37、アージ沼 〜探偵依頼?
「あははは、何、この子、面白〜い!」
「神族のライトさんみたいですよ。生まれ変わって、ステイタスのバランスが随分と変わっています」
「あの黒い鎧は、リュックかしら?」
「おそらく、そうかと。あんな強度の鎧は、魔人だとしか思えません」
「リュックを背負ってたのに、今ではリュックは着る物なのねぇ。チビが、タタタと体当たりしに行って蹴散らすなんて、ありえな〜い。あははは」
黒魔導の魔王スウは、従えているワープワームからの映像をガラク城の巨大スクリーンに映し、爆笑していた。
堅固な城は、戦乱時には、様々な種族の避難所になっていた。
神々による侵略戦争は、女神イロハカルティアが、この星や黄の星系全体への再生回復魔法を撃ったことにより、今は、休戦状態になっている。
だが、いつ、戦乱が再発するかわからないため、彼女の城では、大勢の避難者が、そのまま暮らしている。
「ねぇ、あれって、サラマンドラの魔王サラドラよね? なんか、大きなトカゲ人間に化けてるけど」
「あれは、魔王サラドラの外交時の姿ですよ」
魔王スウの問いかけに、近くで一緒に映像を見ている避難者が答える。
「じゃあ、誰か、魔王サラドラに探偵依頼をしてきてよ。あの小さな助手もつけなさいって命じるのよ」
「神族のライトさんを同行させるのですか?」
「うん、妙な噂も流れてきたからね。会っておきたいよ。もし、本気で大魔王を狙うつもりなら、ライトに味方しなきゃ損だもの」
「依頼内容は、どうしましょう?」
「なんでもいいよ。みんな、適当に考えて〜。ここで見てるから、話は適当に合わせるよ。念話も繋いでおくね」
「わかりました。じゃあ、適当に……。魔王サラドラが食いつきそうな話で、神族のライトさんも連れて来られそうな何かを考えます」
避難者は、数人で話し合い、そしてスッと姿を消した。
◇◆◇◆◇
「坊やには、剣術は必要ないみたいだな」
トンガリと呼ばれる門番のリザードマンが、なんだか笑いながら近寄ってきた。沼の中に逃げていなかったのかな。
「たまたまというか……ふしぎな鎧のチカラなんですよ。鎧がなかったら、こんなことにはならないです」
「へぇ、さすが神族だ。すごい鎧を持っているんだな」
(ただの鎧ではないんだけどね)
リザードマンの魔王とサラマンドラの魔王は、なんだかポカンとしてるんだよね。クライン様が爆笑しているからかな。
「ライト、おまえ、さっきの鎧は何?」
生意気な後輩アダンは、怪訝な表情だ。
「リュックくんの一部みたいだけど、よくわからない」
「なっ? おまえ、魔人に乗っ取られてるんじゃねーよな?」
「魔人? リュックくんって、魔道具じゃなくて魔人なの?」
「魔道具から進化した魔人だろ。そんなことも覚えてねーのかよ。はぁ、調子が狂う」
(やはり、リュックくんは魔人なんだ)
魔人って何だろう? 魔族とは違うものなのかな。まぁ、もういいか。考えても、わからない。
また、アダンは暗い表情をしている。闇竜であるアダンは、僕にどう接するべきかがわからないみたいだ。
今までは、何でも一方的に反抗していたけど、僕がアダンより弱くなってしまったからだよね。
僕の見た目は、5歳児くらいだし、ほとんど記憶は戻っていない。ステイタスも平均化されてしまったから、回復特化としては、使えない存在だ。
それに、今のステイタスも、魔族の国では子供並みかな。何の特徴もないから、僕は、女神様の役には立たない。
神族のライトと呼ばれることも、なんだかストレスだよな。僕は、ただの子供のアンデッドなのに。
「ねぇねぇ、そんなことより、魔王マーテルの謎は、どうするのよ〜」
いつの間にか、サラマンドラの魔王サラドラは、僕の半分くらいの背丈の赤いワンピース姿に戻っている。白いかぼちゃパンツのチラ見せも完璧だ。
ドヤ顔の彼女……褒めてくれのアピールかな。
「サラドラさん、白いかぼちゃパンツのチラ見せ、可愛いですよ」
「ふふん、そう? そうかしら?」
(めちゃくちゃ上機嫌だな、チョロい)
「サラドラさん、魔王マーテルに聞きにいくの?」
クライン様がそう尋ねると、彼女は、必死にかぼちゃパンツのチラ見せをしている。だけど、クライン様は気づかないフリをしているみたいだ。面倒くさいんだろうな。
「本人に聞けば、一発で謎は解決するでしょ。娘のマリーって、見た目は子供だし、どう考えてもマーテルの方が魔王っぽいじゃない?」
