表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
11・市川醍醐の物語・その2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/86

11-1話 ザ・ストーリーズが出番を待つ

 梅雨の季節の6月はじめ、録画が溜まっていた春アニメ『物語部員の生活とその意見』の6話から10話までを立花備と樋浦遊久が見終わりかけるころにはそろそろ下校時間になっていた。

「…どうなんですかね、このアニメ」と、立花備は樋浦遊久に聞いた。

「どうなんですかね、と言われてもなあ。実に不思議なアニメだなこれは。俺たちのアニメなのか」

「いや、おれたちのアニメってことはないでしょ。なんでアニメ見ている側が見られてる側になるんですか」

「そりゃそうだけどさ。で、これから先はどうなるの?」

「それはまだ放映されていないのでわかりません。…ええっ、「二期決定!」だって! それから「さらにうれしいお知らせ」って、劇場版…?」

「まあ、二期あるとしても来年だし、劇場版っても90分の尺の60分ぐらいは総集編みたいな感じになるんだろうなあ」

「本編ではまだまだ出せなかったエピソードもありますけどね」

「やっぱこれ、俺たちのアニメやん」

    *

 今までお読みになったかたはお分かりだと思いますが、この話の前の語り手は年野夜見さんで、それは図書館でばらばらになった時の描写として超越的三人称視点が必要だったためです。さらにその前の話の語り手は樋浦清さんで、海水浴場から別行動を取った鳴海和可子さんと立花備くんが何を話しながら歩いたかに関する描写・視点をそうすることによって回避しています。要するにぼくたちは、一人称で語るときはだいたい「信頼できない語り手」の手法を用いています。で、ぼく、市川醍醐が今回の話の語り手になっているのは、ステージの右端(観客席から見ると左端)の立ち位置で、野外コンサートの司会・進行役の霊獣、というかまあたぬきなんですが、と一番近い距離になるんで、会話とかできるからですね。それでは話を進めます。

    *

 場所は引き続き霊獣図書館の中央入口のホールです。

「ああっ、昼に隣のテーブルでへべれけになってたお姉さんだ。あの時は私たちの分までおごってもらって、どうもありがとうございました」と、清さんの姉さんで物語部3年生の樋浦遊久先輩は容赦なく言いました。

「えーっと…何のことかさっぱり覚えてないよ。それからあの海の家は王室ご用達なんでツケがきくから。支払いはちゃんと、木の葉じゃなくて電子マネーだけどちゃんとしたお金。昔と違って、近代の日本の紙幣はそう簡単に偽造できないし」と、手塚治虫の漫画に出てくる王女さまみたいなルックスと服装の木村恵子さんは、とぼけたフリをして中空のほうを見ながら答えました。

「それではみなさん、会場へおいでください。もう演奏するかたの楽器と武器はステージ裏に運んであるので、ちゃちゃっと抜け穴を通ればいいだけです。ステージに上がらないかたはこちらの抜け穴をどうぞ。とびっきりの席が用意してありますよ」と、案内役の、これも召使の正装をしたたぬきがふたつの抜け穴を指して言いました。

 ということで、藤堂明音さん、鳴海和可子さん、関谷久志の物語部サポーター3人は、ぼくたちと別の穴を通ることになったので、一部はこのぼくにはわからないところがあります。

    *

 その抜け穴はなんか薄い膜みたいなのが張ってあって、そこを通り抜けるとちゃんとぼくたちは1960年代のヴォーカル・バンドみたいな格好になりました。アイドル声優ユニットを模した松川志展さん、樋浦清さん、紺野陽さん、千鳥紋先輩の4人はそれぞれのカラー、つまり茶色・ピンク・金色・青の4色の、アイドルっぽいステージ衣装です。

「おお、ちゃんと幼児服じゃなくて1960年代ガールみたいになってるやん。スカートじゃなくてパンツだからドラム叩いても問題ないな」と、樋浦姉さんは言いました。

「ああ、それはハニーカムズの女性ドラマー、ハニー・ラントリーのファッションを模したものですね。カーペンターズのカレン・カーペンターの次ぐらいに有名な女性ドラマーじゃないかな」と、ぼくは答えました。

「ロッカー的には、おれ、この服は納得いかないんだけど、昔のバンドはみんなこんな格好でやってたからなあ」と、スーツの立花備くんは蝶ネクタイを揃えながら言いました。

 それからぼくたちは音合わせとステージ位置と演奏曲の最終確認をしました。

 その後、ものすごくうるさい4人組の霊獣のロックバンドがやっているところをステージ裏から見てみると、別の宇宙の日本だと思うんですが、どこにあるのかわからない、謎の野外コンサート会場は満月で、客席ははるか先のほうまで見渡す限り霊獣、というかたぬきでした。大きいのや小さいのあわせて、ざっと10万匹くらいです。

「なんかものすごく緊張してきたよ!」と、清さんは言いました。

「わたしもミニライブは何度かやったことありますけど、こんなに大勢の前で歌うのなんて初めてです。大丈夫ですよ、清さん、お客なんてみんなたぬきだと思えばいいんです」と、志展さんはツッコミ待ちなことを言いました。

 あれこれしているうちに本番直前です。

「…じゃあ、例のあれ、やる?」と、備くん。

「うむ、例のあれだな」と、樋浦姉さん。

「ええっ、そんなのアニメの中ぐらいでしか見たことないよ?」と、清さん。

「まあお約束みたいなもんですから。実際のアイドルグループだってやってますしね」と、ぼく。

 備くんが手の甲を上にして前に出し、それに向き合った樋浦姉さんが手を重ねます。それと直角の角度でぼくが手を重ねると、反対側から清さんが手を伸ばしながらぼくに、「右手!」って注意したのであわてて手を変えます。

 さらに4つの手が重なって、きれいに8方向に広がる円陣ができました。

「それじゃ…ザ・ストーリーズ、ファイッ!」

「おうっ!」

 ということで、ぼくらのステージがはじまるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