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毒樹の果実  作者: ヒゲ博士


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答え合わせ

 周囲の空気は固まっていた。視線も集まっている。何よりアララギは画面の向こうで、言葉も出ずに立ち尽くしていた。


【まて…まってくれ状況が飲み込めない。つまりマヒルは…ただのホームレスだと…記録がないのは、家出してから記録される程の…活動をしていなかったのか。】


 ムタに投与した【恐怖消失薬】を奪いに来た、死を偽装する身元不明のスパイ。そういう絵を頭の中で描いていたのだろうが、残念ながら実際は違う。


「はは…ほんとややこしいことになったよな。」

【…まってくれ。本当に分からなくなった。ではなぜムタは薬の製薬をしていた神栖会の襲撃をした。ムタと神栖は繋がらない。だからマヒルに拐かされたんじゃ。】


 アララギは腰に手を当てて、眉間を押さえる。まさか全部肩透かしだと思わなかったろう。かわいそうに。

 介錯をするべく、確度の高い考察を述べる。


「神栖会は僕がマヒルを確保する為に動かしたコマだ。黒木…96は配信に来ていたからな。黒木を見つけ出し、情報を得て、マヒルの痕跡を追う過程でたまたま突撃したんだろう。もしかしたらマヒルのスマホでも手に入れたからか。なんにしてもあの人は…いつも間が悪いから。」


 マヒルは自殺した。

 ムタはその復讐に囚われて、全然関係のない元恋人達を殺し周っている。

 僕はマヒルの自殺まで追い詰めた犯人。


 交わりそうで交わっていない結果と、勘違いが引き起こしたのは、大いなる騒動だ。


【……お前はマヒルの恋人ではなかったのか。】

「違う。触れることすらしていない。」

【クソっ!!クソっ!!!!】


 悔しそうに地面を踏みつけ、足元の綱を蹴り上げる。その様子で僕に晒された現実がなんとなく分かった。予測通りだな。


「ムタさんが僕を殺しに来ると踏んで、意味のわからないことして時間を稼いでいたんだな。」

【………そうだ。ムタが復讐者になっていることは知っていたからな。】

「まぁその線は当たらずも遠からずってとこだ。」


 そうだ。そのまま野放しにしていれば、あの人は何とかして駐屯地に潜り込むだろう。そして僕を殺すのだ。

 とは言え、このアララギの思惑を通してやるのも尺だ。人を簡単に利用しようとする輩には、お灸を据えてやらないとな。


「まぁここには絶対こないけどな。」

【………まて、そこにサヤ3曹はいるか?】


 僕達を囲んでいた警務隊は全員顔を見合わせて、結果を報告する。


「いえ…。彼女は既に退勤しています。」

【真壁ぇええええええ!!!】

「どうせこうなると思ってたぜ。サヤにムタを探して止めるように言っておいて正解だった。ははっ。」


 怒りの咆哮がスピーカーから聞こえてきた。その隙を逃さず、僕はノートパソコンに掴みかかる。


「ごめんな…ごめんなサヤ。お前のパソコンを…。」


 ライブカメラを接続したまま、僕はデータの初期化を始めていた。

 

【お、おいなに_______クソこの際パソコンはどうでもいい…サヤを捕まえろ!!さがせ!!】


 やはり頭の回転が早いだけあり、この場にいないサヤに思考が向いたのは流石というところだ。だがそれがこの場所でバレることはない。なぜなら僕ですら居場所を知らないのだから。


「現在、サヤ3曹は営門の外で男性と会話していると確認が取れました。」


 声の方向に振り向けば、僕達を囲い込む輪の外側で痩せこけた男が、無線を片手に持っていたのだ。

 連絡手段を絞るためにアララギから無線を取り上げた。そして予想通り、司令塔の指示経路はこの閉鎖空間である7畳の多目的室に集約された。そしてあの痩せこけた男がアララギを除く次級者。

 連絡と司令、すべてをここで抑え、ムタの確保を妨害する。そして僕の戦力はここに固められている。僕の作戦通り。ここからはスピード勝負だ。

 

「竹内…。」

「骨は拾ってもらいますからね…うぉおおおおお!!」


 竹内の号令で後輩ちゃんずは、起き上がり、体当たりで警務隊に襲いかかる。まるで乱闘騒ぎの様相だ。

 とはいえ相手も黙ってはいない。警務隊の全員が腰から木製の警棒を抜き取った。


【お前らそんなことし_______】


 スピーカーからの音声が切れる。画面にはNOSignalという文字が浮かんでいて、初期化に成功したことがわかった。これで指令を出すツールは切れた。だがここには次級者がいる。


「まぁいい!!俺が司令を___」

「先輩!!!」


 竹内の合図を待っているほど、時間は残っていなかった。僕は人の海が割れたところに飛び込んで、既に痩せた男の足元まで迫っていた。


「無線は飛ばさせな___」


 一発の銃声が背中を射抜く。痛みが意識を切り裂いて、視界は暗転した。


「悪いな。手段など選んではいられない。」


 もはや息をするだけで手一杯で、耳に入ってくる呼びかけにも応えられない。竹内のやかましい叫び声だけが頭に響いている。


「___そうか。逃げられたか。後始末が大変だがまぁ…責任の大部分はアララギに…」


 降りかかる男の声を聞いて、満足が行く結果になったようだ。そうか。それなら撃たれ甲斐があったんだろう。

 ムタさん。僕は自分の欲に負けたんです。だからせめてこの戦いだけは勝ちたかった。正直あなたがどうなろうと知ったことではない。アララギという理不尽に勝ちたかっただけ。

 ・・・やっぱりいいます。このままじゃ成仏できそうにないんでね。…本当にすみませんでした。

 


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