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9 隣国までの道のり

 俺には護衛はもう要らないと言うと、付かないくなった。あっさりした物だ。今は、マーカスに護衛が付いている。

 別に寂しくは無いが、貴族やその周辺の考え方がよく分かる扱いだ。

 彼等は、領主という女王蟻を働き蟻が守っている構図なのだ。女王蟻が居なくなれば家臣は路頭に迷うのだ。

「今更、自由になれても遅いがな」

 どっちにしても召喚者の俺は使い潰される運命だ。今日から暫く魔の森へ行くと決めて、使える様になった異空間収納に食い物などを沢山詰め込んだ。

 腰に一メートルほどの魔法の杖を差して、剣や刀は収納に入れておく。これからはなるべく魔法で魔獣を倒してみる。

 今出来るのは雷魔法と水魔法それに異空間魔法の小部屋と収納だけだ。火魔法や、土魔法というのも組み込まれていたが、時間が無くて検証出来ていない。取り敢えず俺が気になっていた魔法だけを練習してきたのだ。

 どれほど使えるかは定かでは無いが、魔法が使えることは皆には秘密にしている。これから俺が自由になる為には、俺が魔法が使えることを絶対に知られてはならない。

 誰にも知らせないで、街を散策する振りをしながら、ルクセンの処へ魔馬に乗って来た。

「ケンジ、魔の森へ行けるようになったか。今から行くけど、一緒に来るか?」

 以前の約束を覚えてくれたようだ。

 もう直ぐ春になるとは言えまだ冬だ。ここいらには雪は降らないが、寒いことには変わりは無い。パーティーメンバーは皆着ぶくれしてもこもこだ。

 パーティーの皆も魔馬に乗って、魔の森へ出発する。途中まで行って別行動をする予定だ。一人で行くことも考えたが、俺の顔は知られている。一人で森へ行くとなると騒ぎになるし、目立つだろう。冒険者と一緒ならば、カモフラージュになると思ったのだ。

「ケンジ、腰に差しているのは何だ?新しい武器か?」

「そうさ、タクミに特別に作って貰った武器さ。誰にも知られないように使ってみたいんだ」

 この間、騎士の一人から、冒険者ギルドで飼っている魔馬は長生きするようだと言う話を聞いた。俺はそこから仮説を立てた。定期的に魔の森へ行っているせいか、若しくは、生きた魔獣を殺して食べるせいで寿命が延びているのでは無いかと。

 マロは魔馬の横を走って付いてくる。マロの毛皮は、冬になって益々ふさふさになった。色も灰色から黒色に変化して御殿眉の白い部分がハッキリ分るようになった。もうグレイウルフとも似ていなくなった。ブラックウルフという魔獣が居るかどうかは知らない。マロだけ特別なのかも知れない。

「分かった。気を付けろよ。武器を使うのも秘密にしないとダメだなんて。貴族はめんどくせぇもんだな」

「森の奥には行かないし直ぐに帰るから心配要らないさ」

 森の中に入り、メンバーと別れ暫く待ってパーティーメンバーがいなくなると、俺は一人森の奥を目指した。途中二十数体の魔獣が飛び出してきた。「雷火!」俺が発動呪文を唱え雷を放つ。魔法の雷はバリバリと音を立て、まるで毛細血管のような細かい網目状に俺達の周りに広がり、近くにいた総ての魔獣を痺れさせ、動けなくさせた。そこにすかさずマロが飛び掛かり噛みついて魔獣達を屠って行く。

「マロ、よくやった。凄いぞ。もっと魔獣を遣っ付ければ、お前もレベルが上がるはずだ。そうすれば長生きできる・・・・かもな」

 俺が乗っている魔馬にも痺れた魔獣を食わせてみる。マロも食っている。残った魔獣は収納に入れておく。雷魔法はまだレベルが低いせいか、魔獣を直接倒す事が出来ない。だが、広範囲に掛けることが出来るのは良い。

 俺のもう一つの思惑はマロのレベル上げと、寿命を延ばすことだった。魔獣を倒せば魔力が上がり、マロも聖獣と同じになれるのでは無いだろうか。もし聖獣になれなくても寿命は延びるのでは無いか。

