36、アージ沼 〜頭の悪い戦い方
「坊や、さぁ、行くわよ」
僕は、青の神の配下の一人に、腕をつかまれている。振り払おうとしても、チカラが強すぎて動けない。
「そんなことは、させないよ」
クライン様が、何かの術を放った。
すると、僕を拘束していた男の腕に矢のような物が刺さった。チカラが弱まった隙に.僕は腕を振り払った。
「ふふっ、元気ね、坊や」
青の神の目が妖しく光った。身体から力が抜ける。僕は、パタリとその場に崩れた。
『ライト、何を転がってんだ。守られていては、いつまでも襲ってくるぜ』
(リュックくん、だって、力が抜けて)
『怖いと思ってるからだよ。コイツらは、今のおまえでも十分に倒せるぜ。だから、クラインが動かねーんだよ』
(クライン様は、コイツらより強いの?)
『一人だと厳しいだろーが、ここには、魔王が二人いるんだぜ?』
相手は三人。悪魔族のクライン様と、サラマンドラの魔王、そしてリザードマンの魔王。魔王二人は、魔族の国の剣士だもんな。
ドラゴン族のアダンは、沼の方へと移動している。リザードマン達を守る気なのかな。いや、生首達か。ふわふわと生首達が沼の上に移動したから、アダンも沼へ行ったんだ。
(生首達が、アダンを誘導したのかな)
「ふふっ、貴方達のことは調べてあるわ。無駄よ」
そう言うと、青の神は、何かの術を使った。リザードマンの魔王には雷撃が、サラマンドラの魔王には氷の刃が降り注いだ。
クライン様が二人にバリアを張った瞬間、もう一人の配下が、クライン様を斬りつけた。とんでもなく速い。
(あっ……)
クライン様は、避けきれず、肩から血が吹き出した。
「さぁ、坊や、行きましょう」
僕に手を差し出す青の神。強制力のある言葉だ。
(ふざけるな!)
何かがプチっとキレる感覚。僕は立ち上がると、青の神を無視し、クライン様に駆け寄った。
「回復します」
「翔太、ワナだ。触れるな!」
「えっ?」
クライン様の肩に触れた瞬間、血が流れていた傷口から、幻影のようなものが出てきた。僕の視界は、血の色に染まっている。
「翔太!」
焦ったようなクライン様の声。
クライン様が悲しんでいる。
クライン様が怖がっている。
僕の頭の中には、幼かったクライン様の姿が浮かんでいた。いつも僕を守ろうとしてくれた幼い主君。そんな彼を、僕は尊敬し、そして絶対に悲しませないようにと行動してきた。
(クライン様を助けなきゃ!)
僕の身体の中から、ぶわっと何かがふき出した。
その黒い霧のような何かが、僕の視界を奪っていた血の色の何かを消し去った。
「えっ? まだ闇は使えないはず……」
クライン様の呟きに、僕はなぜか安心感を感じた。これで、彼を守ることができる!?
(うん? なぜ、これで守れるんだ?)
自分で自分に問いかける……でも、わからない。今の安心感は何?
『ライト、クラインの治療をしてやれ』
(リュックくん、わかった)
僕は、クライン様の肩に触れ、回復! を唱えた。だけど、肩の怪我は治らない。
(どうして?)
『しっかり『見て』みろ。ただの怪我じゃねーだろーが。おっと、奴らが来るぜ』
僕は、透明化! を念じた。だけど、それだけでは、僕の気配はわかるらしい。霊体化! も念じた。すると、奴らは動きを止めた。
「チッ、ワープワームか」
奴らは、青の神の近くに戻り、警戒したようにキョロキョロしている。
(生首達のことも知っているのか)
クライン様の肩の傷を『見て』みると、斬られたように見えた傷は、噛まれたのだとわかる。
肩には、半透明な魔物が噛みついている。頭がいくつもある魔物だ。さっき、僕の視界を覆ったのも、魔物の頭のひとつだな。
しかも、噛みついている頭は、肩深くの神経までくわえている。魔物を殺すと、クライン様の肩の神経が切断されるか。
何もしなかったら、神経に入り込んで、身体の自由を奪うのかもしれない。だから、奴らは、あんなに余裕のある顔をしてるんだ。
僕は、半分霊体化を解除した手をスッと入れ、患部を凍らせた。出血は止まった。魔物の動きも止まったね。
「クライン様、ちょっと待っていてください」
「えっ? 翔太……」
「肩に魔物が噛みついています。凍らせただけなので、動かないでください。たぶん、神経に入り込んで乗っ取るタイプです」
「あぁ、核には結界を張ったから大丈夫だ。だが、神経か。翔太、そのうち魔導塔が見つけてくれるから、心配するな」
(そんなの待っていられない)
奴らの余裕の表情から、その対策もされているはずだ。じゃなきゃ、こんな目立つ場所で襲撃してこない。
(リュックくん!)
