俺と結束星月が隣同士でかけ、俺の向かいに六月一日優芽美、その隣に標智憂梨が座った。

「はじめまして。私、六月一日優芽美といいます。あ、六月一日って、漢字で六月一日って書くんです。珍しいでしょ」

「そうなんだ……。俺は佐取透」

「結束星月。星月ってのは漢字で星に月と書くんだ。星がセイで月がルナ。あたしの名前もあんま、ないだろ」

「そうだね。初めて聞いた」

「私は標智憂梨……。標は、標識の標よ」

 しばしの沈黙。

 俺と標智憂梨と結束星月はうなずき合った。

「そ……、その、六月一日さん。」

「はい?」

「あの……、その……、なんというか……、分かるでしょ? 俺たちの言わんとしていること」

「え? 分からないです」

「警戒しているのね? じゃあ、透、星月、私たちから種明かししましょう」

「ああ」

「いいよ」

「六月一日さん。私たち三人は、普通の人には見えないものを見る力をもっているの」

 標智憂梨は、六月一日優芽美の様子をうかがった。

 六月一日優芽美の目が、わずかに大きくなった。

 反応している。

「六月一日さん。あなたもそうなんだと思う……」

「……」

 六月一日優芽美は答えない。

 標智憂梨は続けた。

「あなたも何らかの能力をきっともっているんだと思うから信じてくれるだろうけど……。私は、その人が誰を好きなのかが分かるの。頭の上に名前が浮かんで見えるのよ」

「え、うそ?」

 六月一日優芽美は自分の頭の上をおさえた。

 そんなことしたって、通常の人の名前表示が隠されてしまうことはないのだが、それは俺や標智憂梨にしか分からないことだ。

「俺は、この智憂梨とは逆だ。その人が誰から好意をもたれているか、その名前が頭上に浮かんで見える。だから、人気者は頭の上にたくさん名前をのっけている」

「えーー? やだやだ」

 六月一日優芽美は頭を押さえて首を横に振った。

 小動物みたいで動きが可愛い。

 最後に結束星月が自身の能力を明かした。

「そして、あたしには運命の人が分かる。運命の人同士の小指は赤い糸で結ばれているのが見えるんだ」

「きゃっ」

 今度は六月一日優芽美は、両手をグーにしてテーブルの下に隠した。

 また、しばしの沈黙。

「えっと、」

 仕方がないから、俺が沈黙を破った。

「今の六月一日さんの反応、俺たちの言う言葉を信じるってことだよね」

「う……、まあ……。でも、あまりにも想定外なのでびっくり」

「びっくりするのは分かるよ。実は俺たちも高校入るまで、俺たち以外の能力者に会ったことはなかったんだ。ところが、ここに来て俺たち三人は出会った」

「……。どうして、お互いにそういう能力があるって分かったの?」

「六月一日さん、それは君にだって想像がつくはずだ」

「ごめん……、今いち分からないわ……」

「あ、あのさ……、俺たちも種明かししたんだから……ってわけでもないんだけど……、君の能力についても教えてくれない? 君は何が見えるの?」

「その前に、私の質問に答えて」

「……。分かった。実は、俺たちの能力は、お互いに対しては発揮されないんだ。だから、俺は、智憂梨の頭上にも星月の頭上にも名前が見えない。智憂梨も同じで、俺や星月の頭上に名前は見えない。そして、星月の場合は、自分も含め、僕らの赤い糸が見えないんだ」

「能力者は見えない……」

「俺たちには、君の頭上にも名前が見えないし、指には赤い糸が見えないんだ。だから、俺たちは君も何らかの能力者なんだろうって、検討をつけて、今、こうして来てもらったんだ」

