第二章 過去の話(5)
翌朝、いつもより20分ほど早く起き、登校するのが楽しみで布団の中で悶々としていた。
普段なら学校へ登校するのは朝礼の5分前なのだが、いても立ってもいられなくなり、いつもより早く家を出てることにした。
教室に入ると普段は8割型席が埋まっているのだが、まだ席は半分ほどしか埋まっていない。
俺が自分に席に着くと縦島が寄ってきた。
「今日は来るの早いじゃん」
「まあな…」
俺は七瀬と話せることが楽しみで早く来ただなんて恥ずかしくて言わなかったが、恐らく縦島はその事に気づいていたと思う。
誤魔化すように俺が縦島に饒舌に今流行りのスマホ版FPSの話をしていると縦島は気まずそうに言ってきた。
「あぁ……さっきさ……七瀬が教室来たんだけど……」
七瀬というワードで出てきて俺の心臓は飛び跳ねた。
俺のそんな反応を見て縦島はさらに暗い顔をして続けた。
「……祭りの日は予定あるから行けないって、伝えといてくれとさ」
予想外の展開に俺は呆然とした。
昨晩、断られるイメージももちろんしていた。だから断られてもダメージはそんなに大きくないはずだった。
なんなら七瀬と話せるというのだけでプラスだ、とすら思っていた。
だが現実では七瀬と話せることは無く、友人へのことずてで断られてしまった。
かなりのショックに意気消沈していた俺に現実はさらなる追い打ちをかけてきた。
「おい、石沢、お前七瀬に振られたんだって」
周りからの嘲笑の声が俺に降りかかる。
俺の好きな人が七瀬という話題が広まっていたことも相まって、俺が振られたと噂は恐ろしい速さで拡散された。
俺としては告白はしていないのだからフラれてはいないだろ、という言い分なのだが周りからしたら祭りに誘って断られたのは告白してフラれたのと同じようなものらしい。
最近は七瀬のことでダル絡みなども多かったので俺は七瀬ことはもう好きじゃないといって、その後の冷やかしをくぐり抜けることにした。
実際のところはこの程度の事じゃ揺るがないほど七瀬ことが好きだったのだが、俺は気持ちを心の隅に押しやり、平然とした態度を取っていた。
そのせいで七瀬の友達からは最低だの、なんだの、と言われていたが俺は何とか耐え凌いだ。