11-6話 俺たちってアニメだったの?
「われわれは、神およびその周辺に属するものを「天」、ヒト以外の何かと関係できるものを「地」、ヒトおよびその周辺に属するものを「地」と大きく分けています」
霊獣図書館の館長は話を続けます。
「事実上、「天」部は「嘘」部と名付けてもそんなに問題はないのです。ヒトが理解できるものはだいたい霊獣にも理解できるので、天文学や気象という自然科学、工学も「地」部として扱うんですね。われわれはざっくり「天」部と「人」部をわけていますが、あまりにもざっくりしすぎているので、ボランティアのヒトの手がときどき必要になります。たとえば、こんな本とかですね」
館長は、ナサニエル・フィルブリック『白鯨との闘い』(のヴァーチャル本)を出しました。
「白鯨は、「鯨」「捕鯨」という項目、つまり地部・水属性の、さらに存在があいまいなものとして「月」ということには、とりあえず置けます。でもこの話、実話をもとにしたフィクションという判断もあるので、天部・水属性の棚にも置いてあります。これは比較的簡単な例ですね。やはり過激な存在至上主義者には、「人」部というのに意味があるのか、とまで言う人がいますが、実体験者の証言まで残っている戦争やバブルや震災まで嘘ということはないですよね。でも、徳川家康は実在したかがわからないのは、猿飛佐助と同じです。もうここらへんかなり霊獣の判断する域を越えてますよね」
「正確には、実在したかもしれないけど、そんなことまではしていない、って感じでしょうか」と、ぼくは言いました。
「それでは、こんな本はどうでしょうか」と、館長は別の本を出しました。
「これは、『物語部員の生活とその意見』というアニメのノベライズ本です。この本は、今アニメをテレビ放映で見ている人にはまだ存在しないので紫色だし、われわれはアニメの中の登場人物なので青白く見えるはずです。はい、テレビを見ているお友だちのみなさん、いかがですか?」と、図書館長は第四の壁に向かって話はじめました。
「ええっ、俺たちってアニメだったの?」と、樋浦遊久さんは驚きました。
*
11話をテレビ放映の録画で見ていた立花備と樋浦遊久も驚いた。
「確かに、この本、紫色に見えますね」と、立花備は言った。
「なんでこの話、そんなにややこしくなるんだよ」と、樋浦遊久は言った。
「そもそも、こんなアニメが放映されたというリアルはあるんでしょうかね」
「あるじゃん、ここに。ところで、アニメの中の人たちがアニメを見たらどうなるの?」
「アニメの中の世界では、実写のはずのニュースもアニメなんです」
*
館長の説明では、フィクションとして独立しているハイ・ファンタジーは比較的分類が容易だけど、リアルと嘘が混じっているものは難しいそうです。
「名探偵は嘘でもいいけど、ロス市警の刑事の話や、実在することになっている組織をモデルにした話は、天部・人部のどちらか片方に置くのは無理ですよね。架空の都市と架空の人物を扱っていても、作者が「これは事実にもとづいたフィクションである」と言ってたりすると、まあとりあえず事実にしておいてもいいか、みたいな」
ということで、ぼくたちは分類のしかたを教わったあと、日の出のだいたい1時間ぐらい前まで、霊獣が分類に困っている図書に関する扱いのサポートをしました。流川市(そんな市は実在しないんですが)の話なら、地部・土属性の「流山市」でいいんじゃないの、みたいな感じです。
まさに強化すぎる物語部の強化合宿です。
最後に館長はさらにこう言いました。
「ゲートをみなさんの部屋の片隅に設けておきました。ヤマダ先生の許可をいただきましたので、夏休み中は部員の誰かにボランティアで来ていただくことになると思います」
そんなわけで夏休みの間、ぼくたちは6日に1度のローテーションで、真夜中に豆霊獣(というか豆だぬきですが)に起こされて、2時間ほど霊獣図書館で図書分類のサポートに励むことになったのでした。
*
夏休みの物語部の強化合宿、最終日は朝から雨でした。
どこまでも続く灰色の空と海を見ながら、ぼくたちは昨日のバーベキューの残りの肉と野菜を炒めて朝食にして、厨房や風呂場を含む合宿所を掃除して(ヤマダは自分が入浴しないから、ということで最終日の風呂場の掃除はサボりました)、ゴミをゴミ袋に詰めておいて(これはあとで合宿所の管理人の人が回収することになっています)、娯楽室や食堂のテーブルとかで無駄話をしたり、ゲームや卓球をしたりして、迎えのワゴン車を待ちました。ワゴン車の運転手の人は、あちらを9時少しすぎに出るので、こちらに到着するのは11時半ぐらい、ということになります。
運転手の人は、一緒にマイクロバスを運転する人も連れてきてくれたので、コンビニでめいめいが買ったお弁当などを食べたあとは、ヤマダも含めて家まで爆睡しました。そう言えばヤマダの家はどこなのか、本当に家というものがあるのかはさっぱり分からないのです。
霊獣図書館の館長は、最後におみやげとして、たぬきの形を模した銘菓を、合宿の参加者みんなに一箱ずつ渡してくれたのですが、だいたいこういう話のお約束みたいな感じで、家に帰って箱を開けてみたら、きれいな木の葉がみっしり詰まっていただけでした。




