──*──*──*── 空き部屋
薄暗い部屋の中で、1人の侍女が櫛を握っている。
櫛には毛髪が絡まっている。
櫛は1本だけでなく、何十本もある。
侍女は部屋から集めた櫛に絡まっている毛髪を収集している最中だ。
丁寧に1本ずつ櫛から毛髪を取り、ベッドの上に広げている白い布の上に置いていく。
毛髪を見て誰の髪から抜けたのか判別し、仕分ける事は侍女にとっては至極容易な事だった。
仕分けた毛髪は名前のシールを貼っている透明な袋の中へ入れて大事に保管する。
長い毛髪は手製の人形の髪の毛に使用し、手先が器用な事を活かし、丁寧に縫い付けていた。
毛髪を袋の中に入れている最中、今迄に嗅いだ事のない香りが侍女の鼻を擽った。
窓は鍵が掛かっていて閉まっているし、ドアにも鍵を掛けて開かない様にしている。
自分は、こいてない。
断じて、こいてない。
其なのに一体何処から匂いがするのか……。
匂いが消えるとランプがパカパカと点滅を始めた。
マーナを込めた魔石を使ったランプだ。
魔石にはマーナを十分に充電されている。
点滅する筈がない。
故障したのだろうか?
何度かパカパカしたランプの点滅が止むとランプの明かりが消えた。
突然、部屋が暗闇に包まれると、室内はヒヤリ……とした。
何かが、カサカサ…と動いている音がする。
まさか……アレ??
何かがバサバサ…と音を立てて飛んでいる?!
若しかして、本当にアレ──なのか??
黒くて、カサカサと動いて、バサバサと飛ぶ、不衛生の代表とも言えるアレ──。
侍女は 震え出した。
侍女はアレが苦手なのだ。
ボッボッ…と何かが着火した様な音がした。
侍女が室内を見回すと、青白い炎がフヨフヨと浮かんでいた。
青白い炎を発しているのは、侍女が大事にしている毛髪を入れた袋だった。
侍女は悲鳴を上げる。
長年掛けて集めた毛髪のコレクションが、青白い炎によって燃えているからだ。
まるでダンスでもしているかの様にフワフワ,ユラユラと室内を浮く青白い炎に両手を伸ばすが、侍女の手が青白い炎には届かない。
苦労して収集したコレクション達が、メラメラと燃えていく。
侍女は悲痛な叫び声を上げる。
室内から、ガタガタ…と音が鳴る。
何かが動いているみたいだ。
音からして1つではない。
青白い炎が室内を照らす。
侍女の目には自分が作った人形が浮いている様に見えていた。
壁に掛けて飾っていた筈だ。
どうして壁に掛けていた人形が宙に浮いているのか侍女には分からない。
侍女に分かるのは、1つだけだ。
苦労して作った大事な人形が青白い炎に包まれて燃えている事ぐらいだ。
理由は分からない。
一体何が起きているのだろうか。
青白い炎に包まれて、人形達が燃えていく。
人形から悲痛な悲鳴の様な声が聞こえるのは幻聴だろうか。
何処からか甘い香りが漂っている。
香りに当てられた侍女は、何時の間にか意識を手離しており、深い眠りに就いてしまった。