35、アージ沼 〜『眼』の力、ゲージサーチ
「天使ちゃん達がなぜ、その可愛い坊やに……」
闇竜のアダンは、僕の一年後輩だ。アダンも女神様の転生者だけど、僕とは別の世界から来たんだ。見た目は、暗殺者みたいだけど、なぜか可愛い物が大好きすぎるんだよな。
だから、生首達のことも、ああやって、腕いっぱいに抱きしめて、幸せそうにしているんだ。
女神様の転生者は、ほとんどが光属性なんだけど、彼は僕と同じく闇属性だ。そのためか、やたらと僕をライバル視するんだ。
悪い奴じゃないんだけど、アダンは典型的な魔族らしいタイプで、種族の序列へのこだわりが激しい。だから、序列最下位の死霊である僕が、女神様の側近16人のひとりに選ばれていることが、面白くないらしい。
でも、生まれ変わって平凡なステイタスになってしまったから、女神様の側近には、もう戻れないんだけどな。
「アダン、僕がライトだよ」
「……は?」
「今、アダンに関する記憶が少し戻ったけど……まだ、前世の感覚の方が強くて……」
「……は?」
ポツリポツリと話しても、アダンは、変な声を出すばかりだ。僕が赤ん坊に生まれ変わったことを、知らないわけはないのに。
普通の神族の住人ではなく、アダンは、女神様の『落とし物』係だ。だから、特殊なうでわを持ち、マナエネルギーを吸収した宝珠を集めているはずだ。
この100年で、『落とし物』係は入れ替わったけど、1番古いベアトスさんと、僕とアダンは、そのまま役割を継続しているんだ。
アダンは、僕に負けたくないから、宝珠集めは、ダントツで一位らしい。だから、女神様は、アダンを永遠に『落とし物』係にすると言っていたっけ。
「おまえ、翔太って……あっ、地球とかって星での名前か。紛らわしいんだよ。ショータという名前は、竜人に多いんだぞ」
(竜人? その死霊だと思ったから、あんな顔をしていたのかな)
「僕には、その竜人もわからないよ」
なんだかアダンには、自分の考えを遠慮なく言える。後輩だからかな。まぁ、これ以上ないほどライバル視されてるし、嫌われてるし、今さら、取り繕う必要がないからかも。
(あれ?)
アダンの表情がおかしい。なんだか……。
「おまえ、そんなこと言ってんじゃねぇぞ! おまえがそんなに弱っちい奴になったら、俺の暴走を誰が止めるんだ? バカじゃねぇのか」
アダンは、泣きそうな顔をしている? もしかして、コイツがいつも、僕にめちゃくちゃ言ってたのは、甘えていたのかな。
そういえば、タイガさんが、アダンは万年反抗期だと言っていたっけ。自分より強い者に対して、全力で反抗してるって。
(ん? タイガさんって誰だっけ)
まだ、会ったことがない神族だよな。名前は、どこかで聞いた気がする。
生首達が、心配そうにアダンの周りに集まっている。彼は、ふわりと優しい笑顔を向けるけど、すぐに変な顔に戻ってしまうんだよな。
「わかったわ! 魔王マーテルに、直接聞けば解決するわ。ふっふっふ。あーはっはっは」
(えっと、なんだっけ?)
サラマンドラの魔王サラドラさんが、手を腰に当てて笑い始めた。えーっと、あー、ドラゴン族の魔王交代の理由を推理していたんだっけ。
クライン様の表情が変わった。一瞬、高笑いをするこびとにイラついているのかと思ったけど、違うようだ。
アダンも、ハッとして、生首達を腕の中から解放している。警戒しているのかな。
何かが、草原に現れた。
(人間? 二人、いや三人かな)
すると、リザードマン達は、一斉に沼へと消えていく。リザードマンの魔王は、沼を守るようにその前に立った。
サラマンドラの魔王は、高笑いをやめ、そして、その姿を変えた。人型だけどその背丈は3倍くらいになっている。とは言っても、普通の人間より低いくらいだけど、今までのこびととは、随分とイメージが違う。
性別不明な近寄りがたい竜騎士のように見える。背には二本の長剣、腰にも複数の剣の鞘を装備している。
(確かに剣士……めちゃくちゃ強そうだ)
『サラドラのこの姿は、外交用だぜ。初めて会ったときのチビトカゲの姿が戦闘形だ』
(リュックくん! なんか、みんなが……)
『あぁ、ライトに客だ。ちょっと暴れるか』
(えっ? 暴れるって……)
リュックくんが話しかけてきたのは、僕に戦闘準備をしろってこと? でも、この場には、僕より強い人達がいるのに。
草原に現れた三人が、ゆっくりと近寄ってきた。なんだか、不快な感じがする。
「あら、赤ん坊だったのに、もうそこまで成長したのね」
妙に色気のある女性だ。なんだか、ナタリーさんに雰囲気が似ているような気もするけど……。
(あれ? 何これ?)
