#54、いざキャンプファイヤー!
ベリオーンの町を発ってから、早くも数日が経った。
広い広い草原を抜けたと思えば、お次は険しい山地を越え、その後に広がる厄介な沼地は通過するのに丸3日掛かった。
そして現在は二つ目の山。というよりゴツゴツした、どちらかと言うと岩山かな。
どれも、帝国の整備した街道を通れば容易に回避出来る苦行ルートだけど、今や街道の警備は厳重そのものだ。
馬車に乗りながら警備を突破するのは至難の業だし、何より帝国兵に見つかって余計な面倒を増やすのは避けるべきだという事で、こういった厄介な裏道を通る羽目になった。
嫌な道が多い上に、普通に遠回りだから困る。
「あーもう、何日も前から道がガッタガタで本当乗り心地最悪よね。」
「そうかな?私はこのガタガタ感、意外と嫌いじゃないけどねー♪」
コロちゃんがダルそうに愚痴る気持ちも分かる。
トドマツさんに教えられたエンパイアブリッジへ続く裏道ルートだけど、殆ど整備というものがされていないので、移動中は常にガタガタ揺れっぱなし。
シャツキフさんはそんな状況をもポジティブに捉えて楽しんでいるみたいだけど、そうでないコロちゃんには俄然ストレスが蓄積されているみたいだ。
トドマツさんは、「道はちょっと荒れてるが、とどのつまりその立派な馬車なら全然平気だろう。」と言っていたけど、これのどこが平気なものか。
まあ、夜は〝どこでも事務所〟でアカシさんの事務所へ戻ってゆっくりと休ませて貰ってるので、それが唯一の救い&癒しと言った感じか。
「コロちゃんも、あまりイライラしないでシャツキフさんを見習った方が良いですよ。
このガタガタに身を委ね、一体化する事で揺れを前向きに楽しむのです。」
「…まあ、確かにそれもそうかもね。アタシも頑張って慣れるとするわ。
あと、別にイライラなんてしてないから。これ重要。」
「ああ゛あ゛あぁぁああ゛あ゛ああぁぁあ♪」
突然、シャツキフさんが奇声を発した。
「な、何よ!?」
「ほら、ガタガタ道で〝あー〟って叫ぶと、声もガタガタになって面白いでしょ♪」
「…アンタはいつも幸せそうで羨ましいわね。」
そう言いながら、シャツキフさんの頬っぺたを若干強めにツンツンするコロちゃん。
「ただ、馬車の車輪が壊れないかが不安ですね。」
「あ、それ考えないようにしてたのに。」
山道をしばらく進み日が沈み始め、たまたま開けた場所に出たので、進行をやめて休憩を取る事になった。
今いるここは山頂近くでとても見晴らしが良く、眼下には前に通った沼地や、遥か先まで広がる森の地平の先に、揺らめく夕日が沈んでいくのが見える。
獣や鳥の鳴き声も四方八方から聞こえ、まさに雄大な大自然といったところか。
この大自然パワーと絶景に当てられたのか、あのコロちゃんがさっきまでの不機嫌さは何処へやら、すっかり晴れ晴れとした笑顔になっていた。
私もシャツキフさんもコロちゃんも、三人揃って夕陽を見つめる。
「あー、素晴らしい景色ですねぇ。」
「うんうん、創作意欲がモリモリ湧いてくーるー♪」
「流石にこんな所にまで帝国の達人は来ないだろうし、折角ならここでキャンプでもしない?」
「おぉ、それは名案ですね!」
「オッケーオッケー♪キャンプなんて初めてー♪」
コロちゃんの提案を、私とシャツキフさんは快諾する。
私もラスコフ村に飛ばされる前は帝都暮らしの都会っ子だったので、キャンプは初体験だ。
大自然の中でのバーベキューやテント、キャンプファイヤーなんかは、ちょっぴり憧れてたりする。
「でも、コロちゃんってキャンプ経験ありましたっけ?」
「ん?ないけど。」
ですよねー。
未経験者3人でのキャンプか。
今まで夜になったらアカシさんの事務所にお世話になってたので、これだけ旅しといて野営の経験はほぼゼロだ。
早速不安しか感じないけど、取り敢えず、なるようになるだろう、きっと。
最悪、いつも通りアカシさんの事務所に泊まればいいし。
完全に日が沈みすっかり夜になって、周囲は月明かりに照らされている。
私達は月明かりだけじゃ不足な分をランタンの灯りで補い、キャンプの準備を進めた。
普段使ってないけど、テントは一応馬車の中に簡易的な折り畳み式のが積んであったのでそれを利用。
近くに燃料になりそうな木が無かったので、一旦アカシさんの事務所に戻りラスコフ村の周りの木を割り箸殺法で伐採。
ついでにアカシさんの事務所の倉庫に眠っていたバーベキューセットを借りて、山へと戻った。
戻ったら、コロちゃんの足元で鹿が2頭横たわってた。
「コロちゃん、その鹿どうしたんですか?」
「アディーナがバーベキューセットとか取りに行ってる間に、そこで鹿を見つけたからさ。狩って来た。」
「おお、しかも見事な鹿ですね!」
「アタシ、これでも解体とか出来るからさ。美味しい鹿肉食べさせてあげる。」
そう言えば、バーベキューセットを用意したというのに、肝心の肉を忘れてた。
コロちゃんのナイスハントのお陰で助かった。ありがとう!
