第102話 実力差
息をのみ、その瞬間を待つ。
俺はただ空を見上げ、送り出した生徒たちを見守るのみだった。
これから運命の一戦が行われようとしている。俺の……今後の人生を賭けた大勝負が始まろうとしているのだ。
『さぁ、両者位置につきました! いよいよ決勝戦第一試合目、空術の部がスタート致します!』
―――空術競技特設バトルフィールド内
「……あんたが俺の相手か?」
「は、はい……お願いします」
「ふ~ん、まぁいいや。精々俺たちを失望させないくらいに頑張ってくれ」
煽るバトスに表情を険しくするリーフ。
ぐっとこらえ、試合だけに集中する。
「……では両チームの一番飛者の方、前へ」
スターターの指示と共に二人はスタート地点にゆっくりと近づく。
スゥーッと息を静かに吐き、集中する。そして目を瞑り精神統一、始まりの時を待つ。
「それでは、第一試合目空術の部を始めます。位置について……よーい」
リーフはゆっくりと開眼させ、目の前に広がるコースを凝視する。
そして……
「……始め!」
始まりの大鐘が高らかに響き渡る。そしてその瞬間、二人の生徒は勢いよく前へと飛び出す。
バトルジャッジ、放送席の司会者二人が試合開始の合図と同時に実況で会場を湧かせる。
「始まったか……」
リーフとバトスがスタートをしたのを地上から確認。いよいよその勝負の火ぶたが切って落とされたのだ。
滑り出しははかなり良かった。だがさすがは敵なしと言われたエリート集団だ。リーフが最高のスタートを成功させたというのに身体二つ分くらいの差がもう既に出来上がっていた。
「は、速い……! なんて飛行速度なの!」
「おいおいどうしたどうした~その程度なのか? まだまだ俺のスピードが上がるぜ?」
グングンと速度を伸ばすバトスとそれとは対称的にどんどん速度を落としていくリーフ。両者の距離は少しずつ離れていき、650m地点では既に先ほどの二倍の身体四つ分の差が出来てしまっていた。
「うーん……相手のペースに乗せられているな」
内から湧き出る競争心が彼女自身を焦らせ、肝心な冷静さが欠かれている。それによりスタミナの自己管理もできていない。差がどんどん広がっていくのは当たり前だ。
800m地点、勝負は第2飛者へと移る。依然としてその差は全く縮まらず、逆に広がっていく一方だった。
「いきなり厳しい展開ですね……」
「ああ、完全に戦い方を見失っている」
「だ、大丈夫なのでしょうか……? このままじゃ……」
負けるだろう。だがこのままの状況で終わるほど我が教え子たちは軟弱ではない。
その証拠に……
「みんな、焦りすぎよ! もっと自分の能力を活かさないと!」
上空で声を張るのはアンカーを務めるセリナだ。彼女は一番最後に役割が回って来る故にそれまでの試合の流れを近くで誰よりも長く観察することができる。
彼女は皆の焦りから生じた空回りを修正しようとしているのだ。
「焦り過ぎよマルコ! もっと冷静に周りを見て!」
セリナの声を聞き、3番飛者のマルコという男子生徒がその指示に従う。
続く4番飛者、5番飛者も彼女の指示通りに競技を進める。
(よし、いいぞセリナ。その調子だ)
空回りしていた歯車が次第に噛み合うようになり、その開いた差が少しずつ縮まっていく。
『おおっとここで1年A組、調子が出てきたか!? ジリジリと近づいてきているぞ!』
唐突なギアチェンジにバトルジャッジも驚きを隠せないご様子。
だが俺からすればこれは想定の範囲内、調子が上がった時にどこまでやられるかが本当の勝負なのだ。
試合はもう終盤戦、第7飛者へとバトンは渡される。距離では先ほどの半分以下まで縮まり、その距離は実に身体0.5個分という所まで来た。
「行ける……このままなら行けますよ先生!」
勢いに乗り始めた1年A組の姿を見て興奮するハルカ。だが勢いに乗ったとはいえ、このまま素直に行くとは到底思えない。
勝負は最後まで何が起こるか分からないものだ。
どんなに有能で力を持つ人間でも追い詰められれば当然……
「……ふむ、あのアンカーの女生徒の指示で波長を合わせてきましたか。でしたら作戦変更と行きましょうか」
3年A組第7飛者、ベルニアが唐突にスピードを落とし始める。
それをすぐ後ろで見ていた1年A組第7飛者のガルバは、
「ん、いきなりスピードが……ははーん、さてはスタミナ切れだな。こりゃ貰ったぜ」
一気に加速、そして背後から豪快にベルニアを抜き去り遂に1年A組が先行することとなる。
その瞬間を見た観客並びにA組生徒たちは大いに盛り上がりを見せる。
だが……
「……我が聖剣デュランダルよ、恩恵『身体超強化レベル2』の発動を解除、そして私にその加護を与えたまえ」
ベルニアは自身の聖剣、デュランダルから加護を受けその力を身に宿す。
そして強化を受けたベルニアは一瞬でガルバを抜き去り、アンカーへとバトンがまわる。
俺はその姿を一瞬たりとも見逃さなかった。
なぜか? それは簡単な話だ。俺が元々勝利以前に求めていたものはこれだった、というだけのこと。今回の空術競技で俺は勝利のための計画の他にもう一つ重要な計画を立てていた。それは彼らの真の力に通ずる一端を垣間見ること。そしてその絶大な力によるカラクリを暴き出すためだ。
セリナにああするよう指示を出したのも俺が立てた作戦の一端。全ては3年A組、神剣十傑と呼ばれる連中がどういう奴らなのかを知るために過ぎない。
場合によっては勝利を捨ててもいいとまで考えていたくらいだ。
だが、計画はうまい具合に進めることができた。聖剣による加護……彼らの強さの秘密をこの目に焼き付けられたのは相当大きな収穫と言える。
だがその代わりに……
『勝者、3年A組!』
力を突如解放した彼らに当然ながら我々1年A組は適応することができず、そのまま空術競技は敗北と言う形で幕を下ろすこととなった。




