【第14視】ひねくれた理由
土曜日。
俺は助川佑からテニスに誘われた。
助川佑と宇賀神利依奈とでミックスダブルスをやりたいのだそうだ。
どうせ初心者なので、おまえもどうだと言われ、行くことにした。
指定のコートに行ったら驚いた。
結束星月がいたからだ。
「あれ? 星月もいたんだ」
「いちゃ、悪いのか」
「いや、だって、俺たち初心者だし……、星月にはもの足りないだろ」
「佑と利依奈から誘われたんだよ」
「そうなのか佑?」
「いいじゃん、透。星月に声かけたら、土曜空いてるっていうからさ、来てもらったんだ」
いきなりダブルスとかいっても、俺はテニスなんかやったことがない。
まあ、佑と宇賀神利依奈も初心者なのだけれど、さすがに毎日やっているわけで、俺よりはずっとうまかった。
俺は、持ち方もよく分かっていない。
「ほら、こう持つんだよ。ラケット面を地面に垂直にしてだな……」
結束星月が、手取り足取り――いや、足は取らないが――文字通り手に手を取って俺にラケットの持ち方を教えてくれた。
俺の体に沿うようにして彼女が腕を取り、一緒にスイングのフォームを何度もやってくれた。
体と体が近すぎて――時には密着して――ちょっとどきどきする。
「まあ、習うより慣れろだ。やってみようぜ」
結束星月が言った。
佑・利依奈組 対 俺・星月組だ。
結束星月のサーブからだったが、芦生麗との試合で見せたようなものすごいやつではなかった。
手加減してくれている。
だよな。
そうじゃなきゃ、俺と佑と宇賀神利依奈、三人束になってかかったって結束星月には勝てないだろう。
まあ、テニスに三対一の試合はないけど。
ある程度やったところで、組がえをした。
俺と宇賀神利依奈、佑と結束星月とで組になったのだ。
俺の打つボールはどこに飛んでいくか分からない。
それを結束星月がうまく拾って、打ちやすいように返してくれた。
俺と結束星月が別々のチームのほうがラリーが続く感じだった。
テニスを終えると、これから予定があるということで、佑と宇賀神利依奈は行ってしまった。
なんだよ、俺と結束星月の二人になっちまったじゃん。
ど、どうしよう。
「おい。透」
「は、はい?」
「はいじゃないだろ。なんであたしをお茶に誘わないんだよ」
「え、だ、だって……、いいの? 俺なんかとお茶とか飲んで」
「別によかないけど、悪くもない。――っつーか、中途半端に時間あまっちまったんだから、一緒に時間つぶしするぐらいの気を利かせろ」
「ああ……、じゃあ、お茶のみに行こうか?」
「お、おお……」
夕焼けのせいか、結束星月の頬がとても赤く見えた。
喫茶店。
「こないだ、麗とデートしてたよな。楽しかったか?」
「デートというか……、うん、まあ、楽しかったよ」
「そっか」
「な、なんでそんな怖い顔してんの」
「別に」
「そっちは、尖先輩と映画見たあとお茶したんだよな。楽しかった?」
「なんだよ、智憂梨から聞いたのか? 別に普通だったよ」
「普通ね……」
「……」
「尖先輩の運命の人って、智憂梨と星月のどっちなんだろうな」
「知るかよ、そんなこと。仮に運命の人だとしても、今はそういう気持ちないんだしな。運命の人なら、これからそういう気持ちが出てくるんだろうよ。――もしかして、尖先輩の頭上に、智憂梨の名前が見えるのか?」
「う、それは……」
俺は標智憂梨との約束を思い出した。
「見えるとか見えないとか、言えないよ……、プライバシーの侵害だろ?」
「……。それも、智憂梨に言われたな」
「うん……、まあ……」
「まあ、妥当なところだよな。じゃあ、あたしも透がデートしていた麗のことについては何も教えないっと」
芦生麗の件か……。
芦生麗の小指の赤い糸。
星月には誰につながって見えているんだろう?
芦生麗に運命の人がいるのに、俺、芦生麗と中途半端に付き合っていていいのだろうか……?
「あのさ……、星月」
「なんだ?」
「なんか、見えなくてもいい相手のことが見えちゃうのって、恋愛するに当たって邪魔なときってあるよな」
「それはそうだろ。だって、好きで好きでしょうがない相手が、運命の人じゃないってのが分かってるってことが今まで何度もあったんだぞ」
「そうか……、そうだよな」
「ま、智憂梨もだけど、あたしがこんなちょっとひねくれた性格なのは、この能力のせいなんだ」
「……」
「でも、透は能力の割には、ひねくれてないよな。単純というか鈍いというか」
「鈍いっていうな。じゃあさ、たとえば、俺と星月だったら、お互いの能力が働かないから、普通のカップルとして付き合えていいんじゃないか?」
「え……」
「あ、気を悪くしないで。ものの例えだから」
「なんだよ、告られたかと思っただろ……」
「え……? 最後のほうよく聞こえなかったんだけど」
「聞こえなくていいよ、バカ」




