本気で心臓に悪い…。
「翫さん、『IGBT』って何ですか?」
十二時半を回った頃、駅の事務室で休憩していると加賀谷が質問してきた。
「IGBT…ああ、『絶縁ゲートバイポーラトランジスタ』ね」
「絶縁…何て言いました?」
「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ」
「長い…」
「それが正式名称だから。決して『LGBT』ではないから間違えないように」
「あ~…ついさっきまでそう思ってました」
「マジか…別物だよ?」
「それで、どういうものなんですか?」
まずは『蛇口』を想像してもらおう。
IGBTには三つの端子『ゲート』、『コレクタ』、『エミッタ』がある。
• G:スイッチのON/OFFを切り替える制御端子。これが『ひねるハンドル』。
• C:主電流が流れ込む端子。これが『元栓側の太いパイプ』。
• E:主電流が流れ出す端子。これが『出口側のパイプ』。
そしてゲートというのは、一秒間に数万回という超高速でONとOFFを繰り返している。
『電気の激流を、安全に・ロスなく・超高速でコントロールする、魔法の電子蛇口』とも言えるわけだ。
521系に搭載されている主整流器は、IGBT素子を使用した自冷式PWMコンバータ。冗長性の観点からコンバータは2台並列接続とされ、故障発生時には片群を解放することで出力制限により運転を続行できるようになっている。
鉄道以外にも、太陽光発電のパワーコンディショナー、無停電電源装置にも使われている。
「…へぇ」
「理解してないよね、その相槌」
「してますけど?」
「ダウト」
正直…僕でも曖昧である。
「じゃ、僕はそろそろ業務に—」
カバンを手に取り、席から立ち上がろうとしたときだった。
全員のスマホから、緊急地震速報の通知音がけたたましく流れ出した。
「え、地震!?」
僕ら乗務員だけじゃない。駅にいた人々のスマホからも鳴っている。
「い、翫さん。マグニチュードが…9.9って」
「は?」
それ誤報じゃ…?
とにかく情報収集をするために、様々なサイトを駆け巡ってみた…が。
「グーグルもヤフーも立ち上がらない…」
「Xもダメです…!」
やっぱり、全国で一斉に集中しているからだろう。
あいにく、ミズハはIR23(54番)で小松まで向かっている最中だ。この場にはいない。
「……まだ揺れませんね」
「言われてみれば確かに…」
周りでも戸惑っている人が多くいた。それだけ大規模なら、とっくに揺れているはずだけど。
そして八分ほど経過したとき、またスマホから通知音が鳴り響いた。
「…取り消しですって」
「やっぱり…本当に揺れなくてよかった…」
「いや~、焦りましたね」
「焦るどころの話じゃないって…本当に、心臓に悪いんだからあの音」
まだATSの音の方がマシである。
イヤホンしてても貫通してきましたよ…。マスター31のイガクの途中で鳴り響いたんですから。




