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18 リンとヒロシ-(2)

 

 ヒロシはどこか暗くなってしまった雰囲気を一新しようと、話を変えることにした。


「リンちゃんは何しに川まできたの?」


「私たまにこっそりこの川で歌を歌いにくるの!この川、綺麗で気持ちがいいから」


 リンは素直な様子で答える。


「ヒロシくんはこんな朝早くにどうして来たの?」


「俺はキャンプをしてて、気晴らしに来たんだよ!この川は前にも来たからね」


「そうなんだね!ここ綺麗だもんね!……あ…歌、聞いたよね」


 リンは歌を聴かれたことに気が付いて、顔を赤くした。


 ヒロシは微笑ましく思った。


「歌すごく上手だったよ!」


 リンはさらに顔を赤くし、小さくありがとうと答える。


 さっきまで命の駆け引きをしていたとは思えないほど、甘酸っぱい空気が流れた。


 ヒロシはこの世界で初めて普通の女の子と話していることに緊張していた。


 この世界で会ったのは軍曹みたいなドSの美女と軍曹についていくドMな美少女だけだったため女の子を意識したのは初めてだった。


「ヒロシくんはなんでこの世界にいるの?」


 ヒロシがそんなことを考えている間にリンが思いもよらない質問をする。


「うん?それはどういう意味?」


 ヒロシが異世界の住人であることは言っていないし、知っている人も数が限られている。


 冷静に返しつつも、内心ドキドキしていた。


「言葉の通りだよ、ヒロシくんはこの世界の人じゃないよね?私たちエルフはわかるの。いるべき人とそうじゃない人が。ヒロシくんは後者だと思う」


「そうなんだね…。そうだよ、俺は異世界にいたんだ。この本を見つけてこの世界に来たんだよ」


 ヒロシはバックから魔導書を出して、リンに説明する。


「そうなんだね。君はなんでこの世界にいるの?」


「オレは、俺は元の世界で弱かったんだ。俺のことを誰も見てくれないから、……この本を使ってみんなを消してしまおうと思ってた。でも、ここに来たら毎日が大変で、すっかり忘れてた…。俺は本当に弱くて、多分、強くなれって、そういう意味でここに来たのかもしれない…俺が勝手にそう思っただけなんだけど…」


 ヒロシはこれまでの自分を振り返るように話しをした。


 リンはそっかとただ受け止めた。


「強くなるなら肉体強化くらいしないとダメだよ!あの獣も逃げてくれたから良かったけど攻撃されてたら今頃...」


「そうだね。ただではすまなかっただろうね」


 ヒロシは思案する。


「でも肉体強化ってどうやればいいのかわかんないし...」


「私が教えてあげる!そのままだとヒロシくん死んじゃいそうだし!」


 ヒロシは複雑な気持ちになったが素直に従うことにした。


「ありがとう!肉体強化を教えてください!」


 リンは可愛く胸を叩く。


「私に任せて!それじゃあさっそく始めてみよう!」


 リンは役に立てることが嬉しそうだ。


「ヒロシくんにはちゃんと魔力があるから、それを全身に纏う感じをイメージするの!」


「わかった!やってみる!」


 ヒロシは川岸の岩の上に座禅を組み集中する。


 身体の中の魔力を脚から順に纏うイメージを、つま先から頭のてっぺんまで意識する。


 火の玉を維持する修行のお陰で素地は出来ていた。


 徐々につま先が温かくなり、下半身から徐々に温かくなっていった。


 そしてお腹から徐々に上半身まで、温かくなる。


 あとすこしで全身に纏うところで、さっきリンから聞いた話が頭を駆け巡った。


 人間の傲慢さ、強欲な願望、さまざまな人間の悪の心が頭をよぎる。


 そこで集中力が途切れた。


「ダメだ!出来なかった」


「惜しかったね!あと少しだったよ。途中でなにか見えた?」


「うん。さっき聞いた話が急に頭をよぎったんだ」


「そっか!魔力は頭のほうに行けばば行くほど負のエネルギーを感じやすくなるの。ヒロシくんはさっきの話を聞いてショックだったんだね」


「うん」


「大丈夫だよ!ヒロシくんなら乗り越えられるからもう一度やってみよ!」


「うん!わかった!もう一度集中してみる。」


 ヒロシはさっきと同じく精神を落ち着かせ集中する。


 徐々につま先から温かくなる、どんどん頭のてっぺんまで温かい感覚が上っていく。


 先程と同じく人間の汚い部分が見えてくる。


 ヒロシがイジメを受けていた部分も頭の中で再生される。


 ヒロシは負けないように集中力を切らさないようにする。


 その中で、一筋の光が見える。


 太陽のように眩しい笑顔。


 この子は誰だろ?


 なにか聞こえる。なんていってるの?


『だい....だいじょ...』


 聞こえないよ。ねぇなんていってるの?


『大丈夫。ヒロなら出来るよ』


 その瞬間負のイメージが消え、頭のてっぺんまで温かくなる。


「出来た!!」


 ヒロシはプレゼントをもらった子供のように喜んだ。


「リンやったよ!出来たよ!!」


「うん!出来ると思っていたよ!良くできたね!」


「うん!あっごめん!つい呼び捨てにしちゃった。」


「ううん!リンでいいよ!私もヒロって呼ぶね!」


 いつのまにか愛称になっていることにヒロシは恥ずかしくなってまた顔を赤らめた。


 リンは話を続ける。


「これで肉体強化は出来たから、少しくらい攻撃されても大丈夫だと思うよ!でも全身に纏う分魔素の消費も激しいから気を付けてね!」


「はい!わかりました!!リン先生!」


「わかればよろしいヒロシくん!!」


 二人は笑いあった。


「あっ!そろそろ帰らないと。親に怒られちゃう!」


「そうだね!また遊ぼうね!リン!」


「うん!ヒロまたね!」


 リンは急いでトコトコと走り出した。


 ヒロシはその後ろ姿を見えなくなるまで手をふって見送った。


 それからは暗くなるまで食料の調達と肉体強化の修行の続きをする。


 家にもどり、布団に入りながらふと疑問がわく。


 あの時聞こえた声はいったい誰だったんだろう?


 懐かしい声だったな、思い出せない。


 そう考えてるうちにどんどん睡魔が襲いまぶたが重くなる。


 そのうち部屋の中ではヒロシ寝息しか聞こえなくなった。




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