「だから、それは爺ちゃんが……」
「待ちなさい! 答えを言っちゃダメって言ったでしょ。これだから、悪魔族って嫌いよ〜。意地悪すぎるよっ」
クライン様は、魔王サラドラさんに嫌いと言われて、なんだか嬉しそうだ。あー、からかって遊んでいるのかな。
「魔王サラドラ、マーテル様は、今、地上にいる。マリー様と役割を交代されたからな」
闇竜のアダンがそう言うと、サラドラさんはガクリとうなだれた。地上には、魔族は行けないのかな。
「ハロイ島ね。はぁぁ、あたし、行けないのよね。うっとおしい精霊がケンカを売ってくるんだもの」
「ふん、精霊ヲカシノは、逆に魔族の国で暴れられなくて不満らしいけどな。今は、門番があの場所を離れるわけにはいかないだろ」
(また、僕の知らない話だ……)
「翔太は、ハロイ島に関する記憶はないんだ。その話は、まだ、しない方がいいよ」
クライン様がそう言うと、アダンは口を閉ざした。そしてまた、暗い表情だ。暗殺者っぽいから、そう見えるだけかもしれないけど。
クライン様が、何かを察知したようだ。スッと僕のそばに寄った。アダンも、ピクッと反応している。
すると、数人の見たことのない人が現れた。一人は獣系なのか、全身かなりの毛むくじゃらだ。数人は、すべて別の種族に見える。
僕は『眼』のチカラを使ってゲージサーチをした。彼らは、全員、ゲージは二本だ。この星の住人だな。
「こんにちは、皆さん。ガラク城から、魔王スウ様の指示で参りました」
そう言うと、彼らは、軽く会釈をしている。
(また、新たな魔王か。魔王だらけなんだな)
「名探偵サラドラ様に依頼なのですが、よろしいでしょうか」
一人がそう言うと、なぜかみんなの表情が明るくなったように見える。
「どうぞ、連れて行ってください。助かります。妙な謎解きに付き合わされていたんですよ。謎でもないのに……」
クライン様がそう言うと、アダンが微かに笑った。
だけど、魔王サラドラさんは、嫌味を言われたとは気付いていないらしい。きょとんとしているんだよね。
「名探偵サラドラに、どういった依頼なのかしら?」
彼女は、両手を腰に当て、ふんぞり返っている。
「はい、名探偵サラドラ様は、いま、ガラク城が、すみかを失った様々な種族の避難所になっていることをご存知でしょうか?」
彼女は、首を傾げている。知らないらしい。
「それで、ガラク城がどうしたの? 魔王スウがワガママを言って、皆を困らせているのかしら。いや、違うわね。それなら、あの魔女っ子からの依頼だとは言わないわねっ」
なぜか、ビシッと彼を指さすこびと。
「魔王スウ様は、よくしてくださっています。名探偵サラドラ様にお願いしたいのは、避難者が増えすぎてしまったことなんです」
「ガラク城は、広いじゃない。まだまだ余裕があるって言ってなかった?」
「それが、つい最近になって、ニクレア池からの避難者を大量に受け入れたせいで、すみ分けが難しくなってしまいました。アンデッドを嫌う種族もいるので……」
そう言うと、使いの人は、なぜか僕を見た。
(えっと、僕に何か?)
「そうね。種族的に、アンデッドが近くにいると、エネルギーを吸い取られてしまう人もいるわね」
「そうなのです。だから、どうすみ分けをすれば良いか、難しくなってしまいました」
「ニクレア池は、まだ、外来の魔物の巣になっているのかしら。それを退治すれば解決よね?」
サラドラさんの意見に、彼らはなぜか慌てている。
(何か、変だよね)
ニクレア池の外来の魔物を退治すれば、アンデッド達は、別の場所に避難する必要はないはず。
「で、ですが、外来の魔物は、排除しても、すぐまた別の魔物がニクレア池に惹き寄せられます。星の保護結界が消えるまでは、安心できません」
すると、サラドラさんは、腕を組んで考え始めた。
「あの、城に来て、状況をご覧いただく方が良いかと……」
(城に招きたいのかな?)
「それもそうね。じゃあ、案内してちょうだい。クライン、翔太、またね」
「あー、あの……」
サラドラさんを必死に止めている? 城に招きたいんじゃないのかな。
「うん? 早く案内してちょうだい。魔王スウの城は、あの子が従えているワープワームじゃないと入れないでしょ」
(ワープワームの支配者なんだ)
魔女っ子とか言われていたけど、何の魔王なのかな。
「アンデッドもいるので、ライトさんにも来ていただく方がいいかと……」
(えっ? 僕も?)




