表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/145

81、迷宮 〜ライトとブルー

 外来の侵略者の隠れ集落で出会った、水色の髪の男の子と一緒に、先の通路を歩いていく。


 通路に、また転移魔法陣の装置が現れてはいけないから、手は繋げない。そう思っていたけど……男の子は、オドオドした様子で、僕の服をつかんでいる。


(置き去りにされると思ってるのかな)


「キミ、そんなにオドオドしなくても、大丈夫だよ? 名前は? 僕は、ライトって言うんだ」


 すると男の子は、目を見開いて立ち止まった。服が引っ張られて、僕も立ち止まる。


「うん? どうしたの?」


 なぜか、男の子の目には、涙がたまってきた。僕は、何かマズイことを言ってしまったのかな。


「…………父さん」


「えっ? 父さん?」


「あっ、いえ、父さんと同じ名前だから、びっくりしてしまって……」


 男の子は、下を向いて口をへの字に結んでいる。もしかしたら、彼の父親は亡くなったのかもしれない。いや、うん、この反応は、きっとそうだろうな。


「そっか、辛いことを思い出させてしまってごめんね。キミの名前は?」


 男の子は、首を横にフルフルと振った。


「名前は言えないんです。珍しい名前だから、母さんが言っちゃダメだって……」


(どこかの有名な子なのかな)


「そっか、じゃあ、適当にあだ名をつけようかな」


「あだ名ですか?」


 男の子は、きょとんと首を傾げた。ふふっ、かわいい。犬系の獣人って、みんなこんなにかわいいのかな。


「名前がないと話しにくいからさ。うーん、髪色がライトブルーだから……僕がライトだから紛らわしくないように、キミはブルーにしよっか?」


「ライトブルーのブルー?」


「うん、変かな?」


 男の子は、首を傾げて、うーむと考えていたけど、ふにゃりと笑った。良さそうだね。


「魔石の花の名前を半分ずつですね」


(うん? 魔石の花?)


「ライトブルーという名前の花があるの?」


「はい、氷の魔石の花は、ライトブルーという名前です」


(あっ、あの花かな)


 ハデナ火山で、リュックくんが女神様の頭につけろと言った飾りだ。とても綺麗な水色の花だったな。確か、マナを溜めておく電池に使えるんだっけ。


 ここに来る前に再会した猫耳の少女の頭の上に、花はつけたままになっていた。電池として便利使いしているのか、気に入っているのかはわからないけど。



「へぇ、物知りなんだね、ブルーくん」


「えっ、あ、はい」


 ブルーくんと呼んだからか、物知りだと言ったからかは、わからないけど、男の子は恥ずかしそうな照れたような表情を浮かべた。


「この通路の先の街で、待ち合わせをしているんだっけ? 迷宮都市のことだよね?」


「はい、たぶんそんな名前だったと思います。僕、すぐに忘れてしまうから」


(めちゃくちゃ保護欲をかきたてられる)


 困ったような表情の男の子は、つい、なでなでしたくなってしまう。だけど、今の僕は、この子と同じくらいの5〜6歳の姿だ。なでなでは我慢しよう。


「そっか、待ち合わせている人のことは、覚えてる?」


「はい、誰が来ているかわからないですけど、僕の知り合いというか、父さんの知り合いが待っているはずです」


 父さんと言わせてしまったからか、男の子は、また元気を失ったみたいだ。


 最近、亡くなったのかな。だから、父親の知り合いが、男の子が暮らせる場所を迷宮都市に用意したのかもしれない。


(話には、気をつけよう)




 しばらく無言で歩いていると、ブルーくんは突然、地面に座り込んだ。


(ど、どうしたんだ?)


 僕は、慌てて男の子に駆け寄った。


「ブルーくん、どうしたの? お腹痛い?」


 男の子は、首を横にふるふると振っている。だけど、お腹を押さえているんだよな。


「お腹が減ってしまって……」


(空腹か、びっくりした)


 ポーションを渡せばいいのかな。いや、でも、魔法袋には、モヒート風味の10%体力回復ポーションくらいしかないよな。


 僕は、基本食べなくても大丈夫みたいだから、食料は持ち歩いていない。水なら魔法で出せるけど、食べ物は出せない。魔法袋に入れておくべきだったな。



 男の子に目を移すと、何かゴソゴソしている。地面には、大きな布袋がいくつも置かれていた。


「ブルーくん、それって……」


「あ、はい。あの、ごはんを食べてもいいですか。あの、えっと、ライト……くんのも、あります」


(僕の名前も、くん呼びだ)


 僕の名前を呼ぶとき、戸惑っていたのは、父親と同じ名前だからかな。でも、今は辛そうな表情には見えない。


「うん、いいよ。僕は、何も持ってきてないから助かるよ。ブルーくんは、魔法袋じゃなくて、布袋を使っているの?」


(でも、これはどこから出てきたのかな)


