06.裸の王子さま Ⅰ
あたしたちが新たに目指すのは、ここから南方に位置する小さな港町、カステリアだ。
だが、そこは最終地点ではない。
賞金稼ぎだけならまだ凌げたかもしれないが、騎士団に目をつけられては国内に逃げ場はないだろう。となると、逃亡先の選択肢は自然と国外になる。
陸路での国境越えは難しい。検問所にはある程度の賞金首の情報が伝わっている筈だ。なら、航路で直接国外に出るのが早い。
着港時に待ち伏せされていてはおしまいだが、戦争犯罪者だとか国家転覆を図った大罪人ならまだしも、わざわざ国外まで追ってきて連れ帰ろうとするほどの賞金首ではない……だろう。多分。
そこでカステリアだ。あそこからは国外へ向かう船が出ている。着港先の町から、更に砂漠地帯に向かおうと思う。
砂漠近辺には遺跡も多いので、お宝……つまり、あたしの本職である冒険者の食い扶持にありつける可能性も高い。他の冒険者と競合するのが厄介だが、今よりも多くの宝にありつけはするだろう。
何より、南部地域を統轄している騎士団は―――
「それで、この方向で問題ないのか?」
マゾ男に進行方向を訊ねられ、思考が遮られてしまう。それに「大丈夫だよ」と端的に肯定を返し、しばらくしてからあることに気付く。
「……そういえばマゾ男、運転できたんだね」
マゾ男が騎馬を運転する姿なんて想像できなかった。
「いや、勘で動かしている」
「……レデヤ君! 逃げ切ったらそっち乗せて!!」
この状況でなくとも事故るのは御免だ。まあ最悪事故っても、マゾ男ならどうにかできそうな気もするが。
それからあたしたちは、日が落ちるまで騎馬を走らせ、追手の気配が無くなる範囲まで逃げることに成功した。
一日中騎馬を走らせていたが、人目に付かない山道を選んでいたため、遂にはカステリアには辿り着かなかった。
今日は野営をすることにした。途中に町もあったが、既に手配書が出回っている可能性が高い。
どこかに休める小屋でもないだろうかと思ったが、そう都合よくあるはずもなく。あったとしても、今の状況では山小屋があっても泊まるのは危険だろう。
万が一通りがかった騎士団に見つかることを危惧して、火も焚かず、あたしたちはそのまま就寝することにした。
なお、この状況だったので、残念ながら例の山賊の小屋に立ち寄ることは出来なかった。なので食事もなければ、十分なお金もない。
手元にあるもので有用なのは騎馬くらいか……二台を木々の間に隠すように停車しながら思い至る。盗んできたのは倫理に悖るとしても、正解だったかもしれない。
あとは……彼らが居るので、交代で見張りができるのは不幸中の幸いか。これならある程度は安全だ。そう思案しながら二人に目を向ける。
「……何してんの、あんたら」
あたしをよそに、早速彼らは睨み合い、また一触即発の状況に陥っていた。
「ああ。見張り番をどちらにするのか話していたんだが……」
「こいつ、エナが寝ている間、何をするか分からないからな……」
「俺は寝込みを襲うなどと不平なことはしない。お前とは違ってな」
「何だと……」
……いや本当に安全なんだろうか、これ。
そういえば、なんでこいつら着いてきてるんだっけ……? 落ち着いてきたことだし、改めて整理しておくか。
まず、レデヤ君。
彼はあたしが冒険者になる前、働いていた飲食店に通っていた元常連。彼の目的はあたしそのものだろうから良いとして―――いや、良くはないんだけど。
問題は……マゾ男ことアマゾルクだ。
行動原理は分かるけど、こうまでしてあたしに着いてくる理由がいまいち分からない。あたしと居れば今後も騎士団にいる強い奴らと戦える、とでも思ってるんだろうか。
あたしと一戦交えてみたい、そして……あたしとの子供が欲しいとか抜かしていたっけ。それも大方、強くなった子供と戦おうとかいう理由に違いない。直接問いただすほど興味はないけど。
今は戦力として不承不承共に行動しているけど、正直マゾ男はがいるせいで状況が拗れているのは明白だ。折を見て撒きたいところ……けど、今彼が不在になったらレデヤ君に何かされそうだし……じゃあ両方から逃げれば……でもそれじゃ、二人とも居なくなったら騎士団に捕まった時どうしようもない―――
……いや、何を言ってるんだ。
イレギュラーの連続でナイーブになっていた。元から、人には頼らないと決めていたじゃないか。それも、異性なら尚の事―――
……そういえば、砂漠といえば……国境沿いに、それこそあたしが働いていた店がある。適当な嘘をついて飛び出して以来、戻っていない店。今の計画通りに逃走経路を進めば寄り道もできる。ただ、事が大きくなってしまった今、顔を出したら迷惑になってしまうだろう。
人に頼りたい気持ちを振り払って、あたしは体を横たえる。
とりあえず、今は寝てしまおう。
「やはり決めるには拳が一番良い」
「絶対にエナには指一本触れさせないからな」
「……んじゃ見張りよろしくねー」
元気なものだと他人事のように考える。騎士団支部での大騒動と、慣れない騎馬での移動に疲れ切っていたので、あたしは二人を置いてそのまま眠らせてもらうことにした。
二人が率先して見張り番を買って出てくれたのはありがたかったけど……感謝はまた今度にしておく。
低く唸るお腹を抱えるようにして、木の根本を枕に、あたしはその場に横たわる。
自分で思っていたよりも疲れていたようで、騒がしい二人の隣でも、あたしはすぐに眠りに落ちることができた。
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