 これから魔王まで進化したという魔獣か魔物を二人で倒さなければならないのだ。マロにもっと強くなって貰いたい。そしてマロのトラウマを克服して欲しい。マロの怪我は治っているはずなのに声が出ないのは、心の問題では無いかと考えたのだ。

 マロは魔獣を倒した後、具合が悪そうだった。レベルが上がった印だ。「小部屋!」俺は異空間の小部屋で、マロを休ませた。小部屋は魔馬と俺も入ればもう一杯だ。皆でぎゅうぎゅうになって休むしか無い。そんなことを繰り返し3日ほど森の奥でレベル上げと俺の魔法の練習を続けていった。

 そして、更に三日経ち、マロの身体に変化があった。今までは大型犬くらいだったマロが子馬ほどの大きさに急成長した。もう少し大きくなれば、俺が乗れてしまうのでは?

 更に森の奥を目指して進む。泉に近づくと、マロは途端に怖じ気づき始めた。俺のマントを加え、引き返そうと必死だ。

「マロ辞めろ。マントが破けるじゃぁ無いか。大丈夫だ、マロ。お前はもう大きくなったんだ。誰にも負けないし、もしもの時は俺が守ってやるから」

 俺はマロの首を抱きかかえ優しく言い聞かせる。すると落ち着いてきたマロは、俺の肩に首を預けて「・・・クーン」と小さくかすれた声で鳴いた。

「ッ!マロ、声、出せたじゃ無いか」

 マロの毛皮に手を差し込んで思いっきりなで回した。マロも嬉しそうに小さくクンクンと鳴くのだ。


 泉には魔獣もフェンリルも居なかった。泉の水が揺れている。

 水竜が泉を悠然と泳いでいた。六個体、大きな角のある水色の竜だ。手足は短く、水かきが付いていた。俺達が近づいても気付いていない。どうやら交尾の真っ最中だったようだ。

 泉の辺に陣取り、交尾中の水竜に魔法を放つ。「雷火!」だが、雷の魔法は途中でかき消えてしまった。よく見ると、円形状の水のドームに守られているようだ。表面を触ってみると凄い勢いで弾き飛ばされてしまった。

「結界があるようだ。流石竜だな。無防備な交尾中だ。当たり前のことだ。」

 ――だが、水の結界は凍らせれば良いはずだ。

「氷華!」

 結界は薄い氷の壁に変わって、衝撃を与えると脆くパラパラと崩れ落ちてしまった。俺はそこにすかさず「雷火!」と魔法を放った。

 水竜達は、一瞬何があったか分からないような顔をして痺れたまま動けないでいる。

「丁度良かった。竜には悪いが、俺達のレベルの糧になって貰う。雄一頭、雌一頭は残して後はもらい受ける!」

 水に浮かんで痺れている小さめの竜(多分、雄だろう)を魔馬に結わえ付けて、次々と泉から引き上げる。一頭は魔馬に噛みつかせた。残りをマロにやらせる。

 死骸は、収納へしまい込んだ。水竜は俺達を追ってこられない魔獣だ。水の中だけでしか生きられないはずだから。もし追ってきたら、返り討ちにするまでだ。

 もうレベル上げはいいだろう。泉の側を離れ、具合の悪いマロと魔馬を休ませ無ければならない。試しに、今見た水の結界を張ってみた。簡単にできてしまった。水の結界は、異空間で作る小部屋より魔力が少なくて済むようだ。

 魔法の杖を持たなくても、魔法が使えるようになっている。若しかするとこの杖は、魔法操作を覚えるためのツールなのでは無いか? マロ達が元気になった頃合いで、森から離れ帰路についた。

 森をでて暫く行くと、大きな白い狼が俺達の後を追いかけてきた。フェンリルが泉を守っているというのは本当だったようだ。

 白い毛皮に、赤い目。口をぐわっと開くと口の中も赤い。牙は二十㎝もあろうかと言うほど大きい。マロの母親だろうか。それとも違う個体だろうか。

 大きさはマロの五割増しだろう、圧力は数段上だった。怖じ気づいていないかマロ? マロを見ると、じっと動かず、相手を見て威嚇にも動じずに警戒している。

「グルルー」威嚇していたフェンリルがマロに飛び掛かってきたが、マロはサッと飛び上がり後退して、そして直ぐさま飛び掛かっていった。白と黒が入り乱れてゴロゴロと転がりながら、相手の首に噛みつこうとしている。

