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#23、ゴブリンの森




「ギュアァァァァ!!」


エクレールスネイク、害悪指数1820KC。

ゴブリンの森へ向かう途中に、何とも厄介な魔害獣に遭遇してしまった。

体内に発電器官を持ち、口から雷撃を放つ大型の蛇。

列車の車両並みの太さと長さの体を器用にくねらせ、執拗に私だけを狙い撃ちしてくる。


「ギュアッ!ギュアァッ!」


鳴き声と共にひと塊の雷撃を吐き出し、私が避けた地点に炸裂音を轟かせ、地を焦がす。

一発でも当たったら、大ダメージ必至だ。


私は避け続け、好機を狙う。

幸い、雷撃を吐き出すまでの予備動作が大きく、攻撃を予測出来るのと同時に、そこが敵の隙ともなり得る。


「アディーナ、右ッ!」


「右?おっと!」


マックス君と共に木の影に隠れているコロちゃんの警告通り、右側の死角から巨大な丸太めいたエクレールスネイクの尻尾が、鞭のように音も無く襲いかかって来た。

警告のお陰か、紙一重で回避に成功する。


「コロちゃん、ナイス!」


「サポートは任せて!」


このレベルの魔害獣は、到底コロちゃんの手には負えない強さなので、後方支援で私の死角を的確に補ってくれるのは有り難い。


それにしてもエクレールスネイク、思っていた以上に狡猾な相手。

雷撃はこちらの注目を集める為のもので、本命は死角からの尻尾による鞭打とは。


「なかなか頭が回る魔害獣みたいですね。だから、一番強いと見定めた私を先に排除しようと執拗に狙う、と。」


私は割り箸を割り、攻勢に転じる。

雷撃を先読み回避しながら接近し、尻尾の攻撃は割り箸の斬撃で巧みにいなす。


「ですが、コロちゃんの存在を軽んじていたようですね!

あの子は確かに戦闘はからっきしですが、私と組めば最高のサポーターに変貌してくれる、出来る子ですから!」


「は、恥ずかしい事言わないでッ!」


「でも事実です!」


一気に跳躍した私は、エクレールスネイクの胴体を斬り落とすべく、勢いそのまま斬撃を浴びせる。

しかし、向こうも必死だ。

咄嗟に体を捻って回避され、当たりは浅かった。薄皮一枚といったところか。


「むぅ、簡単には倒されてくれませんか。」


着地し、追撃しようと身構えるも、その必要は無くなった。



「…あれ?」


勝ち目が薄いと見るや、大きな蛇の魔害獣は踵を返し、森の奥へと退散してしまう。

頭が良いのは分かるけど、こんなにもあっさり敗北を認め撤退してしまう魔害獣も珍しい。

何かの罠の可能性もあるので、深追いは禁物。


「何か、損した気分になりますね。」


魔害獣を倒して魔核を手に入れないと、お金にならない。

つまりさっきまで激闘を繰り広げてたのが、全部無報酬になる。


「手に入る筈だったお金が不意に手に入らなくなるのって、何より悲しいですよね。」


「気持ちは分かるけど…。」


「っと、それより今は、イワン君を助けるのが先決です!こんな所で足止め喰らってる場合じゃありません。」


「そうね。」


とんだハプニングに見舞われ、手遅れになったら最悪という他ない。

私とコロちゃんは再びマックス君に跨り、森の深部を目指す。










◆◆



エクレールスネイクとの戦いの後、森の奥へと駆ける事、数分後。

道沿いに、看板が立っているのを発見する。


『ゴブリンの森』


道の先に、薄らと人工物の建物のような物が見える。

まさか、あれがゴブリン達が根城にしているアジトなのか?


