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[20]



池田達の戦いが始まりを迎え、

結果としては難なくストレートで勝ち進んでいった。



気がついたらあっという間に決勝まで進み、その対戦相手はアメリカと下馬評通りの試合運びとなっていた。




応援も盛り上がりを見せて

自分もいつのまにか夢中になって応援していた。






決勝が始まるまでしばらく時間が空いたので、各自トイレやら、飲み物を買いに行くやら用事を済ませに行った。






俺も高橋の連れションに付き合っていた。




「ちと、緊張で腹痛くなって来たわ…」



そう言って何故か緊張している高橋は大の方へ駆け込んでしまったので、

自分は用を足してトイレの外で待っていた。






スマホの画面を無意味に見ていた。







「あの…」




「え?」



誰か小声で話しかけられた気がしたので顔を上げると、スラリとした女性が立っていた。






「これ…読んでください。」






と紙を渡されて受け取った時に、高橋が出てくる。




「ごめん待たせた!…あれ知り合い?」




そうすると彼女は急ぎ足で去っていった。




「おい…誰だよ?」


高橋に聞かれたが、俺は夢中で渡された紙を開けて読んだ。





(聞き覚えがある声…)




(ずっと探していた声…)






彼女から貰った紙を何度も何度も読み返した。







「俺、行かなきゃ…」




「え?」




「俺、行かなきゃ!」




そう言って彼女が消えた方へ駆け出した。



「おいっ!マコトー!」




背後で高橋の声が聞こえたが

俺は振り返る事もなく彼女の背中を追いかけた。







一瞬しか見なかった、その姿を必死で探した。





確かショートヘアーの白い花柄のワンピース…。





会場からは大きな歓声が聞こえてきた。




きっと決勝がはじまったのだ。






通路に出ていた観客が会場へ続くドアの中に一気に吸い込まれていく。







客が引いた廊下に





一人、彼女がいた。







彼女もこちらに気がつき、立ち止まっていた。






近づいて行くと涙を流しているように見えた。









「間違っていたらこの紙を捨てて無視して下さい。

もしかしてマコトさんですか?

私はエルヴィンです。本当にありがとう。」





そう書いてある紙を握りしめて、彼女に近づいた。








「あの…。俺、マコトで間違いないです。


エルヴィンさんだよね…」






必死にハンカチで涙を拭い、

頷く彼女の顔は

どこか初めて会った気がしなかった。








「あっちの催しの会場で

大きな声でマコトさんの名前を呼ぶお友達の声がしたから…


私ビックリして…


それで…

気になって試合中にあなたの事探したの…


でも、間違えかもしれないって思ったけど…


やっぱりお友達があなたをマコトさんって呼ぶし…


色々考えたけど…


すいません…急に…」





そう言って溢れる涙をハンカチで隠すように押さえていた。





(ずっと会いたかった…)







「…向こうと全然違う見た目でビックリしたでしょ?」



少しおどけて聞いてみたら、彼女が笑って首を横に振る。





「私も違うから…。」



そう言って胸のあたりを彼女がさする。




胸よりも思っていた以上に細身の体つきに少し驚きは有った。









「急に居なくなってビックリしたよ。」




「…ごめんなさい。」





「探したんだ…。もう一度会いたくて。


君のSNSに載ってたラベンダーの畑まで行ったよ。」





彼女が驚いて顔を上げる。







「病院でコーヒーも飲んだ。」





彼女の表情がみるみる曇っていく。





「どうして…。」




「ずっと考えていたんだ、君の消えた理由を…。

君のSNSを見て、コメントにはどんな意味が有るのか考えた。

そこに載っている写真と同じ場所を見に行った。そしたら病院が近くにあって、そこに行けば君がいるのかもしれないと思って行った。」



彼女の表情は強張り続ける。




「でも君には会えなかった。

それから色々な可能性を考えたよ…。

きっと君は何かを抱えて苦しんで居るのかもしれないって。

俺に見られたく無い何かがあるかもしれないって。」





彼女は視線を逸らし、目にはまた涙を溜めている。





「俺はこのまま君に会わない方が君のためなんじゃないかって。」






「…。」







「スッゲー悩んで…少し諦めてたけど…。」






自分も涙が出そうだったけど、思い切り耐えていた。







「でも今日君に会えて分かった。





僕は君が好きだ。」








彼女の表情が緩み、そのかわり大粒の涙が頬を伝う。






「もし君が何かで苦しんでいても、


…病気だとしても


…俺は君が好きだ。」






彼女の目から涙が溢れ、こちらをやっと向いてくれる。







「君は君の書いていた猫と同じように

生きているか死んでるか分からない状態じゃない。

今、君は生きてる。

…君と一緒に居たい。」







自分も堪え切れなくて、涙が一粒流れて行くのが分かった。









「生きているそのままの君ともっと一緒にいたい。」






俺はただの傍観者ではいれない。


君をその箱から出して、たとえガスを吸ってしまった猫と同じでも、生きてる君を見届けたい。



病気でも


病気じゃなくても


今の君と一緒に未来を見たい。








「…。」





彼女はまた下を向いてしまい、黙ったままだった。








「…迷惑かな?」





大きく彼女が首を震る。









そっと近づき、彼女に聞いた。









「はじめて会って間もないけど


…………………抱きしめて良いですか?」













彼女は驚いていたが、


少し間を空けて頷いてくれた。







そっと抱きしめると、彼女が小さく震えているのが分かった。






会場からまた歓声が聞こえてきて、

彼女を抱きしめる力がなぜか少し強くなった。






「優勝は…




チームJAPAN!!!!!」







アナウンスと一緒に大きな歓声が聞こえる。




歓声は鳴り止まない。








このままずっと幸せを噛み締めていたかった。







でも大事な話をしなきゃいけないと思っていた。




彼女を抱きしめたまま…それを伝えた











「…先ずは連絡先交換するってのはどう?」



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