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07.二度あることは Ⅲ



 塀の向こうから聞こえる町の喧騒は、活気あふれるものとは正反対などよめきへと一変していた。

 時折、怒鳴り声も聞こえてくる。内容から察するに、町民ではなく山賊の声だろう。あのとき感じた嫌な予感は、確信へと変わりつつあった。


 門付近には山賊はいなかったため、三人で門の死角ギリギリに立ち、町の中を覗き込む。

 まず目に入ったのは、雨戸まで完全に窓を閉め切った家々だった。山賊もそう数は多くない。魔の手を逃れ、屋内に避難できた人もいるようだ。

 だが、露店の店員や客と思しき人々は山賊に捉えられ、広場に集められていた。その中には綺羅騎士団の鎧をまとった者も一名ほど見えた。今回の件は不可抗力だろう。騎士といえど、一人では大人数の襲撃には対応できない。


 そして肝心の山賊たちは、店に押し入って商品を盗んでいる真っ最中だった。腹を空かせているのか、食品系の露店を重点的に漁り、そのまま口に放っている。

 緩慢な動きで肩の力が抜けたような様子に見えたが、交代で周囲を見張っており、集団としては警戒を怠っていない。


「山賊は十四人だったな。広場には……六人か」

「よく覚えてるね……」

「数も少なければ疲弊しきっている。制圧自体にはそう時間は掛からんだろうが……」


 マゾ男の視線を辿ると、そこには山賊たちに怯える町の人々がいた。捕縛はされていないが、周囲を山賊が取り囲んでおり、人質のような状態になっている。

 彼らがいるためか、今回ばかりはマゾ男も無謀な真似には出られないらしい。これがあたし一人で他に被害が出ないようなら、多分喜んで暴れ回るんだろうけど……


 引き続き町の様子を窺っていると、背後から肩を叩かれた。

 もちろん、マゾ男でもレデヤ君でもない―――あたしは即座に身を翻し、臨戦態勢を取る。が、その後視界に入ってきたのは、ここ数時間ですっかり見慣れてしまったあの男だった。


「シッ……ボクだよ」

「な、ナル…ディスト……」


 騎士団長のナルディストだった。騎士の鎧をまとっていたので、一瞬では気付かなかったが。

 この喧騒があるとはいえ、鎧を纏って誰にも気付かれず背後に忍び寄れるなんて……やっぱりこの変態、只者ではないのかもしれない。


「隠れていたまえ。……というより、このまま町自体から離れたほうがいい」

「そういうわけにはいかないよ」

「ああ……明日のシンドバード号に乗るんだったね」

「いや、あの山賊だよ」


 その言葉を聞いて、ナルディストは不思議そうに目を丸めた。そしてそれに続く言葉に、更に瞠目することになる。


「どうすればいい? あたしたちも倒す加勢をしたいんだけど……」

「倒す? なんでキミたちが……」


 今回の襲撃があたしに一因があることは説明できたが、今は時間も惜しいので「訳あって……」と濁しておく。

 何より……山道で襲われたので一時的に撃退して、その後寝床が欲しくて根城を襲撃したなんて、犯罪者相手だったとしても褒められた話ではないし、そもそも信じてもらえないだろう。

 だが、それからナルディストから返ってきた返答は、意外にも消極的なものだった。


「ボクら三人じゃ……難しいだろうね」


 三人というと、あたしは勘定に入っていないらしい。ただ、あたしを頭数に含めても、彼の答えは変わらないだろう。

 想定していなかった彼の態度に「何でまた…」と問いを重ねると、ナルディストは、今この状況とは関わりのない身の上話をぽつぽつと語り始めた。


「……知っているかい? 地方を統括している騎士団のトップは、多くがその土地の権力者……つまりは、実力は関係ない縁故採用なのさ。少なくとも、ボクはね」


 いつか聞いた騎士団の内情と全く同じだ。あたしたちもその情報を聞いてこの町にやってきたんだっけ。

 思わぬ長話が始まり、ナルディストの顔をまじまじと見入ってしまう。表情は変わらないが、よく見れば瞼が微かに震えている。


「まさかあんた、山賊から逃げて……?」

「……ああ。敵から逃げて、虚勢を張って……飄々とした態度を取り繕うことばかりが上手くなったよ。それから、どの相手なら自分が勝てるかどうか……そういう、卑怯な目利きもね」


 そう言ってナルディストは微笑んだ。今までの彼の自信に満ちた笑みとは違う、自嘲が含まれた笑みだった。

 それでも十分にすごいと思うのだけど……ハッタリでも相手を気圧せるなら、それも立派な戦法だろう。まあ、あたしがよく使う戦法だから贔屓目に見てしまっているのかもしれないけど……


 要するに、彼は山賊と戦っても負けると言っているのだろう。

 人質を解放できても彼らを退散させなければ意味がない。そこはマゾ男とレデヤ君がいるから、正直彼らに頼らずともどうとでもなるんだけども―――そのことをあたしが話す前に、会話に割り込まれる。


「では、お前は凡眼だな」


 そう言い放ったのは、今まで黙って話を聞いていたマゾ男だった。



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