 あの優しく大人しかったマロが別の生きもののようだ。阿修羅のような形相で、必死に食らいつき、俺が手出しをしよう物なら、こっちに攻撃されそうな勢いだ。

 俺は手助けをするのを堪えた。これはマロの戦いだった。多分マロの母親なのだろう。マロが親を乗り越えるための戦いなのだ。自然の厳しい掟だ。

 何時間経ったのだろう。お互い満身創痍の状態だ。瞬間フェンリルが目を森へやった。その隙にマロが相手の首に食らいつきそれで勝負は決まった。

 俺はその後マロがどうするか見守っていた。マロは、親であろうフェンリルの腹をかみ切り、中から何かを咥えて出し、それをかみ砕き始めた。

「ゴリゴリ・・・」

 ――魔石を食っているのか?

 森の方を見ると、白いもう一頭のフェンリルが尻尾を巻いて逃げていくところだった。

「あの時の・・・マロの兄弟か」

 マロはもう満足したのか俺の所へ走ってきた。そして褒めて!と言う風にキャンと鳴いた。俺はマロに治癒を掛けながら精一杯褒めてあげた。

 フェンリルの母親の身体はボロボロの状態だ。試しにリペアーを掛けて見ると綺麗な状態に戻った。死骸はまた収納行きだ。そうしている内にマロの身体が変化しだした。親と全く同じ姿になって仕舞った。これでは領へ連れて行けば騒ぎになって仕舞う。

「マロ、お前、森で待っていてくれないか。俺が隣国へ行くとき、付いてきて欲しい。いいか?」

「キュン!」

 大きくなったが、鳴き声が妙に可愛いな。マロは森の中へ走っていった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ケンジ、ナウシス伯爵の騎士達が到着した。これから遠征に行くんだな」

 ボッサムが悲痛な顔をして、俺を見ている。多分ボッサムは知っているのだろう。彼の知り合いというのは、寄親であるナウシス伯爵だったのでは無いか? 自分のせいで、俺が隣国へ行く羽目になったと考えているようだった。

 だけど、それは結果としてそうなっただけだ。どのみち召喚者の俺はそう言う運命だった。唯一良かったのは、タクミが目溢しされたことだ。それにボッサムのお陰で、俺のレベルを上げることが出来たし、タクミもレベルが上がった。タクミは伴侶を見付けることが出来、この領で生きていけるのだ。感謝している。だが、俺はもう二度とここへは帰ってこないだろう。

 工房の机には、メグに宛てた手紙を置いてきた。俺は死んだことになるはずだ。本当に死ぬかも知れないが、その時のために彼女を自由にしてやるための書類だ。

 俺の魔馬はそのまま遠征に連れて行く。みんなこの魔馬が妙に生き生きしているのを不思議に思っているようだ。だが秘密は一人だけに教えてある。タクミには魔馬に、生きた魔獣を食わせればいいと教えて置いた。彼は、

「これから魔馬を売り出すことにする。義父の仕事に大いに役立つと思う」

 そうだ、沢山儲けさせてやれ。お前のお陰でこの領も潤っていくだろう。

 タクミが誂えてくれた防具に身を包み、タクミ特性の槍を持った。この槍は魔力を通すそうだ。俺はもう魔法の杖が無くても魔法が使えるようになった。

 あの杖は、魔法のスキルを覚えることが出来る杖のようだった。だから、タクミにまた持たせたのだ。タクミはまだ若い。いつか魔力が上がれば、タクミも魔法が使えるだろう。そうすれば、理不尽な奴らに対抗できるようになるはずだ。

「召喚者ケンジ、そろそろ出発するぞ。早くしろ」

 ナウシス伯爵領の騎士団の責任者が、そう言って馬を走らせた。この騎士はまだ十八歳だという。責任者にしては、余りにも若い。

「ああ、その前に魔の森へ寄ってくれ。俺の相棒がいるんだ」

 隣国はここから北西に進んだところにある。南側に面した魔の森へ行くと回り道になるが、マロを連れて行かねばならない。

 俺が森に近づくと直ぐにマロが走り寄ってきた。騎士達は皆、武器を構え警戒している。

「よせ!俺のペットだ。怖がらなくてもいい」

「ぺ、ペット? これは魔獣では無いか」

「ああ、魔獣だが大人しい。この魔馬と同じだ」

「・・・・・」

 俺らは北西にある、なだらかな高原を越え、隣国への道を進んだ。これから半月かかる長い道のりだ。三十人居る騎士達の食料は途中にある隣国の村を廻って、調達しながらいくそうだ。俺はダミーの荷物入れから食い物を出すふりをして収納からだして食べ、偶に草原にいる小さな魔獣をマロに狩らせている。

