第11話 二人の春の女神
俺の言葉を合図にしたように、メイドさんが数名、カフェの個室に入って来て、テーブルの上を華やかにして行く。それに気付いたアンジェリールが、パァアと顔を明るくして、
「まあ、アーサー様、素敵」
と、言った。
お? アンジェリール姫はぁあ、ご機嫌を損ねていねぇええ。良かった良かった!!! と、俺は思うものの違和感が少し残る。だが俺は、
「皆、遅れて済まなかったね。今日は新作の茶葉、ベイビーブルーローズティに、アンジェリールからリクエストがあったメレンゲクッキーのアレンジ。食紅を使い色づけしたものに、チョコチップやアラザンで飾ってみた。ああ、食紅の原料は花だ。まるで春のような可愛らしさだろう? 定番の茶葉も用意してあるぞ。それにショコラに、フルールケーキなどケーキ類、小腹が空いている者、この後、夜会が控えている者も居るだろう? ブレッドにサンドウィッチも用意した。
さあ、皆で話しの色取りとして楽しもうじゃないか!」
俺は、一気にそこまで言い切ったが、場の空気は差ほど変わらずに、
「アーサー様、給仕は何人ほど、お残しいたしましょうか?」
俺を部屋に案内してくれた係の者が言う。
「そうだな、今日は、俺が給仕をするよ。用があるときはベルを鳴らすよ、ありがとう」
「かしこまりました」
そういうと、部屋に居たメイドたちは引き上げて行く。俺は、
「アンジェリール、グレタ、メレンゲクッキーはどうだ? 甘く口の中で蕩けるぞ? ヤローども、腹は減っていないか? ブレッドにサンドウィッチ、紅茶にも合うぞ? ああ、皆、紅茶より、ジュースが良いのなら……」
俺は、そこまで言い掛けたんだが……、場の空気が引っ掛かり、
「てぇめぇらっ! どうしたんだよ!!!」
と、言った。
すると、皆が唖然として俺の方を見る。アンジェリールは、口に放り込み掛けたメレンゲクッキーをテーブルの上の紅茶のカップの中に落とす始末だっ。
「え? アーサー様ですの?」
開口一番と、口を開いたのは意外にも先ほどまで、顔を赤くして俯いて居たグレタだった。自分の言葉に、この時は気付きもしない俺は、
「あ、いや、グレタ、俺だよ、アーサー様だよ。というか、何だよ、この空気はよ!」
「あ、その、アーサー? まあ、俺はよ、その、二人で居るときの口の悪いアーサーの方が好きだがな」
何故か、もじもじとしながら言うリカルド。
「フッハハハハ」
ジェイドが大声で笑い出す。
ルカは目をパチクリとしている。
そこへアンジェリールが……、
「アーサー様、私を褒めてはくれませんの?」
「え?」
「いつものように、私やグレタを褒めてはくれませんの? 美しい姫たちと……。
今日のグレタは春の女神のように美しいですわ。ドレスにエメラルドの鮮やかなグリーンのブローチは、見事なコーディネートですし、髪や靴に飾った造花のアクセサリーは歩く度に春のを運びそうですし、カフスボタンにも小さな造花が飾ってありますもの、手を動かすだけでも春の風を呼びそうですわ。本当に素敵で、私は宝石が被ってしまい悔しいですのよ。折角、瞳の色と合わせたエメラルドの首飾りとシルキーピンクのドレス。素材も被ってしまって……。細やかに気遣いが出来なかった私の負けですわ」
アンジェリールが一気に捲し立てる。
ああ、言われてみれば、アンジェリールのピンクゴールドの首飾りは、あっさりとしたチェーンに大ぶりの宝石が一粒ぶら下がり見事なエメラルドグリーンだ。グレタのブローチも大ぶりのエメラルドだ。ドレスの素材も被っているようで……。確かに二人の雰囲気は被っているな……。
ああ、だから俺が入って来た時には、アンジェリールは窓の外を見て居たのか……、拗ねていたのかもしれないな。俺は、
「二人共、春の女神のようじゃないか、きれいだ」
と、言った。すると、
「アーサー、アークの奴もグレタが帰って来たときに、開口一番、『きれいだ』て、言って、暫くグレタに見惚れていたんだぜ?」
「リカルド様、帰って来たとはなんですの?」
「あっ」
リカルドが、しまったとばかりに口を塞ぐ。
「それは、ああ、来たときにだな、すまない」
リカルドが言い直すが、アンジェリールがリカルドから視線を外さない。
ルカはハラハラしている様子で、ジェイドはニヤけている。
どぉおおおすんだぁああ、これ? と、俺は思うが、大体の状況はわかってきた。
俺は……。
「あのっ! アーサー様!!!」
俺が言葉を口にする前に、グレタが俺の名前を呼んだ。
「え? どうしたんだ、グレタ」
俺は考えを巡らせながらも、なんとか普通に返事をした。
「あのっ! 私を女にして下さいませっ!!!」
『ブッ』と、ジェイドが飲みかけの紅茶を吹き出し、隣のアークはカクカクという具合にグレタの方を見る。俺はと言うと、
「はぁいぃいいいい」
脳天から出たような声を出していた。
「女ぁあああ」
グレタと俺の言葉に、アンジェリールは春の女神の石像となり、リカルドは、間を置いて爆笑をしている。
「あの、グレタさん。その、ね? どういう意味かしら?」
俺は精一杯、平静を装い聞いた。
「私、先ほどお話ししました、その、洋装店で……。母に叱られると……、私には、その、侍女が支度をしてくれる以外、美しく装えません。その、アンジェリールは、センスもよく流行も上手く取り入れるのです。私……、羨ましくて。それで、さっき……」
「ま、ままってぃいいい」
「え? アーサー様?」
しまったっ!!! つい、その、俺は。リカルドの言葉でグレタの遅れて来た理由がバレる糸口が出て、今度はグレタ自身ががぁあああ、バラしている状況にてんばって、俺自身も地の底から這い上がるように変な声を出してしまった。
ジェイドは大笑いを始め。ルカは大きな目が零れそうなくらい見開いて固まっている。リカルドとアークも石像のようだ。
「あ゛~~~」
これ、どうすんだぁあ? 俺っ!!!




