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1. 婚約破棄と前世の記憶 

全6話になります。

お暇な時にご覧下さい。


*誤字脱字報告、ありがとうございます。

いつも助けて頂いています!

 

「マーガレット。お前とは明日の卒業パーティー後、1年経ったら結婚する予定だったな」


 黒髪に黒い瞳の美しい青年、ケント・ゴードン侯爵令息が婚約者のマーガレット・クラウン伯爵令嬢に冷たく言う。

 ここは王都にあるクラウン伯爵家のタウンハウス。

  手入れされた庭にあるパティオに向かい合って座るケントとマーガレットには、結婚を控えた婚約者同士という甘い雰囲気はない。



 ケントの親であるゴードン侯爵が家業に必要な許可を取り易くするため、代々法律を家業とするクラウン伯爵家に強引に取り付けた婚約。

 意に反する婚約に反抗し続けたケントがマーガレットのタウンハウスを訪れたのは、14歳で婚約を結んでからの4年間で初めてのことである。


  明日の卒業式を終えると、一気に結婚の準備が始まる。

 そんな時期に、今まで婚約者としての責務を無視していたケントの突然の訪問。

 少し離れたところで見守っている家令や侍女までも、ただならぬ空気を感じながら控えていた。


「我が侯爵家の仕事を円滑にする為には、クラウン家の力が必要なのは分かっている。だから頭だけ良い、淑女の鑑としか褒めるところの無い、地味で面白味の無いお前と結婚するのも仕方の無いことだと諦めていた」


 今にも手を出さんばかりに、マーガレットに言葉を吐き捨てるケント。

  よくは聞こえないが、我が伯爵家の大事なお嬢様が酷いことを言われている。

 そう思い、思わず一歩を踏み出しそうになった若い侍女を、マーガレットが目で制する。



「そんな時にアン・ホワイト伯爵令嬢、彼女の存在を再認識したんだ」


 固まったままで何も言わないマーガレットを見て、ケントはニヤリと笑い続ける。


「以前からアンの存在は知ってはいたんだ。ただ、ホワイト伯爵家はパッとしないので、我が侯爵家の益にならない。だから興味は無かった。しかし、同じ学園に入学して彼女の明るさ、華やかさ、爛漫さに心を奪われたんだ」



 クラウン家という後ろ盾がなくても、ゴードン侯爵家の家業が上手く行かなくなる訳ではない。

 クラウン家からはだいぶ知名度や財力は落ちるが、ホワイト家も伯爵家。侯爵家と縁を結ぶのは十分な家格だ。

 親には事後報告にはなるが、跡取りであるケントの我が儘は多少は聞いてくれるだろうし、実力で黙らせることもできるだろう。

 そうケントは考えたらしい。


「どうせ同じ伯爵家から貰うなら、親の決めた婚約者より自ら選んだアンがいい。悪いが身を引いて貰いたい」


 全く悪くなさそうにケントはそこまで一気に言うと、カップの紅茶をぐいっと飲んだ。

 それでも動かないマーガレットにケントは、アンの可愛らしさとマーガレットの愛嬌の無さを説く。



 マーガレットだって、この婚約がケントの望むものではないことは分かっていた。

 ケントが冷たいのは決してアンとの出会いからではなく、婚約した当初からだった。


 初対面の時、マーガレットの優秀さを侯爵夫妻が褒める隣で、暗い表情をしてこちらを睨んでいたケントを覚えている。

 この婚約者と打ち解けられるのだろうか……

 そんな不安はすぐに現実となる。


 婚約してからケントに優しい言葉を掛けられたことは一度も無く、それどころか冷たい態度ばかり取られていた。

 学園に入ってからもそんな調子なので、周りの学生にはいつ婚約が解消されてもおかしくない二人と有名だった。


 普通、婚約者はランチや登下校を一緒にする。

 ケントから誘われることはもちろん無く、マーガレットが誘っても無言で睨むばかりなので、早い段階でマーガレットからも話しかけなくなった。


 それでも所詮は貴族の婚約、いずれは結婚するものだし、今はそんなものだと思いマーガレットは耐えていたのだ。



 やや目線を落とし、いつも通りの綺麗な姿勢のまま固っているマーガレットを、ケントは冷たく一瞥する。

 頃合いだ、とケントは飲み干した紅茶のカップを置いて席を立とうとした。その時、


「……メン……せに」


 腰を上げかけたケントがマーガレットの小さな声に気付く。



 何を言ったのかよく聞こえなかったが、最後に恨みごとをいうような女だったか。法律家一家に生まれ淑女の鑑とまで言われるマーガレットは、所詮はこの程度の女なんだ。

 そう思い更に軽蔑の目をマーガレットに向けたが、そのタイミングで顔を上げたマーガレットのグレーの瞳を見た時、雷に打たれたようにケントの体に電流が走った。


 マーガレットの瞳の色は変わらない。瞳の色も顔も姿も何一つ変わらない。


 変わらないはずだが、今までのマーガレットとは明らかに違う。そしてマーガレットの纏う雰囲気が変わったのだと気付く。


()()()()()()()()()()()()()()


 マーガレットの口から、ケントが聞いたことのない低くドスの利いた声と、ケントが聞いたことのあるセリフが吐かれる。



 マーガレットと吐かれたセリフとの違和感、そして、そのセリフの意味を理解できている自分への違和感。

 しばらく二人は無言で見つめ合った。



「「……え?!」」



 そのセリフを聞いたケントはもちろん、そのセリフを吐いたマーガレットもびっくりして思わず声を上げる。

 マーガレットはマーガレットで、なぜそのセリフが口から出たのかその瞬間まで理解出来なかった。

 そして、理解した。


「「……」」


 一言も言葉を発することなく見つめ合うその時。二人はあることを思い出していた。



 二人が『権藤健斗』(ごんどうけんと)『倉田ハナ』(くらたハナ)だったことを。


 高校生から付き合っていたことを。


 高校を卒業してフリーターをしていた健斗が、大学生のハナのアパートに転がり込んでいたことを。


 バイトが続かずパチンコばかりする健斗に何度ハナが別れを告げても、健斗が泣いて縋って絶対に別れないクズ男だったことを。


 最後にハナが健斗に言い放った台詞が「メンヘラおっぱい女とお幸せに」だったことを。



 そして、その直後にトラックとぶつかった。が、その後の記憶が無いことを……



 

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