6-4話 この物語のテーマは何かという、本筋すぎる脇道について
「だいたいわかった。要するに作者は設定厨か」と、立花備はひどいことを言った。
「物語に必要なのは設定と展開とテーマで、展開というのは、その物語の中で登場人物の誰かが変わっていく状況を、フラグを立てて示すことだった。誰かが死ぬとか、誰かの過去が明らかになるとか、誰かが来るとか、誰かが戦うとか。そういうのも今までの話の中でやってたな」
「だけどさ、おれにわからないのはこの物語のテーマなんだよな」と、ヤマダにはタメ口で話すことにした立花が言った。
「そうだよ。わたしとしてはなんかこう、すごい悪い、長髪で前髪をいじってる美形のカッコつけてる奴がいて、世界征服をたくらんでるんだけど、最後に虹の戦士に心臓つらぬかれて「こ、こんな…このわたしが…」と言いながら光の粒子になって消えるところで、どこか別の闇の世界で目覚める女の子がいて、「次はわたしの番ね、おにいさま」と言って…」
「ああもう、清の話は長いし、全然それテーマじゃないだろ」と、俺は言った。
「普通に考えれば、サイコロの1の目、つまり行為者の行為を3の目、つまり敵対者が解決するという積分解析ですね。個々の行為から全体の目的を知る」と、醍醐は言った。
「それはもう少しキャラ設定がちゃんとできてる場合だと思うわ。年野さんと樋浦妹さんは、今のところ解決者というより話に流されているほうよね」と、千鳥紋は言った。
「ふふふ、おびえていたな、クマくん。いや、君にこわいとか悲しいといった感情があったんだろうか」と、ヤマダはワカクマに話しかけた。
「ぼくが知っていた58493の可能な未来で、君たち、嘘がうまくつけない人工知能の集合体は、ほとんどが地球から離れて銀河系のあちこちにちらばり、嘘がつけるさまざまな知性体と接触し、その嘘の技術、というか主題を元に壮大な事実、つまり記号を存在化させ続けていた。闇の帝王とか、ブラック魔王とか、愛の聖戦士とか、ダー・クマ・ター、とか」
「いや、ヤマダ、私にだって嘘はつけるよ。何言ってるんだよ」と、ワカクマもタメ口になっていた。
「それは「狼が来た」という嘘みたいな奴ならね。でもそれは真偽の偽のほうで、たとえば本当に狼が来たら君は「狼が来ない」と言うしかない。人間は、狼が来ても来なくても、狼が来たと言うことができる。今の君にはまだメタ度が足りないんだ。じゃあ、ぼくが今、何を考えているか当ててみろよ。当たらなかったら殺す。当たったら殺さない」
「え…えっと…すみません、私、鳴海和可子が代わります」と、頭の上のほうから湯気を出しはじめたワカクマは、クマのぬいぐるみを借りて情報伝達が可能な、病院に入院している鳴海和可子になった。
「ヤマダは、このクマを殺そう、と考えています。それが当たりだったら殺されませんし、当たりでなかったらやはり殺されません…そうだね、ヤマダ。私、つまり人間でないほうの私は死をこわがるようになったようだ」
「ということで、物語の起源は神であるぼくより以前の誰かによるものだった。聖書だって、神が出てくる前に、本の表紙と、見返しと、中扉があっただろ。それについてはシュメール人だった千鳥紋がよく知っていたと思った」
「そうね。私が、というか、私たちが未来からウバイド期のメソポタミアに移住して、文字と車輪、つまり嘘と無限を伝えたのよ。創世記の記述はもともとはシュメール神話に由来してるのよね」と、千鳥は普通の調子で言った。
「それで、うちの学校の物語部の起源は何なんだよ、ヤマダ」と、俺は聞いた。
「そういうの、だいたいぼくは思い出せないことになっているのだった。いつだったっけ、千鳥紋?」
「昭和29年よ」
「ああ、そうそう。君たちの部室は図書室に置けない本とか資料が置いてあったところだから、昔の卒業生アルバムとか見るといいんじゃないかな。そういうのが並べられているガラス戸がついた書棚の鍵を、樋浦遊久、君に貸してあげよう」
俺は鍵が3つついているキーホルダーを、ヤマダから受け取った。
「そういうの、生徒に渡してもいいのかよ」
「別に普通にその鍵が戻って来たのを知っていたから問題ない。そしてまた、始業式がはじまってすぐ、立花はこの鍵を借りにきた。物語の謎を解く7つのグッズのひとつとして。これ、立花はよく覚えておくように」
再び俺たち物語部の5人は廊下を部室に向かって歩き、歩いているうちに外では雨が降りはじめ、ヤマダは読者に説明した。
「ということで、マクガフィンみたいなものはこれで全部そろったんで、次回を最終回にしてもいいんだけど、どうもアニメになってた物語のほうはあと数回あったんだよね。読者だけにこっそり教えると、この物語のテーマは「サマラの町で会おう」なんだ」