ていうかコロちゃん、解体なんて出来るんだ。凄い!
「コロちゃんの作る料理は美味しいですからね、楽しみにしてます!」
「料理って言っても、ただ肉焼くだけじゃない。それに、焼くのは3人で焼くの。アタシ1人にやらせちゃ駄目なんだからね。」
「はーい。」
適当な返事と冗談を混じえつつ、私達は手早くバーベキューセットを準備していく。
自称バーベキューマスターを名乗っていたアカシさんに簡単に指南して貰ったので、準備自体は割と順調に進んでいく。
コロちゃんとシャツキフさんも簡易テーブルや食器を用意するのを手伝ってくれて、後はもう肉を焼くだけという段階まですぐに辿り着く事が出来た。
これが、肉を求める仲間の力というものか…!
「おぉ〜ッ!」
私達は、3人揃って肉が焼ける様子に感動していた。
まだ食べてもいないのに、自分達が準備した食材を調理しているという実感が湧き、何だか言いようのない感動というか、達成感めいたものが私達の心を支配する。
「ムフフ、良い匂い〜♪」
「調味料も用意したから、お好みで使ってね。」
「食欲をこれでもかと刺激する、いかがわしい匂いですねぇ。」
鹿肉がジュウジュウと焼ける香ばしい匂いが、私達の鼻腔に幸福感をお届けする。
充分に火が通り、食べ頃になった肉を頬張ったその時、期待通りの満足感が私達の五臓六腑を駆け巡った。
やっぱり、アウトドアで食べる肉は格別に美味い!
食材の旨味を最大限に引き出す、大自然の空気と言う名の調味料が、この黒く焼けた鹿肉にトッピングされているのだ!
「うまいうま〜い♪」
「本当、バーベキューやって正解だったわね。」
コロちゃんとシャツキフさんも、大変満足しているようで良かった。
それからは、腹減りモンスターと化した女子3人で2頭分の鹿を余す所なくペロリと平らげ、「余は満足じゃ♪」とシャツキフさんが冗談を言った所で、私は次のイベントの準備に取り掛かる。
「さて、バーベキューが終わっても休んじゃいられませんよ。
次はキャンプファイヤーです!キャンプファイヤー!」
「ウェーイ♪レッツキャンプファイヤー♪」
「サイコー!いざキャンプファイヤー!フゥ〜!」
2人とも、ノリノリである。
シャツキフさんはともかく、コロちゃんのこんなハイテンションは珍しい。
前に、ラスコフ村の私の部屋で夜通し2人宴会をして、ノンアルコールワインを飲んで酔っ払った時みたいだ。
ノンアルコールなのに酔っ払っていた不思議は未だによく分からないけど、多分コロちゃんは場の空気に酔いやすいタイプなのかもしれない。知らんけど。
そんな事を考えながらも、ラスコフ村で採集して来た木材や枯れ葉や古紙を、アカシさんに教わった通りに積み重ね、火種となるマッチを焼べる。
最初は上手く火が付かなかったけど、5度目のトライで遂に火が広がり、みるみるうちに成長した焔は太い木材をも食らいつくように燃え広がった。
私達はその周囲に腰掛け、メラメラパチパチ音を立てながら漆黒の天へと煙を登らすキャンプファイヤーを、ボーッとしながら見つめていた。
「なんか良いですね、キャンプファイヤー。」
「うん、こうやって燃える炎を見てるだけでも、何故か心が落ち着くのよね。ずっと見てられる。」
「前にアディーナちゃんに私の作品燃やされたからあまり良い思い出なかったけど、こういう炎なら大歓迎だね♪」
ああ、シャツキフさんの美術館で戦った時の事か。
あれは戦いだったから仕方ないのだ。
それにちゃんと消火もしたし。
それにしても不思議なもので、こうして炎を眺めていると、ついつい感傷的な気分になって、人は過去について語りたくなってくる。
シャツキフさんが、まさにその第一号だった。
「私も昔は大変だったな〜♪
故郷の国がすっごく堅苦しくて時代錯誤な風潮でね、そっから亡命してグラットン帝国に来て、色々と頑張って現状に至る♪」
「かなり端折ってる感あるけど、シャツキフも苦労してたのね。」
