75、カリン峠 〜墓場では魔王カイは無敵じゃな
「次は、ドラゴン族の領地に行くのじゃな」
大量のポーションを一瞬で魔法袋に収納した猫耳の少女は、キラキラとした笑顔で、旧ホップ村の出入り口に向かって歩いていく。
地面に出していたポーションの中に、カルーアミルク風味の魔ポーションが15本ほど混ざっていた。女神様は、その魔ポーションは、別のどこかへ収納したみたいだ。
リュックくんが言うには、女神様は魔法袋の中身を何かの交渉に使うつもりみたいだ。だから、いろいろな種族が欲しがるクリアポーションを、多めに出しておいたという。
(きっと、魔ポーションは自分用だよな)
あのキラキラとした笑顔の理由は、それ以外には考えられない。しゃべらなかったら、かわいい獣人の女の子なのにな。
(残念だよね)
「クラインは、どうするのじゃ?」
猫耳の少女は、なぜかそんなことを尋ねた。
(一緒に行くに決まってるじゃん)
「俺は、この石山に残るよ。誰も居なくなると、入り込まれる」
「ふむ、それなら、ホップ畑を広げておくのじゃ。さっきの量では、全く足りぬぞ」
「そうだね。ここは、ホップ畑と……奥は、監獄にしようかな。爺ちゃんが、ニクレア池近くに作ろうとしたら、邪魔されたみたいだし」
(監獄?)
「おそらく、死者の転生や、アンデッドの進化の邪魔になるのじゃ。ニクレア池は、死者が生まれ変わる場所じゃからの」
猫耳の少女の説明に、クライン様は頷いている。
クライン様は始めから、ドラゴン族の領地に行く気はなかったのかな。そう考えるとしっくりくる。だから、ゾンビに化けていないのかもしれない。
「石山は、強い結界を張りやすいから監獄に最適ですもんね。爺ちゃんが、ここに配下を行かせると言ってます。会わない方がいいですよね」
「ふん、メトロギウスが、妾に配下を会わせたくないのじゃな? いや、ライトか」
(えっ? 僕?)
「一応、ライトが大魔王の地位を狙っているということで、外来の神々を狩ってますからね」
「ほう? ライトは大魔王になるのか。ほうほう」
(なんだか、しらじらしい)
初めて聞いたかのようなフリをしている。いつも頭の中を覗いてるんだから、知らないわけはないんだ。
だけど、知らないことにしておかないとマズイんだっけ。女神様は、中立の黄の星系の創造神なんだから。
「じゃあ、魔王カイは、どうするのじゃ?」
(えっ? 魔王カイさん?)
すると、目の前に、黒い何かが現れ、小さなスケルトンに姿を変えた。
『魔王カイは、ご命令に従います』
(ちゃんと話せてる!)
「また、それか。他のことは言えぬのか。まぁよい。では、魔王カイは、妾について来るのじゃ」
『御意!』
(えっ? アンデッドの魔王を連れて行くの?)
何か考えがあるのかもしれないけど……女神様は、まだ、地底に用事があるのかな。
クリアポーションの材料の、ホップ畑の再生をしたいから、石山に来たのかと思ってたけど。
「ライト、天使ちゃん達を呼ぶのじゃ! 魔王カイの分はいらぬからの」
(そりゃ、そうでしょ)
魔王カイさんは、地上でもどこでも転移できる。ワープワームなんていらないよね。
僕は、生首達を呼び、ドラゴン族の領地へと移動した。
◇◇◇
「カリン峠は、この場所にワープを誘導しておるようじゃな。いつ来ても、墓場に着くのじゃ」
生首達のワープで着いたのは、月明かりに照らされて、あちこちに淡く光る石のある幻想的な場所だった。
(墓場には見えない)
「ライトさん、光る石は、すべてドラゴンが死んだ後に残る魔石っすよ。クリスタルとは違うから、気をつけるっす」
ジャックさんは、みんなの後ろへと回った。
振り返ると、背後には、巨大な黒い翼を持つ亡霊のような何かが、ゆらゆらと近寄ってきている。
(何? 幽霊?)
「キャッ、うぅぅ」
ミューさんが小さな悲鳴をあげ、デイジーさんに睨まれている。やはり、デイジーさんはすごいな。怖くないのか?