「コロちゃん、相手は狡猾なゴブリンです。実力的には多分コロちゃんでも倒せる程度の敵だと思いますが、油断はしないで下さい。

奴らは、恐ろしく悪知恵が働くと聞きます。どんな手段で反撃してくるか、想像出来ません。」


「わ、分かった。」


コロちゃんも緊張しているのか、真剣な表情でゴクリと唾を呑む。

私も、ゴブリンを見るのは生まれて初めてなので、正直ドキドキしている。


「さ、行きましょうか。

目立つので、マックス君はここで待ってて貰いましょう。ここからは隠密行動、歩きです。」


これから、どんな戦いになるのか予測出来ない。

意を決して、私とコロちゃんは舗装された道を、一歩一歩慎重に進んで行った。










◆◆



「……な、何で…ッ!」


「これは、一体…?」


ゴブリンの森に辿り着き、連中の本丸へと侵入しようとした私達の目に、あまりにも衝撃的で、にわかには信じがたい光景が飛び込んできた。

イワン君かどうかは分からないけど、人間の子供達は大勢見つかった。

ただ、私達が想像していた姿とは、大きく異なった姿でだけど。


















「わーい!」


「せんせー、こっちきてー!」


「ぼくもすべりだいであそぶー!」





子供達が、楽しそうに遊んでいた。



「…これは、どういう事でしょう?ゴブリンに捕まってたんじゃ…」


「おや、初めての方ですね。どなたかのお迎えに来られたのですかな?」


困惑している私とコロちゃんの元に、やけに礼儀正しいゴブリンがやって来た。

緑色の体色に、半月型の大きな鼻、毛髪の類は無く、背丈は私の半分程度。声からして、恐らく男性だろう。

以前本で読んだのと全く同じ特徴を持つ小鬼、ゴブリンで間違い無い。

しかし、服装は野蛮そうな腰蓑などではなく、我々人間が着ているのと何ら変わらないシャツとズボンを着用している。

更に、そのとびきり大きく丸っこい瞳には、ゴブリン特有の下卑た悪意など1ミリも存在せず、逆に純粋な優しさと慈愛に満ちてキラキラ輝いて見える。眩しい。



「…えと、イワン君って子を連れ戻しに来たんですけど…。」


「イワン君?イワン君でしたらさっき、お友達と砂場で遊んでましたが…

おかしいですね、今日はイワン君ママが直接お迎えに来る筈だったんですが?」


…え?これはひょっとして、マズい状況なのでは?

ゴブリンに凄く見られてる。

凝視され過ぎて穴が空くんじゃないかってくらい、怪しまれてる。


「先程、見張りのエクレールスネイクという魔害獣から報告がありましてね。

やたら強い少女2人組の変質者が、この森に侵入して来たとの事なんですが……?

貴女達、狙いは何なんですか?もしかして、子供達を攫いに来たとか!?」



…そう言えば、ゴブリンは動物と会話が出来る能力があり、様々な動物を従える事が出来るという。

そしてそれは、魔害獣であっても例外ではない。


気が付けば、さっき戦ったエクレールスネイクがどこからともなく姿を現し、私達の背後で睨みを利かせている。

成る程、この蛇はゴブリンの仲間だった訳か。


そして、今の状況。

ミイラ取りがミイラになるというか、何故か私達がゴブリンに誘拐犯扱いされている。

このような事態を、一体誰が予測出来るのだろうか。


「いや、えっとですね…」


「んん?貴女達、どこかで見た顔ですね?確か、手配書の…」

「あ゛ー!!アタシ達、怪しい者じゃないからー!」


しまった、今回はゴブリンと戦う前提でここに来たので、変装するのを忘れていた。

私とコロちゃんは急いで懐から付け髭を取り出し、装着する。


「なんだ、別人か。」


「ええ、そうですー。」


良かった、誤魔化せた。


「で、貴女方が不審者でない証拠は?」


「あぅ…、それは…」


誤魔化せたけども、状況は振り出しに戻っただけだ。

私達がしどろもどろな状態になっていると、背後から馬の駆ける音が聞こえてくる。

それに跨っていたのは、この一連の流れの元凶であり、救世主ともなり得る人物だった。



「おや、イワン君ママさん。」


ウシール村で泣いていた、イワン君の母親だった。


「え、園長先生待って下さい!その人達は、怪しい人じゃありません!

私の所為で、誤解してしまったんです。」


「ほう…?」


イワン君ママは、馬から降りるなり私達の無実を訴えてくれる。

それからは、イワン君ママに事情を説明して貰い、園長先生と呼ばれたゴブリンを宥めて貰い、何とか誤解は解かれた。











◆◆



「分かりました、この二人が旅の方で、早とちりしてここに来てしまったというのは、理解しました。」


私達は、園長先生に建物内へ案内され、イワン君ママと共に応接室らしき部屋に招かれた。

ここへ来る途中、数十人の子供達と、その面倒を見ているゴブリン達を目にした。

つまり、この施設は……



「ようこそ、私立保育園『ゴブリンの森』へ。

私は園長の、ゴブロスと申します。以後、お見知り置きください。」


テーブルを挟んで向かい合い、物腰穏やかなゴブロスさんに名刺を渡された。

ゴブリンが保育園とは、こうして目の当たりにしても未だに実感が湧かない。


「ど、どうもご丁寧に。」


そして、このやたら社会性のあるゴブリンの人も、私とコロちゃんの持っていた常識をひっくり返すには十分過ぎる存在だ。




「…どうやら、この園を見て驚かれているようですね。

無理もありません。我々ゴブリンは本来、野蛮で文明的とはとても言えないような種族ですからね。」


「ええ、失礼ですけど正直な話、ついさっきまでそういった認識でした。何かすみません。」


「いえ、逆の立場であれば、私もそのように思っていたでしょう。

お二人共ご存知かとは思いますが、ゴブリンは以前、無法の限りを尽くした末に帝国によって殲滅され、その数を著しく減らしてしまいました。」


「そこまでは、一般的な常識よね。」


コロちゃんが言う。


「私は以前から、ゴブリンの中でも異端児とされてきました。

人間との融和、共存を主張し、蛮行を止め文明的に生きようと。

今日の食糧よりも、未来の子孫達が平和に暮らせる世の中を創ろうと、ずっと訴えてきました。」



ゴブロスさん……




何て意識高いゴブリンなんだ…!



