19 再会したヒロシ
《この子はもうダメだ》
《そんな簡単に諦めないでください》
《もともと意気地が無い》
《それはそうだけど…》
「………」
朝起きると泣いていた。
意気地が無い、という台詞は何度も浴びせられてきた言葉だった。
ヒロシは虚しさにおそわれる。
最近は忙しくて充実していて、いじめられていたことも、自分のことが嫌いなことも、棚上げしていたことを突きつけられたようだった。
「せっかく昨日はリンと出会えて楽しかったのに…」
そんな時だった。
トントン、と扉をたたく音が響いた。
ギルさまか?
レイラとエラは(偏見だが)ノックをしない気がする。
重たい体を起こしてノロノロと玄関に向かっていく。
「ヒロシさーんーー!」
扉の向こうから元気な男の子の声がする。
「あっ」
ヒロシにはすぐにわかった。
扉を開けるとそこには、数日前に出会ったピコと、ピコの姉のアンナが居た。
この世界で最初に出会った人。
「ピコ!アンナさん!」
「朝ご飯持ってきたよ!」
その手には毎日扉の前に置いとあったパンやサンドイッチの入ったバスケットがあった。
ギルじゃなかった。
ギル様とかいって喜んでた自分を抹消したい。
「ありがとう。もしかして毎日持ってきてくれた?」
ピコの身長と目線に合わせてヒロシは膝をついた。
「うん!美味しかった?」
「とても美味しかったよ」
「今日は三人で食べよう!」
うん、と言ってヒロシは二人を迎え入れた。
「そういえば二人に言わなきゃいけないことがあって…俺、多分ここにいるのは今日までなんです」
ピコが食べかけのサンドイッチをポロリと落とした。
三人でのんびりと朝ごはんを食べていた、そんな時のことだった。
「えっ」
なんで…
途中は声になってなかった。
涙目になっている。
ヒロシは驚いた。
そんなに悲観するニュースではないよ?
俺なんて2度と会えなくても困らないつまらないやつだよ…
嗚咽をもらし泣き始めたピコと固まる俺を交互に見て、アンナは冷静に口を開き始めた。
「ヒロシさん、ピコね、あなたに助けてもらってからすっかりあなたのファンなのよ。まるで英雄のように毎晩私たちに語って聞かせてくれるのよ」
「え?」
「あなたはピコのヒーローなの」
アンナは聖女のように微笑む。
「次はどこへいくのかしら?この街の近く?」
「えと…俺も分からなくて。俺、弱いから、ここに連れてきた人に修行で突然放り込まれて…。多分また、強くなるためにどこかへ連れて行かれると思うんです」
「あら…」
アンナは少し困ったふうだ。
「わたしから見たあなたは、弱くなんて見えないわ」
「ヒロシさん、あなたは強くなりたいの?」
ヒロシは困った。
「強くならないと、どこにも居場所なんてないので…」
変な夢をみたばかりだから、感情的にヒロシは答えた。
「そんなことないよ!」
咽び泣いていたピコが急に威勢よくなった。
「居場所がなかったら僕のうちにおいでよ!弱くってもいいよ、そのままのヒロシお兄ちゃんがいい!」
ピコの涙はひいている。
ヒロシは思わずその頭に手を伸ばして、撫でた。
「いい子だね、ピコ。ありがとう」
ヒロシは微笑んだ。嬉しかったのだ。
「強くなりたいんだ。自分のこと、好きになるために」
いじめられたから、見返すためじゃなくて。
誰も相手にしてくれないから、注目を集めるためじゃなくて。
自分のことを好きになりたいから、少しでも背伸びしていきたい。
「うん!」
ピコは目を真っ赤にさせてたけれど、ひろしの言葉に笑顔を見せてくれた。
パン、とアンナが手をたたく。
「男の子の成長は、邪魔しちゃダメね!今夜空いてる?楽しいお別れ会をしましょう?」
ヒロシはハイ!と元気よく答えた。
○ ○ ○
夜の準備をすると言ってピコとアンナは手をつないで仲良く森を去っていった。
ヒロシは少しの寂しさと、期待を持って見送った。
なんとなく、手持無沙汰を感じて、家に戻ったヒロシは自分なりに掃除をし始めた。
7日間はあっという間だった。
また繰り繰り返したいかといわれれば、絶対嫌だが。
友達ができた。
妙に誇らしい気持ちで、鼻歌を歌い始めた。
「この大空に~♪ 翼をひろげ~♪」
ノリノリである。窓を吹き吹きする。
「どぅわっっっっ」
窓にいきなりエラとレイラの顔面ドアップが現れた。
二人はそっくりの顔で、にや、と笑った。
ニヤニヤの顔でエラが包みを持ち上げてヒロシに見せた。
「なにっ、こわっ」
ヒロシの体感温度は急に下がってぶるりと震えが走った。
二人はやはりノックなどなしに堂々侵入してきた。
エラが軽快な足取りでヒロシに近づくと、包みを渡した。
「ヒーロシ!プレゼント!」
そこそこの重さがあった。
恐る恐る開けると、その中には服が入っていた。
「え」
ヒロシが驚いて顔上げると、
今度はレイラがにこりと笑って、隠した両手を前に出した。
その両手には、良く磨かれたピカピカの革のブーツが握られていた。
「かっこいい・・・」
「ヒロシのおかげで結構魔獣が狩れたから、報奨金で二人で買ったの」
えっへん、とエラが胸を張る。
驚きながらも、二人にお礼を伝えると、二人は早く着替えておいでとヒロシをせかした。
二人は外で待ってくれるらしい。
黒のトップスに、ミリタリー風のカーキのストレートパンツ。黒いロングブーツ。
上には同じく黒のロングコート、そして革の手袋。
男なら一度はあこがれるかもしれない、ミリタリー風のトータルコーディネイトが完成した。
「どうかな…?」
ドキドキしながら扉を開けると、二人はヒロシをほめた。
レイラはポケットから小さな入れ物を出すとおもむろにそれを開け指ですくってヒロシの髪につけた。
セットしてくれたのだった。
普段と違い前髪は上げられ、視界が広がった。
「「うん、カッコいいよ!」」
まさかの二人の大絶賛だった。
ヒロシはその時気づいた。
彼女たちに別れを告げなければいけないこと。
今までろくな人間関係を築けていないヒロシには別れや出会いの経験が少なすぎる。
どうやって、いつ、なんといってお別れしよう。
情けないとは思いつつ、今は二人にプレゼントのお礼を伝えることに逃げた。




