1
鶴小島にある東城高校。ジュンたちの異界では、地元で一番の進学校として知られていた。近隣に住む多くの生徒たちが集うこの高校だが、今ではその姿にかつての面影はほとんど残っていない。
ローデン率いる集団が、この高校を兵器工場に改造してしまったのだ。その姿はもはや学校とは呼べず、要塞と表現する方が正しいだろう。その要塞の最上階、威圧的な一室にローデンがいた。
ローデンの耳に入ったのは、部下からの報告だった。どうやら近くの囚人たちが反乱を起こしたという。反乱が起こることは、想定内の出来事だ。しかし、次の報告にはローデンも少なからず興味を惹かれた。
「ファランが倒された」
ファランはローデン直属の部下ではない。ギガロの配下であり、彼の敗北そのものはローデンの計画に大きな影響を及ぼすわけではなかった。それでも、この事実は無視できない。ローデンは内心で苦笑いする。ギガロには少々申し訳ないことをしたと思った。許可も得ず、彼の部下を使い、結果的に敗北させてしまったのだから。
そのとき、大きな足音が廊下を響かせた。部下たちの制止する声も聞こえるが、その足音は止まる気配がない。そしてついに、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。
「ローデンはいるか?」
怒りの籠った声。扉の向こうには、やはり予想通りの人物が立っていた――ギガロだ。
「やあ、ギガロ。来ましたか」
「理由は分かるな?私の部下を勝手に使った挙げ句、敗北までさせるとはな」
「仕方ないじゃないですか。彼が無能すぎたのですよ」
ローデンの余裕たっぷりの口調に、ギガロは舌打ちをした。以前、ジュンとリズが戦った時のギガロとは雰囲気が違う。今の彼の態度こそ、本来の姿なのだろう。
「リフィリア王国の攻略はお前の担当じゃないだろう。何をしている?」
「私は別の任務があってここにいるのです。その任務は既に完了しました。ついでにリフィリア王国の攻略も手伝おうと思っただけですよ」
「いちいち鼻に付く奴だな」
ギガロにとってローデンは嫌味な存在だったが、組織内では幹部クラスの同格。さらに、ローデンは一度も任務を失敗したことがなく、着実に成果を挙げている。嫌味な男だが、無視できない存在だ。
「とはいえ、リフィリア王国の攻略は順調とは言えないんじゃないか?」
「大丈夫です。まだ計算の範囲内ですよ」
「ほう、そうか。だが、ファランを倒すほどの相手だ。リフィリアの奴らも侮れないんじゃないか?」
ギガロはふと、タワーでの戦いを思い出す。
「まあ、油断はしていません。セト騎士団長のような相手にも遅れを取らないように準備していますから」
「セト騎士団長が危険なのは確かだが、本当に怖いのは別の存在じゃないのか?」
ギガロの脳裏に、一瞬浮かぶ記憶。かつて自分のレプリカが、まだレベル1でジョブバッジを手に入れたばかりのジュンに敗れたこと――その屈辱が、彼の心を陰らせる。ジュンがローデンの前に立ちはだかるようなことがあれば、果たしてどうなるのか…。




