12-4話 ファンタジーと恋愛小説とホラー
剛勇の遊久と異名を持つその剣士のいでたちは、朱と銀の啄木の鎧、金にて鍬形を打った前立に白金六十四間榛の兜、黒檀磨き赤道造の小手脛当嵐破の太刀に藤三郎雷光の短刀、伴には青・紫・藤色の3人の魔女と抹茶唐草の胴衣に四本特殊軍手をつけた猛き人狼をひきつれ、落雁城下の宿屋兼酒場「茶壺」にて、黄金色で少し苦くて泡が立って飲むとなんかいい気持ちになる飲み物と、何かの肉と何かの野菜で朝食を取っていた。この水準の母集団として、指揮者が鼓手というのは珍しく、また低水準の弦手も厭わないため、生活動はだいぶ先まで予定があり、一同は今回の活動で得た金を、危険と見返りが大きい貿易業者に投資した。だらだら意味のない冒険ではなく、たとえば旅を続けて、西の果ての海を見おろす虚空の城をむちゃくちゃにするとか、対立するふたつの大国にはさまれた歴史と伝統がある小国の軍事顧問となってふたつの大国をめちゃくちゃにするとか、いい気持ちになっている遊久はいろいろ考えたが、寝不足の頭ではろくな案が浮かばないし、そんな大長編になりそうな物語はもっと多面的で複雑な性格の登場人物を出さなければいけないと、何か適当な紙に覚書をしてとりあえず寝ようと、店の主に紙をもらったら、そこにはこう書いてあった。
「サマラの町で会おう」
遊久は思い出した。
*
いつもより1時間早起きして、わたし、樋浦清は特製の卵焼きを作ってみた。特製の卵焼きには特製の出汁が必要なのだが、週末の藤堂明音くんとのデートの帰りに、ショッピングモールでいろいろ材料を買っておいたのだ。藤堂くんは性格はちょっときついけど、家は金持ちで頭も顔もいいのに、こんなどう見ても普通のわたしのどこが気にいったんだろうか、とわたしは考えた。ええと、屋上で泣きながら、わたしと志展ちゃんのどちらを選ぶかはっきりして、って言ったからかな。志展ちゃんは普通に可愛くていい子で、声が大きくて歌もうまい同級生の声優なんだけど、ゴールデンウィークが開けてから学校に来なくなった。どうもそこらへん記憶があいまいなんだけど、学校の中庭に、屋上から飛び降りた志展ちゃんの死体があった、とかどうかな。でもそれだったらわたしが犯人だし、屋上での藤堂くんとの最終的な話し合いで、柵を越えて足を踏み外して落ちたのはわたしかもしれない。まあどっちでもいいや。
「隠れるのがうまくない人は、隠すのがうまい人に隠されている♪」と、わたしは真犯人の歌のようにも聞こえる恋の歌を歌いながら、テレビをつけてみた。
「それではみなさん、特に樋浦清さん、サマラの町でお会いしましょう」と、男前のニュースキャスターは言った。
わたしは思い出した。