「そうだったんだ……。やっと分かった。じゃあ、あたし、あわてて頭や指を隠さなくても良かったんだ。はずかしいーー」

「まあ、頭に手をやったところで、名前は隠せないけどな」

「分かってくれたなら……、そろそろ六月一日さん、あなたの種明かしもしてくれない?」

 ずっと俺に話をさせていたけれど、ここにきて標智憂梨がまた口を開いた。

「あたしの能力は、三人とはちょっと違うかな」

「違う?」

「三人とも手のひらを出して」

 六月一日優芽美に言われ、俺たち三人は素直にテーブルの右手のひらを出した。

 うらない師に手相を見てもらうみたいだな。

「うん……、私には見えるもの」

「見える? 何が見えるんだ」

 結束星月が意気込んでたずねた。

「私はね、何日後に誰と出会うのか……、それが手のひらに浮かんで見えるの。名前と日数がね。あなたたちの手のひらにも、それぞれ何人かの名前と日数が浮かんでいるよ」

「そんな!」

「まじかよ」

 標智憂梨と結束星月が悲鳴のような声を上げた。

「六月一日さんには俺たちのことも見えるのか……。てっきり、能力者同士は能力が働かないのかと思っていたのに……。ルールに例外もあるんだな」

「いや、そのルールとやらはちゃんと働いているよ。私が、あなたたち三人と出会ったのも、いわばそのルールのおかげ」

「どういうことさ?」

 六月一日優芽美の説明が下手なのか、俺の理解が悪いのか、話の意味が分からない。

「私は、私自身の手のひらにも、誰と何日後に出会うのかが浮かんで見えるの。でもね――」

 六月一日優芽美は、言葉を区切り、俺、結束星月、標智憂梨の顔を順々に見てから続けた。

「三週間前かな……。お兄ちゃん……球磨川佐武君と、あのテニスコートでテニスの相手をしてもらってたの。私とお兄ちゃんとは本当に何でもないんだよ。実は私、夏休み明けに、みんなの高校に転入する予定なんだ」

「え、ほんとなの?」

 能力者が同じ高校に四人だなんて!

「――で、テニス部入ろうかと思って、お兄ちゃんに相手してもらってたの。少しブランクあったもんだから。そうしたら、練習中、私の手のひらに浮かんだんだ」

「それって俺たち三人の名前?」

「それが、そうじゃなかったの。さっき言ったよね。私は将来誰と出会うか、その名前と日数が手のひら上に浮かび上がって見えるって。ところが、そのとき浮かんだのは日数だけ三人分。名前は浮かばなかった」

「俺たちの名前がなかった!?」

「それは……、私たちが能力者だったから?」

「能力者には能力者のことが分からないというルールはここにも生きていたんだ!」

「私こわかった。今までこんなこと初めてだったから。名前がない者と出会うってなんなんだろうって……。怪物とか幽霊とか宇宙人とか……、なにかとんでもない得体のしれない者に出会うんじゃないかとびくびくしてた。日曜日も一人でいるのがこわくて……、無理言ってお兄ちゃんに気晴らし付き合ってもらってたの。でも、お兄ちゃんの彼女に悪いことしちゃったかな……」

 第四の能力者、六月一日優芽美の能力は予知能力のようなものだ。

 俺や標智憂梨のものは、分類するならばテレパシー的なものといえるだろう。

 運命の相手が分かる結束星月の能力もまた、六月一日優芽美の能力同様、予知能力に分類できるのではないだろうか。

「三十日後、私は多くの人と出会うことになっている。今、私の手のひらの上には三十という数とともに多くの人の名前が浮かんで見えているわ」

 そう言うと六月一日優芽美は、何人かの名前を挙げた。

「それ……、俺たちのクラスメイトの名前だよ」

「じゃあ、六月一日さんはあたしたちのクラスに入ってくるんだな」

「能力者って、能力者同士引き合うのかしらね」

「でもよかった……。私、こんな変な力もっているの自分だけかと思って孤独感を感じていたから。じゃあ、これからは私、みんなと友達だね」

 六月一日優芽美は右手を出した。

「あ、ああ、よろしく」

 俺がその手と握手する。

「私もよろしく」

「あたしも」

 標智憂梨も結束星月も今回は素直に友達になることを受け入れた。

 こんな妙ちきりんな能力をもった者が四人。

 お互い、能力をもつがゆえにこれまで孤独感を抱えていたけれど、これからは仲間と出会ったおかげで、それが少しずつ癒されていくかもしれない。

 そして僕もまた、普通の恋愛ができるようになったらいいなと思う、夏休みに入って最初の日曜日だった。


<完>

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