06.裸の王子さま Ⅲ
騎士団、しかも団長。
綺羅騎士団といえば、あたしたちの現状の目的地であるカステリアを含む、この国の南部地域を統括する騎士団だ。この言葉が真実なら…だけど。
(こ…この変態が……!?)
白雪騎士団のクロなんとかさんとの邂逅で、騎士団という公的機関にも偏った嗜好を持った人間が居るということが分かったけど―――こんなダイレクトに治安紊乱行為をしている輩が居てもお咎めなしなのか騎士団。
だが、敵の気配を察知できそうな感じのあのマゾ男が、ここまで近付いてきても気付かなかったことを鑑みるに、もしかすると相当なキレ者なのかもしれない。
あたしがどちらかを買いかぶっている可能性の方が大きい気がするけど……
次の瞬間、マゾ男と、ナルディストを名乗った露出狂が駆け出す。
前方に突き出したレイピアの刀身が、朝日に瞬いた。
それをマゾ男は易易と裏拳で弾く。ただ、次の攻撃を繰り出す様子はない。
弾かれたレイピアはしなりながら宙を舞い、少し離れた木の幹に突き刺さった。
暫しの沈黙。それを破ったのは、ナルディストだった。
「いやー……ボク、観客が居ない時はてんで駄目なんだよねぇ……」
言い訳じみた発言をしながら、ナルディストと名乗った男は天を仰いだ。
前言撤回。この人、ただの露出狂だった。
今回アマゾルクが好戦的ではなかった理由が分かった。
この人、弱いんだ―――あまりに堂々としているから騙されそうになった。
そして、ここでやっと思い出す。
綺羅騎士団は三大騎士団に含まれていない地方の騎士団だったが、あることで非常に有名だった。
何が有名なのかと言うと、まあ説明するまでもなく、彼である。
露出狂騎士、ナルディスト―――これこそが、他にも国外へ通じる便がある中で、あえてこの港町を選んだ理由。
こんなのが束ねる騎士団からなら逃げ切れる可能性があったから。
対面して、その一縷の希望は確信に変わった。というか、こんなのに捕まってたまるか―――
騎士団は地方の王族や貴族を中心とした縁故採用が多い。この綺羅騎士団の団長も、一応は王族の血を引いているらしい。
そんな騎士は、職権を濫用して好き放題しているのが実態だと聞く。事実、三大騎士団に数えられる白雪騎士団団長でさえあの体たらくだった。彼も、権力を持っているだけのただの変人なのだろう。
「……ところで、その騎士団長サマがなんでこんなところに?」
「ああ……見回りを兼ねた、ちょっとした日課でね」
日課ってなんだろう。全裸で朝日を浴びるとかじゃなければ良いけど……これに関しては詳しく聞いても何の得にもならないだろうと判断し、それ以上聞くことはなかった。
「まあちょうど良かったよ。そこの馬に乗せてくれたまえ。何故君たちが騎士団支部の馬を持っているのか知らないが……」
そう言われ、内心どきりとする。抜けているようで意外と目ざとい人だ。
だが「中古ですよ」と適当な嘘をついたら、「なるほど」とだけ返してあっさりその場が収まった。いや、やっぱりポンコツかもしれない。
「それで、どこに向かうんです?」
「すぐそこのカステリアだよ」
「すぐそこ?」
「ああ。気づかなかったのかい? 歩きで来れる程度の距離だよ」
……とのことだった。人の通らない道ばかり通ってきて、目印になるようなものが付近に無かったため気付かなかった。
じゃあ歩いて帰れば良いのでは―――と喉元まで出掛かった言葉を何とか心の中に留め、あたしはその願いをしぶしぶ了承することにする。これ以上、騎士団に睨まれたくなかったからだ。
「じゃ、一緒に行きますか」
「えっ!?」
するとレデヤ君が「こんなのと一緒に移動するの!?」と〝こんなの〟本人の目の前で動転した様子であたしの肩に掴みかかってきた。ごもっともな意見だ。ちなみにあたしもマゾ男と君に全く同じことを考えている。
「ま、まあまあ……助けたら何かしら融通利かせてくれるかもだし……」
「……そうかな?」
「どのみち、進行方向同じだし……ね?」
「そうかも……」
こちらも肩に手を置いて宥めすかすと、そちらに気を取られたようで、レデヤ君はにこにこしながら了承してくれた。やはり彼は扱いやすい。騙している気分になって、少し後ろめたいが。
マゾ男はどうだろうかと目を向けてみるが、彼は肯定も拒否も言動に示さず、不思議そうにナルディストを見つめているだけだった。この手の変態が珍しいのだろうか、と疑問のまま適当に結論づけて、ひとまず今はカステリアへ急ぐことにした。
こうしてあたしたちは、一時的にナルシストのヌーディストと旅路を共にすることになった。
……これが長期的な付き合いにならないことを願うばかりだ。




