41話 「 」
その日の夜。
私はずっとマスターの部屋の前で立っていました。ですが、部屋に入るのを躊躇っていました。
本当に、マスターの『父親』の情報は私にとって必要なのでしょうか。
逆に質問してしまうことで、マスターを傷つけてしまわないでしょうか。
いくら考えても結論が出ませんでした。
「あれ、ミズハじゃん」
階段の下から、様子を見かねた白鷺さんが声をかけてきました。
「何してるの?待ち伏せ?」
「違います」
「じゃあ何?」
「マスターに…聞きたいことが」
「寝かせておいたら?風邪ひいてるんでしょ」
「それはそうですが…」
「それとも…『家族関係』とか?」
白鷺さんが何気なくその単語を口にしました。
「…」
「図星かあ…まあ、かなでは自分から話すようなタイプじゃないし。私からでよかったら聞く?」
「…いいのですか」
「別に家じゃなくていいでしょ?ドライブしながらとか」
「…分かりました」
大人しくGRカローラに乗り込み、白鷺さんの運転で出発しました。
「で、何が聞きたいの?」
「マスターは、家族との仲が悪かったのですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだよね。たった一人を除いて」
「…なるほど、『父親』ですか」
「正解。さすがに気付くよね」
「はい」
「あの人はねえ…暴君というか独裁というか。はっきり言えば毒親」
「それほど酷かったのですか?」
「例えば、
・電気を消し忘れた
・靴を揃えなかった
・音楽を聴いていた
・スマホでゲームしていた
・学校の成績で、順位が低かった
・相槌を返さなかった その他もろもろ…。
これでも全部じゃないの。しかも、ほとんど説教で三時間ぐらい座らせられたわけ。
日によっては『俺が満足するまで付き合ってもらうからな』って。その結果、夜中の十二時まで続いた日も…。
かなでってさ、メンタル的に弱いところがあるの気付いてる?」
「…薄々は」
「じゃあもっと知らなきゃ。
で、日に日にメンタル削られて、耐えられなくなった。高校の担任にカウンセラーまで頼った。
でもそんなある日に、かなでが失踪したの」
「失踪…」
「スマホの位置情報も完全に切って消えたの」
「…それでも、見つけたのですか?」
「そう。前にかなでのスマホのマップにピンが立ってる場所があったのを見たから、そこを虱潰しにね。
で、徳光で見つけたの」
「マスターは、何をしていましたか?」
「…空を見てた。音楽聴きながら」
一番最低だったこと。
『部屋のクローゼットに、■禁本が何冊も入っていたこと』
自分の口でカウンセラーに言うのも嫌だった。
母親に言うのも辛かった。
しかも、何年も前から入っていた。…となると、見つけてしまうまでずっと同じ空間にあったということ。
最低。




