悪魔の塔でひとやすみ
◆◆◆悪魔の塔でひとやすみ◆◆◆
「小部屋で罠無し、いい部屋ね。」
「テントたてよーぜー。」
ここの地面は硬い、テントの杭みたいなのが刺さらないのでは?
「よっこらせっと。」
あいつ力任せに突き刺しちゃったよ。折れてないよな?
「無理やり刺しても修復されるから抜けてしまいますよ。固定用のブロックは用意していないんですか?」
「はぁ?んなもんねぇよ。」
「じゃぁ、これを使ってください。」
ネネリムちゃんが重そうな鉄の塊を取り出した。どう見ても一般人が持ち歩くようなものじゃないなぁ…。
「おぉ、サンキュー!これ、どうやって使うんだ?」
「ここにはめ込むんです。便利でしょう?」
「んー、簡単すぎて面白くねーな。アタシは火を起こしてくるぜッ!」
「発火用のアイテムでもあるのか?って、なんでわざわざそれ使うんだよ。」
小学校とかの合宿でよくやる火起こしみたいなので火をつけ始めた。俺あれ結局できなかったんだよね。
「発火草ある。」
「あれが失敗したら渡してあげよう。」
ウルちゃんは壁でトウフ小屋を作っていた。〇イクラでこれを作ると必ず何か言われるらしいが、1日しか使わないし雪も降ってないので普通の家っぽい屋根は不要だ。
「できた。能力解除。」
―大きな音を立ててトウフ小屋が崩れた。
「むう。失敗。」
「釘とか打ち始めたら板を持ち込むのと変わらないし、時間がかかる。どうしたものか。」
テントは人数分あるので問題ないが、魔法でコテージを作るのもやってみたいのだ。
「壁の形状を変える。」
壁をコの字にするようだ。これなら崩れないだろう。入口が広すぎるが。
「わしもやりたくなったのじゃ。ちょっと築城してくる!」
「築城って、影響受けてやり込んだことがあるのかなぁ?明日には帰ってきてくださいねー。」
「念話?」
「交信?神託なのかな?女神のトリアテ様と時々話しているんだよ。」
「そう。」
魔王様は料理の準備をしている。ウルちゃんが作ったかまど?に火をつけようとしたところを治癒の勇者に取られたので今は野菜を切っているようだ。双子はテントを立てている。トウフ小屋は壊れたら怖いので少なくとも今日は使わないだろう。ミレイは休眠モードに入ったのか微動だにしない。俺?俺はほら、ウルちゃんとトウフ小屋を建ててるんだよ。
「できた。能力解除。」
今度は崩れなかった。壁のパーツが2枚しかないから当たり前か。
「とりあえずできたみたいだけどこれは使わないのか?」
「テントの方が高性能です。食事の時くらいは使いましょうか。」
「それもそうか。じゃぁ、もっと改良したいところだけど、風呂でも作るか。」
「お風呂ですか。でも、お湯はどうするんです?」
全員の魔を上げすぎているので魔法でお湯を出そうとすると大惨事になる。しかし、俺には秘策があるのだ。
「インベントリにお湯を大量に入れて持ってきた。」
宿の人に頼んでお湯をたくさん沸かしてもらったのだ。1ℓあたり100DPでちょっと高い気がしたが1000ℓ買っておいた。
「たぶん熱すぎるからちょっと冷まさないと入れないと思う。」
風呂用とは伝えなかったので、お茶か何かを淹れれそうな熱さだ。
「ここに作る。」
「ああ、この建物の中なら目隠しになってちょうどいいか。」
もちろんトウフ小屋の事だ。
「素材は木にする。」
「あ、やっぱり木の壁も出せるんだね。」
「水が抜けそう。」
うーん、釘とかは用意していないし、はめ込み式のやり方なんて知らない。そうだ。
「分厚い壁を出して、治癒の勇者にくりぬいてもらおう。」
「わかった。」
デン!と木のブロックが出てきた。
「おーい、治癒の勇者~。」
「なんだー?火起こしかー?」
「火は今はいいって、なんで何個も火起こししてんだよ。」
「これ結構面白いぜッ!やってみるかッ?!」
「いや、いいや。あれを風呂にしようと思うんだけどいい感じにくりぬけないか?」
「いいぜーまかせなー。でも隊長、そろそろアタシの事は夏海って呼んでくれよな!」
「ああ、考えておくよ。」
これでそこそこ時間を稼げるだろう。訓練は無しだ。
「これ、真ん中くりぬくのむずかしーなぁ。なんかいーのねぇか?」
「こう、槍でザクザクザクってやったらなんとかなったりしない?」
「まーやってみっか。うぉりゃああ!」
治癒の勇者の奮闘の結果ボロボロになった浴槽が完成した。
「凄いな、さすが治癒の勇者だ。でも、このまま入ると痛そうだな。」
「横はこう削って、底には板を敷けばいいんじゃねぇ?五右衛門風呂みてぇにさ。」
「どうぞ。」
「どうも。そっか、なら底はボコボコのままでもいいか。よく思いついたな?」
「へへ、実はアタシ、五右衛門風呂に入ったことがあるんだぜッ!」
「え?マジで?」
「マジマジ。ひーおばあちゃんの家が古くてなー。風呂が五右衛門風呂だったんだよ。」
「もしかして薪で沸かしたのか?」
「いや、ガスだったぜ。年寄りにはつれーからな。そこだけ改装したんじゃねーか?」
「まぁ、実際はそんなもんか。」
「いやー、汗かいたし、さっそく入ろうぜッ!お湯はどーすんだ?」
「俺が持ってるから、入れてやるよ。」
空中からお湯が出てくるのは魔法みたいで面白い。インベントリは多少離れたところにも出せたんだな。確かめてなかった。
「お、サンキューッ!」
「って、いきなり脱ぎだすなよ。」
「あん?隊長、どこ行くんだ?」
「どこって、お前が入るから料理の手伝いでもしてくるよ。」
「ははーん、さては風呂ギライだな?アタシが洗ってやんよ。」
「ごゆっくり。」
壁の勇者は逃げ出した!