「魔法袋を使っているんですが、必要な物だけを取り出すのが僕には難しいので、全部取り出してるんです」


 確かに、男の子の腰には、小さな魔法袋が装備されている。中身をすべて出したみたいだ。


 そのために、布袋に入れてから魔法袋に入れてあったんだな。じゃないと、全部出すと、周りが物でとっ散らかってしまう。


 ブルーくんは、布袋をゴソゴソして中身を確認し、いらない布袋を魔法袋へと収納しているみたいだ。


 そして、布袋が二つになったところで、僕の方を向いた。お目当ての物を見つけたみたいだ。嬉しそうな顔をしている。



「ブルーくん、ごはんは見つかった?」


「はい、ライトくんの分もあります」


(さっきも聞いたよ)


「ありがとう、ごちそうになろうかな」


「はい!」


 男の子は、布袋の中から、大きな布を取り出して、キョロキョロしている。ピクニックシートのつもりかな?


(あっ、首を傾げてる)


 どこに敷けばいいのか、わからないのかも。


 周りを見渡しても、確かに、困るよな。広い通路があるだけだ。そもそも、迷宮の中なんだよね。でも、外来の侵略者が通路を塞いでいるためか、人通りはない。


「ブルーくん、人通りはないから、どこでも大丈夫だよ」


 僕がそう言うと、男の子は、嬉しそうに笑った。やはり、布を敷く場所を探していたんだな。


 男の子は、この場に布を広げた。そして、その上に布袋の中身を次々と出していく。


(通路の真ん中だよね、ま、いっか)



「ライトくんも、食べてください」


 レジャーシートのように広げた布に、ちょこんと座り、男の子はニコニコしている。多すぎる食べ物が並んでいるんだよね。僕が選べるように出してくれたのかな。


「うん、ありがとう。いただくね」


 僕が布に座ると、男の子は、僕に大きなパンを渡してくれた。そして、彼の食事が始まった。


(めちゃくちゃ食べるんだな、この子)


 ブルーくんは、手当たり次第、どんどん食べていく。小さな身体のどこに、そんなに入るんだろう?


 僕が、呆然としていることに気づいたのは、彼はオドオドし始めた。そして食べる手を止めて、ジーっと見ているんだよね。


「ライトくん、パンは食べられないですか? あの、食べられるものを取ってください」


「ありがとう。ブルーくんが、めちゃくちゃお腹空いていたんだなって思って、少し驚いただけだから」


 するとブルーくんは、ホッとしたような表情を浮かべた。なんだか、すごくいろいろと気にする子なんだな。まだ、僕をジーっと見ている。僕が食べないと、食事を再開できないみたいだ。


 僕は、手に持つパンをかじってみた。


(あれ? なんだか、これって……)


 パンの中には、ハンバーグっぽいものが詰まっている。こうやって食べると、ハンバーガーみたいだ。この世界に、こんなパンがあるのか。


「美味しいね。こんなパンは、初めて食べたかも」


 僕がそう言うと、ブルーくんは嬉しそうな表情を浮かべている。そして、彼の食事は再開された。



 大きなハンバーガーだけで、僕のお腹はいっぱいになった。ブルーくんは、甘いオレンジジュースも、僕に手渡してくれた。


(完全に、ハンバーガーセットだ)


 僕の座る近くには、ブルーくんがいろいろと置いてくれるけど、僕はもう食べられない。


「ブルーくん、僕、もうお腹いっぱいだよ」


「えっ? パンをひとつ食べただけですよ」


「大きなパンだったし、中にいろいろ入っていたから、もう満腹だよ」


「じゃあ……」


 僕の近くに置いてくれていた食べ物は、次々とブルーくんの口の中に入っていく。


(大食い選手権で優勝できそうだね)


 さすがに食べすぎたのか、食べ終わるとブルーくんは、ゲプッと少し苦しそうにしていた。


 そして、ウトウトし始めている。


(食べたら眠くなるよね)


 声をかけようかと迷っているうちに、彼は、コテンと転がって、眠ってしまった。


(ありゃ、仕方ないな)


 眠っているブルーくんの頭を少し触ってみても、全く起きる気配はない。


 こんな場所で眠る根性もすごいけど、僕がいるから安心してくれているのかもしれない。



 僕は、『眼』のチカラを使って、通路の先を『見て』みた。だけど、見当たらないな。


 ジャックさん達とはぐれた場所で会った人に、迷宮都市は、かなり遠いと言われたっけ。


 僕は、さらに『眼』に魔力を込めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] んー…(;¬_¬) 確かに死んでるねぇ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