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#9、ガイラの街



「貴女達のようないかにも怪しい変質者を、門の向こうに通す訳にはいかない。

よって、今すぐ来た道を引き返しなさい。」


まさに絵に描いたような門前払いで、門番のクローン兵に拒絶される。

でも、ここまでは勿論、想定内の展開。

ここからどう話を運んでいくかが、私の交渉術の見せ所だ。



「まあ、そう言わずにまずは話を」

「帰りなさい。」




「いやいや、そう固い事言わずに」

「帰れ。」




「君かわいーね。」

「帰れっつってんだろ。」





うん、取り付く島もない。


「ねえねえコロちゃん。」


「何?」


「駄目でした♪」


コロちゃんは無言のまま被っていたストッキングを脱ぎ、そのままストッキングで私の頬を引っ叩いた。




「ん?貴女、私達と同じクローン兵かしら?」


「え?あ、まあ、そうだけど。」


ストッキングを脱いだ所為で、コロちゃんが顔バレした。

それを見て、塩対応だった門番が意外そうな顔を見せている。


その様子を見て、コロちゃんが何か思いついたのか、私を押し除け馬車を降りて門番達に近付き、話し掛けた。


「あの、実はアタシ達、ストッキングの良さを知って貰う為に世界中を旅して回ってる、ストッキング専門の行商人なの。

あのストッキング被ってる変な女はその商人なんだけど、彼女はストッキングを愛するあまり、ストッキングを被ってないと呼吸出来ない奇病にかかってしまった、哀れな少女なのよ。

だから、彼女の事はあまり構わないであげて。

ちなみにアタシは、元帝国兵の助手兼護衛ね。」


…なんか、散々な事言われてる気がするんですけど?

私の事、本当に好きなんですよね?コロちゃん。




「ウウ…ッ、そうだったの。貴女も大変ね。

同じクローン兵として応援するから、これからも頑張ってね。」


いや、え?なんで泣いてるのあの人。

今のクソみたいな作り話に、少しでもお涙頂戴要素ってあった?


