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じゅんけいさん。  作者: ジョウビタキ子


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36/65

テン


きゅうりのつるを左手で持ち

右手の鋏で葉を摘もうとする体勢で

動きを止めた娘。


娘の目線の高さにある

ビニールが

モゾモゾと

動いています。


「……………ぇ?」






ハウスの中には

いろいろな生き物がいます。


小さな虫ですとか

迷い込んだトンボや蝶々

コオロギに、カエルとかですかね。


みんな、たまに出会うくらいで

踏まないように気をつける

横を通り過ぎる

そんな隣人のような感じです。


でも今回、

目の前のビニールの下から出てこようとしているのは

もっと大きな子だと思います。


映画のワンシーンで

こんな場面を見たことがあります。


何が出てくるの…

怖い?怖くない?

なになになになに?


あの少しずつ心拍数が上がって

身構えて見てしまう感覚です。


最初と同じ体勢のまま

スゥッと息を止めて

出てくる生き物を待ちました。


モゾモゾ…


モゾモゾモゾモゾ…



『プハァッ』








「かわいいな!!」


『!?』




しまった。

素直な感想が口から飛び出した娘。


顔を出した生き物は

つぶらな黒い目に、黄色い毛

尻尾は長めで、胴体も細長い

『テン』ですね。


小さなイタチです。


真正面で目が合った瞬間に

娘が声を発したものですから

ビニールの中にバックオーライして

ハウスの壁にそって猛ダッシュしてます。


はい。

鋏はポイしました。

もちろん娘も猛ダッシュです。


テンの行方を見ておかないと

ハウスの中にずっと居られるのは困りますし

入ってきたということは

どこかに穴が空いてます。



「早いぃぃ〜」



幼かった頃は

もっと早くこのハウスの中を走れたのに

大人になると障害物が多い上に

スピードも小回りも効きません。


なんとか見失わないように

黄色の物体にしか見えなくなったテンを

数メートル後ろから追います。


すると

気配が急に感じられなくなりました。


ハウスの角で立ち止まり

キョロキョロと見回します。


多分…居ませんね。

ハウスの角の外側に穴も見つけましたし

外へ出たのでしょう。



とりあえずホッとした娘。

穴は今日中に塞ぐので

閉じ込めてしまっては可哀想です。


ポケットからスマホを取り出して

父へ電話します。



しばらくすると

ザリ ザリッと

父がやってきました。



「テンだったのかね〜?」

「うん。テンだったと思う」

「なんで入ったかね〜?」



確かに。

そういえばなんで入ってきたんだろう。



ん〜〜…



「カエル食べたかったとか?」

「カエル?カエルそんなにいたかね?」

「いるよ〜。葉摘んでたら見かける」

「ふ〜ん」



テンの侵入の理由は謎でしたが

可愛らしかったので

なんでも良いです。






声を我慢すれば良かったな…

あぁでも、引き返してくれたのは良かったか。


ハウスの中で行方不明だけは

ご勘弁です。


お外で元気に生きてください。


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