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連休の後から何日も学校に行かなくなり、とうとう1週間行かなかった。
さすがに親も心配して、昨日の夕飯の時は腫れ物を触るみたいに学校の事を聞いてきた。
夜いつもは部屋に来ないのに、自分の部屋の前で足音が止まり
ノックをしないでまた下に降りていく事が何回かあった。
心配しているのがひしひしと感じられた…。
「ヤベーな…。いつまでも調子が悪いじゃ通んねーよなー。」
ボソリと呟く。
人間と会話するのも親と食事の時だけ。
顔の筋肉を使わなすぎて、口がうまく動かせ無くなっている気がした。
完全に昼夜逆転の生活。
いや、むしろ睡眠時間を最小限まで削っている。
まさにネトゲ廃人まっしぐらだ…。
ただし、自分の心の中は非常に充実していた。
タケさんに注文を受けて、
「やって来い」と言われた内容のプログラミングの勉強を死ぬほどやった。
そして必死に食らいついて行った甲斐もあり、ある程度の作業が一人で出来るようになった。
彼女に追いつきたかった…
そんな気持ちも大きかった。
ここは1週間は完全に缶詰で作業をし、
ついに教会のCGは昨日完成を迎えた。
タケさんにも
「なかなか根性があるね、君は!
お疲れ様!!!」
と労いの言葉をかけてもらえた。
エルヴィンは
「私も完成披露会に合わせて新作のコスチュームを作ってるの!楽しみにしてて!」
そう無邪気にはしゃいでいた。
それから連絡を取っていない。
今日はこの後に教会の完成披露会がある。
久しぶりに彼女に会える…。
楽しみだ。
「このまま学校辞めようかな…。」
そう考える様になっていた。
このままこの世界で学んだ方が
よっぽど生きる力を身につけられそうだと感じ始めていた。
毎日の様に新鮮な発見があり、
現実では会えないような人と繋がりが持てた。
この仮想世界に
もう1人の確固たる自分が作り上げられている感じがした。
慣れた手つきでVRを装着し電源を入れる。
自分の世界が広がる…。
いつもの場所のURLをクリックすると、
作ったばかりの教会が目の前に現れた。
まだ誰も来ていない…。
1ヶ月前はこんな自分が想像できただろうか。
こんなに素晴らしい作品に関わることが出来て、そしてとても素晴らしい仲間と出会えた…。
今はまさに、達成感と充実感に満たされていた。
「マコトさん!」
メンションでエルヴィンからメッセージが入る。
後ろを振り向くと彼女がいた。
彼女は白いミニのウエディングドレスを着ていた。
「すごい!とっても綺麗だよ!」
純白のコスチュームに包まれた彼女はいつも以上に輝いて見えて、教会とのコントラストで眩しくて、綺麗で
一瞬泣きそうになった。
彼女と一緒にいれるこの空間が充実しすぎて、現実世界はもうどうでも良くなっていた。
彼女が好きだ。
「今度、俺のタキシードも作ってくれる?」
ちょっとふざけて言ったつもりだった。
「……もう作ってあるんだ。」
…この夜が永遠に続けば良いと思った。
瞬間的に僕のアバターは彼女の手を取り抱き寄せた。
感触は一切無いのに、すごく興奮していた。
「本当に…繋がりたい…。」
そう彼女から聞きたかった言葉が溢れる。
「…会おうよ。現実でも。」
そう打って、しばらくしたら
彼女が薄く消えて無くなった。




