第2話 ヒロイン
アンジェリール・ジュエルは、可愛い。
え? 行き成り何を言い出すんだって? あ~いやぁ~、ヒロインの紹介をしておこうと思ってだな、親切に俺は……、うん? なに言ってんだ俺、誰に話しているんだ?
アンジェリール・ジュエル、十六歳。二月十四日生まれだ。まあ、バレンタインデー生まれだな。乙女ゲームに相応しい、のか?
彼女の髪は金髪で尻の辺りまであるロングヘアだ。邪魔にならないのか? とも思うが……。前髪を少しくるりとさせ、ストレートな髪は金の糸のようで、そしてキラキラと光っていて綺麗だ。俺の言葉に、アーサー、惚れたのか? なんて聞くなよ、惚れてねぇ~よ。綺麗な髪をしているというだけの話しだ。
目は緑色の瞳をしていて、一般にエメラルドの瞳、とでも言うのか? ミドリガメの甲羅の色のように鮮やかな緑色をしている。
体はな、華奢で。なに? いやらしい、だと?
『俺はなぁああああ、健全なぁあああああ、二十歳の男子なんだぁあああああ、やりたいさ……』、あー(棒)、身長は162センチ、華奢な体付きでつるペタぺったんだな、ふむ。どうだ、何も感じないだろう? なあ? ゲフンゲフン。
あ~次いこ、彼女の戦闘スタイルは魔法系だ。もっとも得意とするのが攻撃魔法。『メテオ』なんて喰らった日にゃぁあ~、マジで即死するね。だが、回復魔法も得意としているんだ、これ、チートじゃね?
ああ、この世界はな、魔物も出るんだ。人々の負の感情が、魔物へと変わるらしい。だから、俺たちは勉学以外にも武術を習っている。
話しは少し逸れたが、アンジェリール・ジュエルの性格だ。そうだな、おっとりしていて天然だな。しかし、ある条件が揃うとしっかり者になる。ああ、これは世話焼きなのか? いや、そうじゃないな、姫だからか? 人によく目配せが出来る。なんだろうなぁーーー、グループに分かれて、例えば料理実習なんて、テキパキとこなして行くんだよなぁ~、人に指示を出しながらさ。他の令息令嬢たちはあたふたとしているのにさ。あ、それを言うなら、ジュエル王国の姫様だ、それこそ、令息令嬢の例に漏れず、おたおたしてもいいんじゃないのか? うん? どうなっているんだ? おっとりや天然はカモフラージュか? いや、そんなことないだろうーーーー! 何も無いところで転ぶしよ。ふむ、謎な生きものだな。
まあ、人に目配せが出来るせいもあると思うんだが……。彼女はクラスでは人気者だ。穏やかで、コロコロと上品に笑い、話題も豊富だ。まあ、人気が出ない方が無理があるか……。
でも待てよ、女同士てこーよー、バチバチと火花散らして、陰湿に虐め合っているような印象なんだが……、それは俺の思い込みか? それとも裏があるのか?
ああ、しかし、このクラスは……。
そうなんだ。このジュエル王国王立学園には、特別クラスが三クラスあるんだった。その特別クラスは、特別1クラス~特別3クラス。ひとクラス二十人程だ。そして、俺とアンジェリールは、特別1クラス。どうもな、どーもぉー、クラス編成を見てみるにだな、成績が良い者、何かに特化した者、家柄が良い者なんかをまとめてある気がするんだよなぁ~。近い将来、アンジェリールの側に仕えても良い者というかさ。
ぶっちゃければ、アンジェリールためのクラス、もっといえば、将来のジュエル王国のためのクラスと言うべきか……。まあ、国なんてどこもそんなもんか……、ふむ。
おっと、また話しが逸れた感があるな。ふむ、アンジェリール・ジュエルは、顔良し、スタイルよし、綺麗で可愛らしく、笑顔も最高にいけている。勉強もそこそこ出来て、テストでは常に十位以内に入っている。そして、性格もよし。明るくて、頑張り屋さんで努力家で、手先も器用ときている。人に頼られれば出来ることは引き受けて、まあ、たまに断っているようだが……。それに上品で、時々、仕草に惚れ惚れとする。立ち居振る舞いは申し分ない。よー、これってスーパーウーマンじゃねえか? よくこんなんで生きていられるなぁ~、息が出来るのかねぇ~、関心するよ。
あ、でも、思い出したぞ、姉ちゃんが言っていた、『女の理想の女の子を全部詰め込んだスーパーウーマンの裏にはね……、何かあるのよ。今までには無い画期的な乙女ゲームなの!』ふむ。
だぁあああ、考えても分かれねぇ~。あ、そうだった。俺はヒロインを紹介しているんだった。お? どこまで俺は、アンジェリール・ジュエルについて語ったんだ? うん? 覚えてねぇ~、つるペタぺったんに関心ねぇ~。
「アーサー様、窓の外にはなにかございまして?」
ギクッと飛び上がる俺っ! 休み時間に教室で、ひな壇の上の方に座っていた俺にアンジェリールが話しかけて来た。なんてぇ~答えるんだ? 俺っ!
「フッ、輝く日差しがキラキラと輝いていてね、遠くの街をそれ越しに眺めていたんだ」
「そうですの」
何を言い出すんだぁああ、俺っ!
「アンジェリール」
「はい」
「関心事なぞ、外にはなにもないよ。だって、君がこの教室にいるじゃないか」
「まあ」
だぁあああああ、黙れ黙れだまらっしゃいっ!!!
「アン、可愛いよ」
「フフッ、もう、アーサー様たら、ご冗談がお上手よ」
「そんなことはない」
俺の中で何が発動したんだぁあああああ、乙女ゲーム仕様のこの口はぁあああ。
「フフッ、もうじき次の授業が始まりますわ」
「そうだね、可愛いアン」
にっこりと微笑み、彼女は隣で教科書を出す。
心の中の俺は……、あ~誰かこの口を縫ってくれ~~~と叫び、けれど、痛いのは嫌だと思い返すのであった。