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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
10・年野夜見の物語・その2
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10-5話 霊獣図書館の歴史とフニャコフニャ夫のタイムパラドックス

「この中世のイギリスの城を模した、霊獣図書館の地上部分は、われわれの国がまだ王政だった時代、明治の初期に、最後から3番めの殿様がこの岬の丘の上、ヒトの世界とほぼ重なる世界に作ったものです。岬の丘はその後、ヒトの世界では整備され、灯台が置かれましたが、第二次大戦後に台だけを残して撤去されました。それと同じころ、われわれの国は王政を廃止して共和国になり、かつての城はわれわれの実在を研究・調査するための研究機関になりました。つまり、われわれを含む霊獣に関する資料を集め、整理し、研究霊獣および一般霊獣が利用するためのささやかな施設だったんですね。蔵書も多分せいぜい数千冊ぐらいだったでしょうか。ところが開館して数年経ったある日、大量の謎の設計図と、信じられないほどの金が送られてきたんですね。それを元にわれわれはタイムマシンのようなものを作り、海外の霊獣ともコンタクトを取って、信じられないほどの図書館を作ることができました。そしてそれから数十年後、タイムマシンのようなものを使って、開館して数年後の研究施設に、設計図と蓄財した大量の金を送りました」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください」と、物語部の3年生である樋浦遊久は言った。

「そのタイムマシンの設計図、って、未来から過去に届けられたものですよね? だけど、その設計図は過去にあったもの。つまり、誰が最初に作ったか、それじゃわからないじゃありませんか」

「…言っていることがよくわかりませんが?」と、霊獣図書館の館長は目を白黒させながら言った。

「ああ、それはタイムパラドックスとしては、フニャコフニャ夫のパラドックス、って奴ですね」と、物語部の1年生である立花備は説明をはじめた。

    *

 フニャコフニャ夫の連載漫画が、いいところで次号に続く、になっているので、どうにも気になって仕方がないドラえもんは、タイムマシンを使って未来に行き、未来の雑誌を手に入れて、のび太と一緒に近所の空き地の土管で読んでたところに、次号のアイデアがどうにも浮かばないフニャコフニャ夫が現れて、これだ、ってんで、締め切りに追われてたため、その未来の自分の漫画を丸写しして編集者に渡す。

 さて、その「次号の漫画」というのは、どういう風にして描くことができたんでしょう。

 フニャコフニャ夫が描いたものを丸写しするんだけど、そのそもそもの「描いたもの」の元は、フニャコフニャ夫が未来の雑誌から手に入れたもの。つまり、丸写しするそもそもの漫画が時間のトンネルの中でループしてて、出所がわからない。

    *

「…だいぶ省略しましたが、そういう話です」

「な、なるほど」と、館長は、今度は右目が上のときは左目が下(またはその逆)という、非常にややこしい方法で目を白黒させた。

「そう言えば文字という、発明ということになっているものも、未来から過去にやってきたシュメール人ほかの未来人によって伝えられたのよ。つまり、その発明みたいなものもループしていて、出所がわからないのよね」と、シュメール人だったこともある物語部の2年生である千鳥紋は言った。

「これは興味深いことですよ。さきほど、私はその設計図に基づく装置を「タイムマシンのようなもの」と言いましたよね。実はその装置は、データのやりとりは過去とは可能なんですが、物体は現在から過去にしか送れません。どういうわけか未来には送れないんです。また、過去に送ったものを現在に再び持ってくることもできません」

「なるほど、未来は迷いながら近づき、現在は矢の速さで飛び去り、過去は永遠に動くことがない…シラーの詩ですね」と、物語部の1年生である市川醍醐は言った。

「でもって、われわれの工作員、というかまあ過去に行ったっきり、装置を使っては帰れないんで、かなり根性のある図書館員の志願者とは、古典籍のデータをしょっちゅうやりとりしてるんですよね。これのオリジナルテキストを探せ、見つけたら送れ、みたいな感じで」と、館長は言った。

「そうすると、締め切りに追われた紫式部とか、井原西鶴とかが、未来から転送された、自分が書いたことになっているテキストを丸写しにした、とかも可能性としてはあるんですか?」と、物語部の1年生である樋浦清が聞いた。

「ま、そういうこともあるかもしれませんが…それはその時代に行ってもらった図書館員に聞いてみましょう。われわれの寿命は平均2000歳ぐらいなんで、紫式部とコンタクトした図書館員でも、じっと我慢してればなんとか現在まで戻ってこれるんです」

「じゃあ、村上春樹とか西尾維新とかも丸写ししてた、とか?」

「それはありません」と、館長は断言した。

「まあとりあえず、霊獣図書館をざっくり見ていってください。あなたたちのライブ開始まであと2時間あるので、1時間ぐらいは大丈夫かな。ああ、いい月だ」と、館長は会議室の窓から外を見て言った。

 ヒトの世界では新月だが、霊獣たちの世界では満月なのだった。

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