「門開けてあげるから、この街でも商売頑張ってね。

ストッキング、沢山売ってね!私も仕事終わったら買いに行くから。」


「…う、うん、どうも。」


コロちゃんの腕を熱く握り締めた後、門番の人はちゃんと門を開けて私達を通してくれた。

コロちゃんの謎ファインプレーによって結果的に通れた訳だけども、私はストッキングを被らないと死ぬ女という地味に嫌なレッテルを貼られてしまった。


凄く複雑な気分だけど、もうどうしようもないので諦めよう。











◆◆



門の中に入ると、そこはガイラの街の大通り。

煉瓦造りの建物が立ち並び、沢山の人々が熙熙壌壌ききじょうじょうと賑やかに行き交う。

道沿いに立ち並ぶ露店では、威勢の良い商人達がこぞって声を張り上げている。

非常に活気があり、やたらめったら屋台や商店、飲食店等の数が多い、商業都市といったところだろうか。

看板の数も、多過ぎてどこの店舗のものなのかよく分からない。


私達は取り敢えず、マックス君を近くの馬屋に預けて、隣りの喫茶店で今後の身の振り方を考える事にした。

顔バレを防ぐ為に、アルパカザリガニの毛を簡単に加工して作った付け髭を付けている。

素材として売れそうだったので、取っておいて良かった。


店員には変な目で見られたけど、バレるよりマシだ。


「付け髭なんかで誤魔化せるんだったら、ストッキングなんて被る必要無かったじゃない!」


「いや、私達みたいな可憐な美少女二人組が、こんな熱血軍曹みたいなカイゼル髭付けてたら、違和感モリモリじゃないですか。」


「ストッキングよりマシよ、お馬鹿!」


どうしよう、コロちゃんが怒ってしまった。

テーブル席で向かい合ってはいるけど、このままじゃ話し合いが始め辛い。



「ごめんなさいコロちゃん、許して下さい。」


「……。」


コロちゃんは腕を組んでそっぽを向いたままだ。

なんて典型的で分かりやすい怒り方。


こうなったら、〝あれ〟を使うしかない。




「これあげるので、機嫌直して下さい。」


「…物でアタシを釣ろうなんて、本当に反省して…」


しかめっ面で私の方を振り向くけど、私が提示した物を見て、コロちゃんの目の色が変わった。




「……何これ、可愛い。」


「そうでしょう、これもアルパカザリガニの毛を使って作ったんですよ。」


私がテーブルの上に乗せたのは、私自身とコロちゃんをデフォルメして作った、小さなフェルトのぬいぐるみだった。


「…凄い可愛い!欲しい!」


「ええ、これ位あげますよ。門を開けて貰うのにフォローして貰ったお礼も兼ねて。

ですから、機嫌直して下さい。ね?」


「…分かったわよ。

それにしてもアンタって、手先器用よね。特にこういう裁縫とか。」


「そりゃそうですよ。割り箸割る時にも、結構な器用さと集中力が求められますからね。」


いつも当然のように割ってるけど、実際あれは過度な集中力が必要なのだ。

それが出来るからこそ、達人というのは凄まじい。




「それじゃあ、気を取り直して、今後の予定についてですけど…」


「まず帝都行きの列車を見つけて、乗れそうかどうか確認しなきゃいけないわね。」


「で、乗れなかった場合はどうしましょうか?」


「…まあ、そうなったらマックス君と一緒に馬車で帝都を目指すしかないわね。遠いけど。」


「そうですね、仕方ないです。

まずは駅に行ってみましょう。」












◆◆



私達は付け髭で変装しながら、ガイラの街の鉄道駅へとやって来た。

街の交通、流通の心臓部でもある場所だけあって、広大な駅舎には複数のホームが存在し、列車が停まっている所もある。

人の数もこれでもかと言う程多く、少し油断したら即迷子になりそうだ。


「思ってた以上に人が多いですね。」


「そりゃそうよ。ガイラの街は、エアフォルク王国の中でも二番目に大きい都市なんだから。」



エアフォルク王国…


ここガイラの街やラスコフ村も含め、今でこそ侵略してきた帝国の植民地となってるけど、元々はエアフォルク王国という小国の領土だった。


昔、悪政王に苦しめられていたエアフォルク王国の民衆は、帝国に泣きつき、自国を侵略するよう頼み込んだらしい。

滅茶苦茶な話かもしれないけど、それ程までに追い詰められていたという事だろう。

結果、グラットン帝国軍の最高幹部である千両役者フルコースの一人が動き、瞬く間にエアフォルク王国を制圧。

帝国が当時の王族を追い出し、信頼と実績のある人物を新王として抜擢し、善政を敷いて国を生まれ変わらせたのだ。


世界的にも有名な話ではある。





「…あ、これ。」


切符売り場の側に設置されている掲示板が、目に入った。

その理由は明白、私とコロちゃんの似顔絵が貼り付けられていたからだ。

正確には、私達の指名手配書が…。


「やっぱり、お尋ね者になっちゃいましたか。こうして見ると、複雑な気分ですね。」


「アタシは他のクローン兵と同じ顔だから、誤魔化すのは楽だけど。

アンタに貰った髪飾りでバレちゃうかもしれないわね。」


そう言いながら、コロちゃんは急いで髪飾りを外してポケットにしまう。

これで、コロちゃんは他のクローン兵達とほぼ見分けがつかなくなった。


「〝殺害厳禁、生け捕りの場合のみ報酬を約束〟ですって。

カリュウちゃん、私を殺したいとは思ってないみたいですね。ちょっと安心しました。」


「安心してる場合じゃないでしょ。この懸賞金見なさいよ!

帝都の一等地に夢のマイホーム建てられる位の金額よ。」


確かにコロちゃんの言う通り、私に掛けられた懸賞金の額は凄まじかった。

それだけ、カリュウちゃんは私が帝都に来るのを拒絶しているという証左になる。


ちなみに、コロちゃんの懸賞金額は牛丼一杯分位だった。




「当然ですが、駅のホーム前には厳しい検問があります。

この付け髭も、流石に見破られるでしょう。」


「となると、やっぱり列車移動は無理ね。

ま、そんなズルは往々にして出来ないものだもの。気にする事ないわ。

アンタの家族も心配だけど、ここは時間をかけてしっかり強くなってから、帝都に向かわないと。」


「…はい、そうですね。確かに、今のままじゃカリュウちゃん達には歯が立たないでしょうし。」


カリュウちゃんの実力は、未だ未知数。

幼馴染みの私でさえ、普段からだらけきっている彼女が戦っているところは見た事がない。



「でも、そう簡単に強くなれるんでしょうか?」


「さあ?よく分かんないけどこういうのって、強い敵と戦ってる内に、自然と強くなるものじゃないの?

漫画の主人公とかそうじゃない。」


「…漫画と現実をごっちゃにしないで下さい。」


「ごめんごめん。でもアンタって、帝都に住んでた頃はごく普通の一般人だったんでしょ?

それがたった二年であんなに強くなって、おまけに達人だなんて、実は途轍もない伸び代を秘めてたりするんじゃない?」


「むぅぅ、そうなんですかねぇ?だとしたら嬉しいんですが…。」


自分の才能、伸び代かぁ…

今までカリュウちゃんに会う為だけに一心不乱で修行してたので、そこまで深く考えてなかった。


百の修練より一の実戦とも言うし、戦いを重ねれば強くなれるんだろか。

そうすれば、きっといつかカリュウちゃんと…!



