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毒樹の果実  作者: ヒゲ博士


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16/22

二日目の昼

 日が明けて、部屋ではアララギが僕を睨んでいる。椅子に座って静けさに包まれながら、お互いの様子を伺って、15分が経過していた。

 時間が止まってしまったのかと錯覚する手前で、アララギは口を動かす。


「昨日営内を捜索させてもらった。」


 いつもの剽軽な口調ではない。低い声で早口。確信を持ちつつも、焦っている気心が知れる。


「なにもなかった。なにもな。」

「……それは何かあったはず。と言うことですか?」

「もちろんだ。何かしらコンタクトを取った形跡があると思ったが、見つからなかったからな。」

「コンタクト?ムタさんがだれとコンタクト取ってると言うんですか。」

「そんなこと、マヒルさん以外にあるのか。と言いたいが事態は悪化しているが…今はマヒルさんの話をしよう。」


 訓練中に自殺してしまったムタさんの元恋人の名前だ。無論三人で会った事もある。それがどうしたというのだろう。

 そんな事を考えていると、アララギはクリアファイルを取り出し、挟まっていた紙を眺める。


「君のおかげで我々警務隊の捜査方針は決まった。今は茨城県警との合同捜査として調査を進めている。これは、マヒルさんの調査資料なわけだが。この厚みを見ろ。」


 丸めた中指の関節で何度かファイルを小突くと、力なく垂れる。まるで萎れた草のようだ。


「職務経歴書、面接資料、納税記録、銀行口座、病歴、身体歴、学歴、出産証明。日本で生まれれば必然的に残る書類は厚みのあるものとなるが、警察から提出されたのはこれのみ。マイナンバーカードの登録すらない。」

「……何がいいたいんですか?」

「享年22歳にしては薄すぎるという話だ。まるで消える事が前提のように見える。」


 確かに聞いていた話では社会の外側で生きてきたような人間だった。自身の経歴を認めないように、背を丸めて独白する姿を覚えている。

 記憶の中にいる迷える女性。裏に隠れた感情すら知らない他人は、まるですべてを知っているかのように語る。


「家出少女。友人の父親との不貞がバレた所から学校には通わず中卒。仕事も転々として、一処にいる事を好まない傾向なのか、長続きしていないようだな。」

「何が言いたいんですか。」


 最初から疑った言い方と偏見が見えて、階級上位者だと言うのに僕は食ってかかる。すると彼の年季が入った唇の動きは、僕が一番言葉にして欲しくない単語を発していく。


「他国のスパイ。俺達はまだマヒルは存命で、ムタはその協力者、顔の知っている者を消して回ってる。その容疑をかけているんだ。」


 耳に入って脳みそが直撃していく衝撃は、怒りというエネルギーを引き出した。

 抑えろ。拳を締めて耐えるんだ。ここで反抗した所で容疑が深まるだけだ。


「……ふむ。思いの外、感情を出さないな。」

「それは絶対に違うという確信があるからです。」

「そうか。それでは、お前名義のスマホはどこにある?」


 突然の刺しに意表を突かれてしまう。息も考えも止まった途端に、アララギのいやらしい笑みが浮き上がる。図星だと知られてしまった。


「なるほど。経緯はどうあれ【お前名義で買ったスマホ】は【誰か】が持っているということだな。」


 確かに貸した。親の名義を使えないマヒルの為に、契約したことがあったからだ。だがそのスマホの行方は確かに分からない。誰かが持っているという疑いを否定できない。


「すみません…そのスマホについては確かにありました。今は行方知れずで…。」

「ならなぜ解約しない。」

「解約し忘れていました。次の外出で解約するつもりです。」


 鋭い。アララギの確信を持った指摘は、深く胸に刺さるようだ。

 だが、嘘はついていない。解約し忘れていたあのスマホは、マヒルの自殺を知った時から行方は知らない。


「何を考えてるのか。何を隠してるのか知らんがね。ここまでくると全員怪しく見える。」


 椅子から立ち上がり、僕の顔にアララギは近寄っていく。彼の瞳に映る自分が見える程切迫した。

 図星と真実。そして疑惑の花を咲かせ、毒樹の果実が差し出される。


「お前もムタも。実は他国のスパイだったりしてなぁ…。」


 顔を近づけ、表情が見えない顔で、眉唾な言葉を吐き出すアララギに僕は吹き出してしまった。カマかけにしては下手すぎる。


「???」


 突然笑いだした事に自分でも驚いた。拍子抜けするほど現実味を感じなくて、僕が笑ってしまったからだ。


「いえ…すみません。本気でそんな事を言ってるのかと思うと…笑ってしまいました。」

「ますますお前という奴がわからなくな______________」


 シリアスな雰囲気は僕の笑いで茶を濁させる。すると、アララギの胸元から着信音が鳴り響き、胸ポケットからスマホを抜いた。

 しかめっ面で着信に応じるアララギの顔は、またもや笑顔が浮き出した。



 















 多目的室に置かれたのは机。その上にはノートパソコン、USB端子に接続された指向性マイクと小型アクションカメラがセットされている。

 僕はその机に向かいながら、横で立っているアララギの説明に耳を傾けていた。


「現在、ムタが関与しているとされる暴行事件が茨城で起こっている。目撃者は死んでるか、話せないほどの重傷者。その中でも一番最新の事件では生存者がいた。」

 

 彼の話口から僕がスマホを隠し持っていることは、いまだバレていないことがわかる。とはいえ、まだムタを捕らえられないのは流石に職務怠慢じゃないのか。

 そんな事をかんげているうちに、顔写真付きの男の経歴書と調書が添えられた。金髪スカジャン。平成の不良のような見た目の男が真顔でこちらを睨んでいる。


「黒木一樹。22歳。仲間にはクロと呼ばれているロクデナシだ。薬を売りさばいたり詐欺をしたり、今どきの半グレ集団に加担していると思われる。」


 これは一体何の説明だろうか。わからなさ過ぎて、僕は質問した。


「それで…僕に何しろって言うんです?」

「マヒルのこと、ムタのこと。全部引き出せ。なくなるまで絞り尽くせ。」

「……なんで僕_______」


 半笑いで返した言葉が気に食わなかったのか、アララギは僕の髪を後ろに引いて、表情を変える自由すら奪った。

 斜に構えた反応だと、自分でもわかる。だからといって髪を掴んで後ろに引くことはないだろう。


「いい加減反抗的な態度はやめてもらおうかお客様。」

「や、やめ___」

「経歴の分からない女絡みの半グレ集団、それを恋人にしていた訳あり自衛官、その友人。お前らの身分を疑わざる負えないだろう。こっちは次の犠牲者が出ないように踏ん張ってんだ。だから言う通りにしてもらおうか。」


 アララギの指から解放され、頭がもとの位置に戻ると、パソコンは立ち上がり始めた。


「向こうの拘置所とこのパソコンは繋がってる。今からお前に、事情聴取をしてもらおう。」

「……こんな怪しいやり方で、話してもらえるんですか?」

「それはお前の腕次第だな。取り繕うのは得意だろ?」


 無理やりな会話の強制にまだ気が向かない。だが、パソコンの接続が終わって、スピーカーから音声らしき物が垂れ流され始める。やるしかなさそうだ。


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