ジーッと見ていると、彼女の身体の中に、エネルギー値のようなものが見えた。ゲームの体力ゲージみたいな感じだ。
『それは、ゲージサーチ。核ってとこに情報が入ってるらしいぜ。この星の住人は種族関係なく、体力、魔力が1本ずつ。他の星の住人は、数が多いから、外来かどうかの見極めができるぜ』
(えっ? あの人、4本あるよ)
『外からの侵略者ってことだ。上1本が体力、下3本が魔力だな。魔力値が高い青の星系の奴らだ』
(ゲージの色や長さが違うよ?)
『残量で色が変わるんだ。80%以上が青、60%以上が緑、40%以上が黄、20%以上がオレンジ、20%を切ると赤。ゲージの長さが残量を示しているんだ。体力ゲージが黒ならゼロ、死んでいるってことだ』
女性は、体力が緑で、魔力が青ってことか。他の二人は、逆だな。
クライン様やアダンを見ると、ゲージは二本だ。どっちも青だね。リザードマンの魔王は、体力が緑で魔力は青。サラマンドラの魔王は……えっ? 体力がオレンジじゃん。
『サラドラは、体力バケモノ級だから、気にしなくていいぜ。パーセントで色が変わって『見える』けど、体力値なら、今のクラインより残量は多い』
(そ、そうなんだ。死にかけかと思った)
「悪魔系の青の神が、何か用ですか」
クライン様は、凍えるような冷たい声だ。何かを牽制するように睨んでいる。
キン! と、何かを弾くような音が聞こえた。
「ふふっ、大魔王の直系の孫の前に出るときは、バリアを張らなきゃいけないって、学んだもの」
(知り合いなのかな)
クライン様は悪魔族だ。他の星のあの女性も悪魔系の……えっ、神!? 他の星の女神なんだ。
(あっ、そっか。神々による侵略戦争だ)
僕は、背筋が凍えた。他の星の神なんて……。
(怖い……)
「ふふっ、怯えなくていいのよ? 死霊の坊や。私の元にくれば、坊やを大魔王にしてあげるわよ? イロハカルティアから逃げてきたのでしょう?」
(なっ? 何、この人)
すっかり、クライン様の策にハマっている。
「あーはっはっは、バカな青の神ねっ! 翔太がそんな口車に乗るわけないじゃないの」
サラマンドラの魔王は、上機嫌だな。噂をまいたのは、彼女なんだよな。あまりにも早く広がって、それに乗せられてきた神がいることが楽しいみたいだ。
(あたしの作戦とか言ってバラさないよな?)
『ライト、悪魔系の神の前で、そんなこと考えるなよ。考えを見られてるぞ』
(えっ!?)
『まー、オレが封じてるが、こんなことで消耗したくねーからな』
(ご、ごめん)
「坊や、大魔王になりたいのでしょう?」
なんだか、彼女の言葉には妙な強制力がある。
「翔太、悪魔の言葉に耳を傾けると、洗脳されるよ。青の神、貴女は懲りない人ですね。星の保護結界が消えるまで、おとなしくしておく約束でしたよね?」
(クライン様が怒ってる)
「気が変わったの。タトルークは、他の神に取られちゃったんだもの。私も、配下を増やしておかないと困るのよね」
(タトルーク老師は、やはり操られてるんだ)
「赤ん坊の翔太を誘拐しようとした罪、まだ、許されていませんよ?」
(えっ? 僕の誘拐?)
『あぁ、腹黒女神が、必死に取り返してたけどな』
(えーっと、リュックくん、それって)
『イーシア湖で、おまえは一度、誘拐されたんだぜ。ティアがすぐに湖に飛び込んで、魔族の国の入り口で取り返してた』
(そう、なんだ。女神様に守られてたんだ)
『あぁ、一応、アレでも神だからな。それに、神族はみんな自分の家族だと言っている』
(そっか……だから、あんなに口うるさいのかな)
『さぁな。妖精族は基本的に、ギャンギャンうるせーけどな』
「悪魔族のアナタには、用はないわ。坊や、いらっしゃい」
また、強制力のある言葉だ。これが、洗脳ってやつなのかな。
僕は、青の神を見た。後ろの二人も、外来の侵略者だよな。
「その後ろの二人は、貴女の配下なんですか」
僕がそう尋ねると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうよ。この二人は強いのよ。だから、坊やを大魔王にしてあげられるわ」
(ふぅん、嫌な感じ)
そう考えた瞬間、二人は、僕のすぐそばに移動してきていた。速すぎて、動きが見えなかった。
そして、その一人が、僕の腕をつかんだ。
(痛っ!)