「というか、シャツキフさんは帝国の出身じゃなかったんですね。」
「うん、そうだよ♪グローリア王国っていう小さい国なんだけど、帝国とは比べ物にならない位に不自由な国でね〜♪もうお金貰ってもあの国には戻りたくないね〜♪」
そっか、シャツキフさんにもそんな事が。
確かに自由を愛する芸術家である彼女には、堅苦しい国風というのは何よりも息苦しいのだろう。
私だって堅いのは嫌だと思う。
そして、しばしの沈黙の後、次に語ったのはコロちゃんだった。
「アタシは、アディーナの世話するのが大変だったわね。
昔はアタシも他のクローンと同じで普通に帝国兵やってたんだけど、くじ引きでアディーナのお目付役を押し付けられちゃってね。
初めは外れクジだって嫌々だったんだけど、なんだかんだで仲良くなって、惚れて、こんな旅について行く挙げ句になるなんてね。
人生ってのは分かんないものよね、本当。」
「フフ、コロちゃんも語りますねぇ。」
「う、うっさいわね!何からしくない事言っちゃって、恥ずかしくなってきたんだけど!」
赤面しながら、恥ずかしがって私から目線を逸らすコロちゃん。
まるで恋する乙女のようだ。いやその通りなんだけど。
そんな私達のやり取りを、シャツキフさんがニマニマ笑いながら楽しそうに観察していた。
「まあ、兎に角アタシとシャツキフが恥を忍んで自分語りした訳だから…」
コロちゃんの視線が、私の視線と重なる。
ん?何でそんなに見つめてくるのでしょうか。
私、何かコロちゃんの気に触る事でもしたかな?
「コロちゃん…?」
「あー、なるほどねー♪」
シャツキフさんも何かを察したように、私の方に顔を向ける。
これは、多分良くない流れのやつだ。
「えっと、2人ともどうかしたんですか?」
「あーもう、鈍いわね!
今度はアディーナ、アンタが語る番なのよ!」
「ええッ、やっぱり!?」
私の過去って、そんな…
「別に私、お二人に話すような面白おかしい過去話なんて…」
「いいからいいから!」
コロちゃんとシャツキフさんが、息を合わせて急かしてくる。
こういう時にだけ謎の連携技を見せないで欲しい。
「ん〜、でしたら、ラスコフ村での私とコロちゃんのお話でもどうですか?」
「え〜、それはもう馬車の中で聞き飽きたよう♪」
「そうそう、アタシ達が聞きたいのはもっと前の話なの。」
「え?」
もっと前って、もしかして…
「アディーナが、帝都で暮らしてた頃の話。アンタが自分から話した事ってあんまり無いじゃない。」
「私も気になるなー♪特にアディーナちゃんが好きなカリュウ姫皇帝とのエピソードとか、すっごく気になるなー♪」
「ほらほら早く!」
「いやいや、シャツキフさんはともかく、コロちゃんには前に話したじゃないですか。
ほら、ラスコフ村を出る時!」
「あの時に聞いたのはアンタがカリュウ姫皇帝に告白する時とか、家族に関する話だったし、そもそも細かい部分は割愛してたじゃない。
アタシ達が聞きたいのは、カリュウ姫皇帝との出会いと、それからの話を具体的に聞きたいの。」
「根掘り葉掘りー♪」
嗚呼、これはもう逃げられる雰囲気じゃないな。
観念するしかない、か。
「…はぁ、別に期待してる程面白い話が聞けるとは思いませんけど、それでも良いのなら。」
「やったー!」
全く、仕方がない。
そんなに聞きたいのなら、聞かせるとしましょうか。
まだまだ夜は長い。
私は深呼吸をし、過去の自分に想いを馳せた。
⚪︎コロちゃんのメモ帳
炎鳥&氷鳥&雷鳥
三種とも害悪指数800KC。
鳥使いの達人であるウィンドルが操る小型の鳥型魔害獣ね。
それぞれが名前の通り、口から炎、氷、雷の塊を吐き出して、相手に攻撃する凶暴な魔害獣よ。
一体一体はそこまで強くもないけど、この魔害獣の厄介な点は集団で襲い掛かってくる所で、場合によっては800という数値を遥かに上回る強敵になり得るわ。
数の暴力って怖い。