 魔馬も鞍を解いて、放してやると勝手に魔獣を捕らえて食っている。水は、隠れて魔法で出してやっている。騎士達は俺の世話をする気はもとより無かったようで、俺は彼等から離れて、勝手気ままに過ごすことが出来た。

 偶に大型の獣をマロが仕留めたときは、騎士達にも振る舞ってやった。騎士達は感謝するわけでも無く、当然の権利だという風に、マロが取ってきた肉を食っている。呆れて物が言えない。ありがとうの一言も言えないとは。

 ――俺一人の方が早く着くんだがな。

 面倒だから黙っているが。彼等は戦いに行く訳では無く、俺が逃げないように見張っているのだ。魔王を討伐しに俺が行けば、直ぐに国へ報告しに帰ることだろう。


 半月と少し経って、やっと隣国カナルの王都カナルアへ入ることが出来た。いや、ここは王都とは言わないようだ。首都カナルアと言っている。ここは貴族議員で成り立つ国だった。議会が選挙をして五年に一度、国の最高責任者を決めている。

 貴族制自体はある。世襲制だ。だが、国の最高責任者は、世襲制にはしないようだ。何となく好感を持った。神殿の力はそれほど大きくは無いようだ。魔法を使えるスキル持ちや、普通のスキル持ちが少ない国なんだとか。

 若しかしたら、異世界からの召喚者がいないためではでは無いだろうか。

 モンダン国は昔から召喚を頻繁に行っていた。彼等召喚者の遺伝子がスキル持ちを多く生んだのでは無いのか?

 国王の権限はそれほど大きくは無いようだ。貴族の方が幅を利かせている。

 その弊害もある。貴族同士の諍いが絶えないようだ。それぞれが大きな力を有していて、まるで小さな国の集合体だ。一応は国として纏まってはいるようだが。

 この国の北側半分が魔の山と言われる山岳地帯だった。大きな土地を有する国だが、実情は魔の山が大半を占めていた。その魔の山には魔獣が沢山居て、昔から素材の宝庫だったそうだ。だが数年前から山が鳴動するようになって、魔王が生れたのではと、国民が恐れている。

 山に入る冒険者もいなくなってしまった。勿論、魔物素材も取れなくなり、鉱山からも人が逃げ出して、鉱石も取ることが出来なくなってしまったそうだ。

 早速カナル国の総裁と言われる最高責任者に挨拶をしに王宮? へ出向いた。

「良く来てくれた。勇者ケンジ。魔の山へ入るには苦労するだろうが、何とかよろしく頼む。我が国が不甲斐ないために、貴殿に力を借りることになって仕舞った。許してくれ」

 モンダン国王とは違い、この国の総裁は、きちんと礼儀をわきまえているよな、と思った。

「粉骨砕身、この身に変えても、魔王を討伐して参ります」

 つい、気張って言ってしまった。この国の為なら頑張れる気がしたからだ。

  だが一人になって、もう一度冷静になって考えてみた。

「俺のこの姿勢が・・・お調子者の性格が自分で窮地に陥る元だったんだな。俺って馬鹿だよな」

 隣にいるマロは、俺に寄り添って賢明に俺の顔を舐めている。

 俺を慰めてくれているようだ。

「お前だけだな、俺の気持ちを分かってくれるのは。俺は人のためになろうだなんて考えたことも無いんだ。だがつい、調子に乗って仕舞って、良い人になろうとするんだ。偽善者だな。めっちゃ恥ずかしいよ」

 だが、もうこれで終いにする。魔王を倒すにしろダメだったにしろ、これで俺は自分を変える。もう辞めよう。人に振り回されるのは。

 人がどんなことを言ってきても俺は絶対に動じない!俺は俺の道を行く。

 次の日、俺は魔馬とマロと一緒に魔の山へ向かった。

 

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