『あぁ、わかってる。その前に、飲んどけ』
目の前に、蓋の開いた小瓶が出てきた。ぐいっと飲むと胃薬だった。女神様からもらった魔力1,000回復の魔ポーションだ。霊体化していても、飲めるんだな。
数本飲んだところで、奴らに気づかれた。だよね、小瓶は透明化していないもんな。
奴らは、クライン様が回復のためにポーションを飲もうとしていると思ったらしい。飲んだ直後の小瓶をパリンと何かで撃ち抜かれた。
僕は、霊体化と透明化を解除した。
追加攻撃をしようとした一人が、動きを止めた。僕を殺してはいけないと慌てたのかな。
「坊や、かくれんぼなら、別のところで遊びましょう」
(子供扱いしやがって)
だけど、なぜかその言葉は、魅惑的に聞こえた。悪魔の言葉って、こわいな。
「青の神! 貴女のチカラなんて必要ないよ」
「あら、元気ね。でも、大魔王になりたいのでしょう?」
(誘導かな)
「自力でなれる。まさか、僕の邪魔をする気?」
僕がそう言うと、配下の二人は笑ってる。
魔王二人は、クライン様の指示か、おとなしくしている。青の神からの、弱点をつく魔法攻撃には敵わないんだ。
(まぁ、当たり前だよね)
「坊やを捕まえてきて。私は飽きたわ」
そう言うと、青の神は、スッと姿を消した。
『ライト、来るぞ』
(うん、わかった)
僕を捕まえようとする一人に、クライン様が術を使って、その隙にもう一人が僕の左腕を掴んだ瞬間に転移か。リュックくんが、予知のようなものを見せてくれる。
僕は、まず、クライン様の前に飛び出した。その瞬間、クライン様は動作を止めた。
そして、こっちを狙って来た奴に向かって走った。
走っている途中で、僕は、黒い不思議な鎧に包まれた。すると、奴の動きが遅くなったように見えた。
ボンッ!
僕は、その勢いのまま、奴に体当たりしてしまったらしい。奴はボールのようにすっ飛んでいった。
(あれ?)
『ライト、おまえ、何やってんだ?』
(相手が剣を出したら斬ろうと思ったんだけど……)
『出さねーから、体当たりかよ。おまえなー、頭わりー赤の神みたいな戦い方すんじゃねーぞ』
(次は、剣を使うよ)
僕は、もう一人の方へ向かって加速した。
ボンッ!
(あれ?)
奴は、僕の近くにワープしてきたらしい。ボールのように、飛んで行った。
(当たり屋みたいな奴だな)
『おまえなー。剣を使うんじゃねーのかよ。リザードマンに剣術を習ってただろーが』
(だって、勝手に飛んでいくんだもん、知らないよ)
『クックッ、バカじゃねーの?』
(もうっ、リュックくん!)
リュックくんは、次の映像を見せてきた。青の神が戻ってきて、僕に拘束魔法か。
僕は、青の神が現れる場所へ先回りする。剣をと、意識すると、右手に剣が現れた。
倒れていた配下は、僕が近づくと焦った顔をしている。何かの魔法を飛ばしてきたけど、不思議な鎧が弾いてくれるんだ。
奴は、両手に魔力を蓄え始めた。
『でかい魔法攻撃は、弾けねーぞ』
(えっ?)
『避けるか、剣でぶった斬れ』
(避けるしかないな)
僕は、クルリと向きを変え、横へ飛んだ。
ボンッ!
(あれ?)
少し離れた場所から、ぎゃーっと悲鳴が聞こえた。声のした方に視線を向けると、青の神が、配下の上に落ちたらしい。
(青の神も、当たり屋だったのか)
『おい、魔法が来るぞ!』
さっきの奴が僕に向けて、魔法を放った。
(避けられない……)
僕は、剣で斬ろうとしたけど……なぜか魔法を打ち返した状態になっている。術者がバタリと倒れた。
『剣を振るのが早すぎたんだ。落ち着いてよく見ろよ』
(なんか、遅く見えるから)
『クックッ、まぁ、結果は悪くない。ズル賢い青の神には、頭わりー作戦がよく効くみてーだな』
(うん?)
青の神は、僕が視線を向けるとスッと姿を消した。残された配下二人も、引きつった表情をしている。僕が視線を外すと、二人とも居なくなった。
『目撃誘導中に、これは……ぶははは』
(何? リュックくん)
『いや、何でもねー。クックッ、早くクラインの治療をしてやれよ』
(うん、わかった)
僕が返事をすると、黒い不思議な鎧はスッと消えた。もう危険は去ったんだな。
「クライン様、魔物を切除して、取り出しますね」
「あぁ、翔太、あははは、面白かったよ」
なぜかクライン様は、爆笑している。じっとしてくれないと、魔物を切除しにくいよ。




