6-3話 物語部に一年生の3人が入った理由について
「どうして選んだかって…どうしてだっけ」と、ヤマダは考えた。
「確か一芸入試だったんじゃないですかね」と、俺はヒントみたいなものを出してみた。
ところでこの日はけっこう暑い日で、俺たちの服装はそのあたりの季節に合わせて、俺はファッションコーデする小学生が出てくるアニメの主人公みたいな服装、妹の樋浦清はおしゃれなアメリカンスクールの女子高生みたいなパンツスタイルの服装、立花備は昔のパンクロッカーみたいな服装、市川醍醐は丁稚帽子(という名前でいいんだろうか)に合わせた探偵の助手みたいな服装、千鳥紋は黒のセーラー服で昔の女子高生みたいな服装だった。この設定があとでそれなりの意味を持つことは言うまでもない。
「いや、うちの高校にはそういう制度はないんだけど、国語のボーナス問題かな。「あなたにとって世界とは何ですか(これは自由問題なので試験の点数には加算されません)」って奴」
「そうです。わたしは、世界は何かが生まれる前の卵みたいなものだ、って書きました。中学・高校生にとって世界ってそんなもんじゃないですか」と、妹は答えた。
「ぼくは、世界は数えられるものだ、って書きました。デジタル世代ではそういうことになっています」と、醍醐は答えた。
「おれは、世界は角度だ、って書きました。さまざまな見方が視点によって変わる、あいまいすぎるものです」と、立花は答えた。
「面白いね。それらはそれぞれ中国数学、インド数学、エジプト数学に由来するものだった。ああ、市川、悪いんだけど部屋のあかりのスイッチを入れてくれないか。少し蒸し暑くなってきたが、この部屋の窓はどうも何かが壊れているみたいで開けられないし、部屋の隅にある扇風機はあかりと連動していたんだ」
ヤマダの逆光状態は解消され、昔ながらの蛍光灯の光が全員を照らした。
「光あれ、ですね」と、醍醐は言った。
「ということで、君たちが学校へ来た最初の日、指定された玄関の靴箱の中には、「あとで物語部へ来てください」というメッセージが入っていたと思う。書いたのは年野夜見だった。樋浦遊久の字はまるで小学生みたいだし、千鳥の字は乱暴すぎて日本語じゃないみたいだし、ぼくが書いたら男性の教師による強制呼び出しみたいになってしまった」
「確かに、そのメッセージの字は、釣られてつい寄りたくなるような感じの字でしたね」と、醍醐は言った。
「じゃあ説明しよう。今日はじきに夕立だが、一時間程度でやんで、下校時間の5時までには晴れて、素晴らしい夕焼けになった。ぼくたちは数字だったんだ」と、ヤマダは説明をはじめた。
「まず、樋浦遊久、君の「ゆく」はフィンランド語のユクシ、数字の1に由来すると同時に、座頭市という物語の主人公だった」
俺は驚いた。
「次に千鳥紋は、アイスランド語のエイン、数字の2に由来すると同時に、木枯らし紋次郎という昔の時代小説の主人公だった」
「私には関係ないわ」と、千鳥は言った。
「ここにはいない年野夜見は、エストニア語のコルム、数字の3に由来すると同時に、与三郎だったな。で、樋浦清は、スウェーデン語のヒューラ、数字の4に由来すると同時に、眠狂四郎だった」
「本当に説明回だね!」と、妹は言った。
「市川醍醐はデンマーク語のフェム、数字の5に由来すると同時に、子連れ狼の大五郎だった」
「昔の時代劇映画ばっかりなんですね」と、醍醐は言った。
「立花備はノルウェー語のセックス、数字の6に由来すると同時に、助六だった。要するにサイコロの目と考えればよかった」
ヤマダの机の上に、何やら特殊なCGみたいな感じで、半透明で薄い紫色のサイコロがぐるぐる回りながら出てきた。
「サイコロの目を全部足すと21、それにぼくの7を加えると28の完全数になった。グレマスの行為項モデルにしたがって、1は行為者つまり犯人、2は対象者つまり被害者、3は敵対者つまり探偵だ。サイコロの目の通り、6は反行為者、5は反対象者、4は反敵対者になる。さらに、1・3・5は中心を持つサイコロの目、つまり2・4・6とは違った意味を持つ」
ヤマダの説明はまだまだ続いた。