「いや、そうじゃないって!」
普通に脱がされた…。
「あ、すくうやつがねーな。鍋でいっか。」
「なんでそんなの持ってんだ?って冒険者なら普通か。」
「目閉じてなー。」
「ああ。」
「アタシのとっておきのリンスインシャンプーを使ってやるぜぇ。」
トリアテ様がお城作ってて良かった。見られたら天罰食らいそう…。
「入れ物はビンなんだな。プラスチックとか誰か作りそうなものだけど。」
「やりすぎると天罰食らうらしーぜ?スキルとかを使って作るのはいいらしーけどな。」
「そういえば、普通に銃あったな。」
真似して作ったやつが天罰受けるとか簡単に独占できて強そうだな。
「よしできた。もっかい流すぜー。」
「タオルだ、使ってくれ。」
「なーに言ってんだよ隊長。こーいうのは手で洗うのが、お約束だろ?」
タオルを回収されてしまった。まぁ、まだあるけど。
「どこでそんなの覚えてくるんだよ…。」
「そりゃーもちろん、ユラちゃんだッ!」
「魔王様…なんだかんだで仲いいんですね。」
「ああ、アタシ達は親友だからなッ!」
この後隅々まで洗われてしまった。
「よーし、次はアタシを洗ってくれッ!」
「え、いや、さすがにそれは…。」
「なんだよー、アタシは洗ってやっただろー?」
結局言いくるめられて隅々まで洗ってあげた。鍛えられていたし、柔らかかったとだけ言っておこう…。
体を洗った俺たちは一緒に湯船につかっていた。
「なぁ、あの時は、悪かったな。」
「どうしたんだ、急に?」
「一騎打ちの時だよ。結局お前は悪くなかったんだろ?」
「ああ、あの時か。」
「ウルちゃんが攫われたって聞いて、カーッとなってたんだ。」
「それでも手加減してくれてたじゃないか。」
「そうだけどよ…。」
「おかげでかわいい部下と風呂に入るくらい仲良くなれたってわけだ。全体的に見てラッキーだろ?」
「ヘッ。そうならいいけどよ。うっし、あったまったから上がるかッ!」
「そうだな。」
上がってみんなの所に行ったら白い目で見られた。俺は悪くない。
~トリアテ様の築城~
「ぬしよ!城が完成したのじゃ!早く見るのじゃ!!」
トリアテ様に叩き起こされた。いや、叩かれてはいないんだが。
「写真を撮って送ったのじゃ!早く見るのじゃ!」
写真を見ると、立方体ブロックを積み上げて作ったと思われる城が様々な角度や距離から撮影されていた。
「はぁ…これ、どうやって作ったんですか?」
俺はこれでも信者1号だからな。眠くてもトリアテ様を盛り立ててあげるのだ。
「今日はDPがたくさん採れたじゃろう?それを使って素材ブロックを買って積み上げたのじゃ!このブロックは並べるとぴったりくっつく優れものなのじゃ!」
リアルで作ったのかよ…なんという無駄遣い。
「いやぁ、すごいですね。また神界に行く機会があったら直接案内してくださいね。」
「当然じゃ!いやぁ、いいものができたのじゃ。」
「ははは、俺は、そろそろ、寝ますね、おやすみなさい。」
「おやすみなのじゃ。」
ああ、そういえば、写真なんて送れるんだなぁ…。