第8話 グレタを泣かす
流石に授業ない日の午後だ。カフェを出て俺はグレタの手を引き講義棟の中を走る。
「アーサー様、アーサー様」
グレタが俺の名前を呼ぶが、無視して走る。まあ、疲れたかもしれないと思い、走る足を少し遅くしたがなっ。するとだっ、
「アーサー様ぁてばっ!」
と言って、両手で俺の手を掴み、グレタが徐々に足を遅くして、そして足を止め、両手で俺の足を止めようと体を後ろに反らせて引っ張る。心中では、チッ、仕方ねぇえなぁあ。と、口悪く思いながら、俺も足を止める。すると、
「アーサー様、何故です? もうお茶会は始まってしまいます」
泣きそうな顔をしてグレタが言う。俺はこんなしおらしいグレタを初めて見たぞ? だが、俺はリカルドに30分程、遅れる。とだけ伝えグレタをカフェから連れ出した。時間がねぇえええんだ!!! 俺は意を決っして、その場に跪いてグレタの手を取った。
「グレタ嬢、私の無礼をお許し下さい」
白々しく大袈裟に手を取った。反対側の左手は胸に当て、少し悲痛な表情を浮かべると、上目遣いで言った。
「なにをなさいますの」
グレタは頬を染める。俺はつけ込む。
「ああ、美しい宝石の女神のようなグレタ嬢、どうか愚かな私めをお許し下さい。そして、私めにどうか、一時、その女神のお身をお預け下さい。貴女を更に美しく輝かせるために」
グレタの顔を見ると、ボッと火が点いたように顔を赤らめて、もじもじとし始めた。締めたとばかりに、俺はスッと立ち上がり、グレタを抱えた。まあ、お姫様抱っこというやつだ。
キャッと、聞いたこともねえような声を上げたグレタ。俺はトドメとばかりに、
「グレタ嬢、直ぐに貴女を更に美しくする洋装店に着きます。暫しご辛抱下さい」
グレタの目を見て微笑む。すると、くったりとグレタは体の力が抜けて大人しくなり、俺の胸に頭を預けた。流石、乙女ゲームのキャラだぜ。口は上手いわ、体は勝手に動くは、チョロいもんだぜっ、フッ……。
そして俺は、おっしゃぁあああああ。と心の中で叫ぶ。これで静かになったぜっ! 目的地にも早く着くと来たもんだ、へっ! それに、それによぉおお……、ぐへへへっ。
今、今なぁああ、俺の腕の中にはなぁああああ。俺が走る振動で、揺れ、ゆゆゆ、揺れる巨乳、きょきょ巨乳ちゃんがぁああああああ。居るんだぁあああああああ。ああ、俺は幸せ者だぁああああ。
洋装店よ、頼むからお前は遠くにいてくれっ! 早々に着くんじゃねぇえよ! いいなっ! アーサー君のとのお約束だぁ!!!
颯爽とグレタをお姫様抱っこをして走り抜ける俺。講義棟の裏から回り込み、いつも世話になっている洋装店の裏口に着く。
アーサー君とお約束したじゃぁああねえかっ、ササッと着くんじゃねぇえよ……。俺は、揺れる巨乳ちゃん……、あ、いや、グレタをそっとその場に降ろした。そして裏口の扉を叩く。すると、扉が開き、お針子さんが出て来た。俺は、
「ちょっとドレスを用意して貰いたいんだ。この美しい姫のために」
と言うと、グレタを見たお針子さんの顔が引き攣り、目が泳いだかと思えば、視線を逸らして俯く。え? リカルドより反応がえげつないじゃぁあねぇか……、まあ、分かるが……、あ、いや、グレタの手前、分かっちゃいけねぇえええ。俺はそれは無視して、再度お針子さんに、
「プライベートなんだ。個室で願いたい、どうかな?」
と言いながら、しっかりとお針子さんの目を見詰めて、にっこりと微笑む。すると、
「アーサー様、直ぐにご用意致します。中に入ってお待ち下さい。あ、いえ、プライベートでしたわね、直ぐにお部屋のご用意を致します、申し訳ございませんが、こちらでお待ち下さいませ」
おしっ! 俺は心の中でガッツポーズを決める。流石は乙女ゲームの……以下省略だ。
「あの、アーサー様」
「うん? どうしたんだ、美しい姫」
ぐぁああああ、一瞬、忘れていたぜっ! グレタの格好をよっ! 思わず、吹き出しそうになるが……。俺は心の中で念仏のように、忘れろ~忘れろ~~忘れるんだぁ~~~グレタの格好を頭から排除するんだぁあああ。おおそうだっ! こんな機会は滅多に無いぃいいいい。巨乳に、巨乳に目をやるんだぁああああ。ああっ!!! しかし、本当に目をやれば、グレタにバレるっ!!! ちくしょううおおおおおおおお、貴重な巨乳ちゃんがぁああああ。俺の俺の巨乳ちゃんがぁああ、俺のじゃねぇえええけど、細かいことはいうんじゃねぇえええ。
そうだっ、心の目だっ! 心の目で巨乳ちゃんを拝むんだっ! いいぞ、アーサー!!! 俺て天才じゃぁねぇえ?
「あの、アーサー様? 私、その……」
「ああ、すまない、美しい姫、グレタ」
フッ、ごまかし切れたか?
「その、私、その。やはり、酷い格好をしておりますの?」
ギクッ!!!
俺は焦るが、ここだっ! 俺の乙女ゲーム、攻略キャラ王道スキル発動っ!!! と、ばかりに、勝手によく回る口に任せた。
「あ、いや……」
何を言い淀んでいるのだ! こんな時にっ!
「私、わかっております。お母様にも叱られるのです」
「え?」
「わかっておりますの……」
「おわっ」
俺のよく回る口は発動せずに、とんでもねぇえ声が、口から出てしまった。
グレタは、見る間に目に涙を溜めてメソメソとし始めた。
おぉおおおおお~~、どおすんだぁああああ、これ……。
俺はグレタを笑顔に出来るのかっ? 乞うご期待っ! とくらぁああ、ちくしょうぉおお。