「その結果、私と同じような考えを持つゴブリン達が集まり、少しでも人間の側に歩み寄れればと思い、この保育園を創設しました。

人間の言葉も、必死になって勉強しました。

皮肉にも皆、帝国の大規模討伐作戦によって、本格的に種の将来に危機感を感じ、行動を起こさねばと感じたのかもしれません。」


「でも、それだけ仲間をやられて、帝国に恨みは持ってないの?」


「全く持ってないと言えば、嘘になりますが…

殲滅されたのは、ほぼ全員が野蛮で残虐な者達ばかりです。因果応報と言えますでしょう。」


「成る程、ひと口にゴブリンって言っても、色んな人がいたのね。」


私とコロちゃんは、素直に感心する。

ゴブリンの中にも、こんな立派な考えの持ち主がいたという事実に感動し、同時に自分達の認識の狭さを実感させられた。


「私達も、まだまだですね。」


「うん、そうね。」



隣で黙って聞いていたイワン君ママを見て、ふと気になった事を聞いてみた。


「そう言えばイワン君ママさんは、どうして泣いてたんですか?」


忘れかけてたけど、あれこそが私達の誤解のきっかけでもある。



「ああ、あれねぇ。

ほら、私って子煩悩だから、夕方までとはいえ、息子と離れ離れなのが辛くって。」


「イワン君ママは、いつもそんな調子なのですよ。

送迎用の保育園馬車にイワン君を乗せた後、毎回泣かれてしまうようで。」


「お恥ずかしい。」


いや、紛らわしい。

という事は、あれですか。

あの時、「ダメェェェェッ!!」って必死に私達を止めてたのは、私達の身を案じてただけではなく、ゴブリンに手を出そうとしてたのも止めようとしてたって事か。



「ところで、我々の事情を知って貰った上で、お二人にご相談があるのですが。」


ゴブロスさんに改まってそう言われ、私達も思わず委縮する。


「何でしょうか?」


「お二人は、あのエクレールスネイクを難無く退ける程の実力者です。

その腕力を見込んで、頼みたい事がございまして。」


「…詳しく聞かせて貰いましょうか。」


突然の依頼だけど、話だけは聞いてみよう。

この保育園に来たのも、何かの縁かもしれないし。



「実は、当園はある人物から所謂、嫌がらせを受けていてですね。

正体は、この一帯の土地を狙う地上げ屋のような者なのですが…


その連中が明日、本格的にこのゴブリンの森に立ち退きと土地の売却を迫って来ると、脅しを受けたのです。」


何か、思ってた以上に深刻で、複雑そうな問題だ。



「そこでお二人には、連中が強硬手段に出た場合の護衛をお願いしたいのです。」


「成る程。で、そんな荒事を私達に依頼するって事は、向こうにも相応の実力者がいるって事ね?」


「ええ、〝達人〟がいます。しかも、ウシール村の監督官です。」


私は、耳を疑った。


「監督官が、地上げ屋紛いの事をしてるんですか?世も末ですね。」


「ここは田舎ですから、多少の違法行為は簡単に揉み消せるんです。

相手は元々裏社会の大物だった人物なので、尚更と言いましょうか。」


リスキーな依頼だけど、こんな悪どい監督官を見過ごすのも寝覚めが悪い。

それに、こんな善良なゴブリンや、何も知らない子供達を苦しめようとしてる輩には、キツいお灸を据える必要があるだろう。


「了解しました、引き受けましょう。

私も達人なので、ご安心下さい。」


「おお、これはなんと心強い!」


私とゴブロスさんは、固い握手を交わした。



ゴブリンの森は、私達が必ず守る!


⚪︎コロちゃんのメモ帳



ミミックスパイダー


害悪指数2280KC。

体を自由自在に変形させ、体色を変化させる事で、非常に高い擬態能力を持った蜘蛛の魔害獣ね。

口からは糸の代わりに粘着性の高いネバネバ液を吐き出す特徴があって、貼り付けの達人であるユウリさんは、それをメイン武器にしてたみたいね。

ユウリさんが武器にしてた個体は、ユウリさんが子供の頃から一緒らしくて、家族のように仲が良いらしいわよ。

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