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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
10・年野夜見の物語・その2

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10-4話 霊獣の起源とその謎について

「霊獣あるいは神獣とは、ヒトと同等の知力と、ヒトが持たない特殊能力を持った知性体ですかね」と、タバコを手にしていない以外は実に小松左京によく似た、トヨダと名乗る霊獣図書館の館長は言った。

「日本ではたぬき、あるいはむじなと呼ばれている霊獣がこのような図書館を管理運営しておりますが、中国ほか東南アジアではきつねおよび龍、インドではハーティつまり象および白猿、アフリカ北部を含むイスラム文化圏ではねこ、ヨーロッパ諸国ではくまおよびおおかみ、などがおこなっております。この物語部員のサポートメンバーにもいくたりか、ヒトでないかたがおられるようですが、霊獣の問題点、というか悩みは、物語を持たない、あるいは作れない、ということなのです」

「え…というのはどういうことなんでしょう?」と、サポートメンバーのひとりである鳴海和可子は聞いた。

「数千年、あるいは数万年にも及ぶ霊獣の歴史は、霊獣側にも記録として残っていておかしくないはずなんですが、ないんですよ、そういうの、きれいさっぱり。あるのは、ヒトの側による体験とか目撃証言とか、そういうのだけ。たとえば、あなたがたは海から現れた大入道を見ましたよね。あれに添付されている情報は、たとえば恐怖だったり絶望だったり、あるいは滑稽だったりしますが、その大入道の過去、つまりどうやって生まれ、どういう経緯で海から出ることが可能になったのか、という物語はありません」

 館長はここで自分の体のあちこちをさわり、ヒトの場合だったら上着の右ポケットに当たる部分から、タバコの代わりに棒つきキャンディを取り出すと、がりがりかじりながら話を続けた。

「われわれの歴史学者や哲学者はそれについて複数の説を立てております。霊獣ははるか昔に文明を築き、その結果としての技術的特異点を越えて、現在複数の次元に存在する地球もしくはそれに類する場所には、その残像思念のようなものだ、という説。あるいは、これが今のところ一番有力なのですが、ヒトという存在が、宇宙でも稀有な物語を作る能力を持った知性体、つまり現実と嘘をごちゃまぜにして、最初と真ん中と最後がある情報が作れる存在であり、霊獣・神獣も含む幻獣・淫獣その他は、ヒトによって作られた、つまり物語の中にしか存在しないという説。さらに過激な学者は、ヒトによるすべての歴史は偽史であり、霊獣を含むすべての存在は生成される現在、つまり過去と未来を持たない現在によって常に再構築されている、という説もあります。私はそこまで過激ではないのですが、こういう仮説を立てています。つまり、わたしたち霊獣もあなたたちヒトも、誰かによって作られている物語の中の存在なのではないか、と」

「やはりそうですよね! 霊獣図書館なんて設定、あり得ないですよ」と、物語に関してはうるさい立花備が身を乗り出した。

「まあそんなことはどうでもいいじゃないですか」と、館長は苦笑しながら言った。

「そうですよ館長。備はバカだからそんなことにこだわり続けてるだけなんで、あまり気にしないでください。私の姉、樋浦遊久はそのことで割としょっちゅう備と言い争いになってるんですが、わたしを含むほかの物語部員は、なんかもうどうでもいい、みたいな感じになってます」と、樋浦清は遠慮ないところを言った。

「バカとはなんだバカとは。こんな、たぬきの図書館で蔵書数億冊なんて、リアルにあると思うほうがバカだろ」

「まあその…リアルに関しての齟齬があるようですね。それでは、とりあえずこの図書館の歴史についてお話しましょう」と、館長は言った。

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