「ミュー、騒がずともよい。魔王カイがおる」
猫耳の少女が、行けというような合図をすると、黒い闇が、巨大な黒い翼を持つ何かを包んだ。
そして、黒い闇がパッと散った瞬間、亡霊っぽい何かは、コロンと音を立てて消え去った。石に変わったみたいだ。
(魔王カイさんが何かしたんだ)
少し離れた場所でも、コロンと音がした。
もしかして、あちこちの亡霊を消し去っているのかな。
「墓場では、魔王カイは無敵じゃな」
『ありがたきお言葉!』
いつの間にか、小さなスケルトンが、猫耳の少女にひざまずいている。
「墓場荒らしの加護を、勝手に封じるんじゃねーぞ」
バサリと音を立てて、巨大な黒いドラゴンが現れた。あっ、ダークドラゴン……アダンだ。
「アダン、なぜ城にワープできないのじゃ。いちいち、面倒くさいのじゃ」
猫耳の少女は、手をぶんぶん振って文句を言っている。やはり、あの仕草は、威嚇かな。
「なっ!? なぜ、ライトと行動してるんだよ。ジャックさんも……おまけに、うるさすぎるミューまで居るじゃねーか」
デイジーさんは、無視されたと思ったのか、キッと睨んでいる。闇竜が怖くないのかな。
レンフォードさんには、なぜかアダンは、ペコリと頭を下げたように見える。たまたま下を向いただけかもしれないけど。
(関係性が全くわからない)
「アダン、人型になってくれぬと、首が痛いのじゃ」
猫耳の少女がそう言うと、アダンは、人の姿に変わった。
(へぇ、意外に素直なんだ)
「こんなメンツで、何しに来たんだ? アンデッドの魔王なんかを連れて来るんじゃねーぞ」
「魔王カイがいないと、面倒くさくなるのじゃ。城にワープできないのが悪いのじゃ! マリーは、おるか?」
「あぁ、なんか、今、変な仮装をさせているみたいだが……おまえらも、グルか?」
アダンは、ジャックさんが羽織っているゾンビの服をチラ見している。ジャックさんを睨んでるけど、レンフォードさんには何も言わないんだな。
「ハロウィンじゃ。アダンも着替えればよいのじゃ」
「は? 祭りじゃねーだろ。何かの作戦だと聞いたが、詳細はわからねぇ」
「アダン、わかってるんすよね?」
ジャックさんは、強い口調だ。アダンは、ちょっと表情を引きつらせている。だけど、軽く頷いた。
(口に出すなってことかな)
たぶん、女神様が知らないことにしてあるから、余計なことをしゃべるなと、ジャックさんが言ってるんだと思う。
(ここにも、神々が入り込んでいるのかな)
「ドラゴン族の領地に、外来の奴らが入り込むことは、できないのじゃ。みんな、この墓場で殺されるのじゃ」
(えっ……)
さっきの亡霊って、そんなに強いんだ。いや、アダンかな。すぐに現れたもんな。
アダンは、僕達を案内するように、歩き始めた。
この墓場は広く、淡い光が幻想的で美しい場所だ。落ち着くような安心するような、不思議な感覚になる。
(僕が半分アンデッドだからかな)
少し複雑な気分になるけど、まぁ、仕方ない。
今の僕は、まだ前世の感覚の方が強い。かなり長い時間が経つし、記憶も少しずつ戻ってきているけど……生まれ変わる前の僕は、どんな感覚だったのかな。
大きな門をくぐると、大きな入り口が現れた。何もかもが巨大なのは、ドラゴンの城だからだね。
人の姿をしていない個体が、ウロウロしている。なんだか、生きた心地がしない。
「あっ、いらっしゃいませ〜」
城の窓からぴょんと飛び降りて、駆けてくる女の子は、ゾンビ服を着ている。
「いらっしゃったのじゃ。マリーも、そっち系のを着ておるのか?」
ドラゴン族の魔王マリーさんは、キョロキョロと見回して、デイジーさんの姿を見つけると瞬時に近寄ってきた。
(いま、ワープした?)
「デイジー、可愛い! あたしも、デイジーみたいなのにしよっかな? でも、サンタよね? ゾンビじゃないと……」
「ハロウィンは、何でも良いのじゃ!」
「えっ? ハロウィンになってるの? あー、そっか、ティアちゃんには内緒……ってか、なぜ、こんなとこに来ちゃうわけ? 城で、寝てるんじゃないの?」
「寝てるのは女神じゃ。妾は、女神の猫じゃ」
「あー、なるほど。でも、猫ちゃんも、こんなとこに来ちゃダメでしょ。それに、ライトさんと一緒だなんて……」
「良いのじゃ。妾も家出して来たのじゃ!」
「へ? 何なに? どんな設定よぉ?」
マリーさんは、首を傾げている。
「とにかく、城の中に入るのじゃ。デイジーを狙うアホの神の監視の目が、ここに近づいておるのじゃ」
「ふぅん、じゃ、どうぞ〜。ちょうど、お客さんが来てるよ」
マリーさんは、そう言うと、アダンに何か指示をした。すると、アダンは舌打ちをして、闇竜に姿を変え、バサリと翼を広げている。
そして、月に向かって、飛んでいった。
「あっ、スケルトンも来る?」
「うむ、客がおるなら、その方がよいじゃろ」
猫耳の少女は、スケルトンの手を掴んだ。逃がさないためだろうけど、異常な女神信者の手を握るとは……。
(きっと、魔王カイさんは、頭が沸騰してるよ)
金土休み。
次回は、10月10日(日)に更新予定です。
よろしくお願いします。