そう言えばさっきから何か妙な違和感を感じる。

あの手配書を見た時から、微かな違和感が。










◆◆



賞金稼ぎギルド・ガイラ支部。

ラスコフ村よりも都会な分、それに比例して建物の規模も大きい。

ラスコフ村のよりも広く大きいカフェは勿論、賞金稼ぎ達が体を鍛える為の会員制ジムや、リラックスする為の入浴施設も併設されている。

そして中央ホールでは、老若男女様々な賞金稼ぎ達で賑わっている。



「…うぅ、えっと、掲示板掲示板っと…」


屈強な賞金稼ぎ達で盛り上がっているギルド内で、明らかに悪目立ちしている少女が一人。

ひ弱そうなクローン兵のコロちゃんが、戸惑いを隠しきれずにホール内で魔害獣の情報が貼り出されている掲示板の場所を探していた。

そんな場違いな彼女の事を、周りの賞金稼ぎ達がチラ見しまくっている。



「何なんだ、あの子?」


「弱くて帝国軍に居られなくなった、クローン兵とかじゃね?」


「そんな根性ないんじゃ、ここでもやってけないよねー。」



勝手な憶測をされてるのはどうでもいいとして、目立つのは良くないなと思いつつ、掲示板の場所を探す。

受付の人にでも聞こうかな、と思った次の瞬間、コロちゃんの目の前に大きな影が立ちはだかった。


「おいおい、嬢ちゃん。何かお困りかい?」


「見たところここは初めてみたいだけど、俺らが案内してやろうか?」


コロちゃんの眼前に現れたのは、群を抜いて屈強な男二人組だった。

コロちゃんの倍以上ありそうな背丈に、膨れ上がっている筋肉。

片方がスキンヘッドで、もう片方がロン毛なのも特徴的である。



「うっわ、アロジム兄弟だ。」


「マジか、あの子もやっぱ絡まれたか…。」


周囲の賞金稼ぎ達が、ヒソヒソ小声で話し出した。

コロちゃんは恐怖を抑え、アロジム兄弟とやらに返答する。


「いえ、自分で探すからいいわ。」


「まあ、そう遠慮すんなって。俺はアロジム兄弟の兄、アルドー・アロジム!」


「弟のウルドー・アロジムだ!よろしく!」


「……いや、え?」


コロちゃんが戸惑っているのをいい事に、ニヤニヤ笑いながら一方的に自己紹介するスキンヘッドの兄とロン毛の弟。


「ヒッヒ、さっき掲示板がどうとか呟いてたよな。

それなら、受付の裏側にあるぜ。」


「まあ、確かに初めての奴にゃ分かりにくいわなー。」


「…ど、どうも。」


兄弟はガラは悪いが、普通に教えてくれた。

だが、コロちゃんはまだ二人の事を信用していない。



「それと、討伐する魔害獣の害悪指数はしっかりチェックしとけよ。

絶対に自分の実力にあった魔害獣を選んで、身の丈に合わない相手とは戦うんじゃねぇぞ!」


「そうだそうだ。それと危険を感じたら一目散に逃げろ。

命あっての物種だ。決して油断をするな!」


「…は、はぁ。」


「あとな、帰って来たらここの施設を活用するのもオススメだ。

温泉やマッサージもあるし、賞金稼ぎなら格安で利用出来る。」


「戦いの後は、きちんと体を休めるんだ。無茶はいけねぇ、万が一って事もある。

お前一人だけの体じゃないんだ、帰りを待ってる奴がいるんだろう?」


「……。」









この人達、メッチャ良い人だ。

と、コロちゃんは思った。



「…ご親切にどうも、ありがとう…。」


「ああ。何か困った事があったら、俺達や他の賞金稼ぎを頼れ。」


「イカつくてガサツな奴らが多いが、悪い奴はそうはいない筈だ。」


それだけ言い残して、アロジム兄弟は去って行った。



「賞金稼ぎって怖い人達ばかりなイメージだったけど、意外とそうでもないのかな。」


コロちゃんは少しだけフワッとした気分になりながら、受付の裏側へと向かって行った。



⚪︎コロちゃんのメモ帳


ガイラの街


エアフォルク国領に属する、大きな商業都市ね。

エアフォルク王国の流通や経済の要所で、毎日多くの人達で賑わってる都会よ。

ラスコフ村の若者達は、まずこの街に憧れて来るらしいけど、大抵は厳しい現実に打ちのめされるようね。

鉄道駅や賞金稼ぎギルドの支部、他にも様々な施設やお店が軒を連ねてて、一日中回っても回り切れないわ。

いつか、アディーナと一緒にゆっくりショッピングでもしたいわね。

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