第七話:事件の幕開け
TEAM食堂。社員はもちろん高校生達が一斉に集まるこの場所に今日も足を踏み入れた翡翠は、いつもなら入った瞬間に迎え入れてくれる声がないことに目を丸くした。
どうしたのかと厨房を見れば、何やら表情に明るさのないコック見習いが一人いる。
「あれ? 大地ちゃんなんか元気なさそうだね。何かあったの?」
不思議な顔をして翡翠は尋ねる。TEAMの食堂でコック見習いの少年はいつもは元気に鍋をふるっているが、今日はどこか変だ。それに食事をとっていた幼なじみの少女はあっさり答える。
「ほっときなさい。また料理長に大目玉くらったんでしょ」
大地の彼女である優奈はワカメスープを口に運んだ。とはいっても、大地が料理中に覇気がないのは珍しいため、少しばかりは心配しているが……
「ああ、そんなところだがな。それより紫織は大丈夫なのか?」
自分達以上にショックを受けた紫織は食堂にも顔を出さなかった。おそらく、まだあの威圧感が抜けてないのは容易く想像出来るが、突っ込まないのはバスター故だ。
「紫織は寝てるよ。やっぱり疲れてたのかな、連日の任務だったんでしょ」
違うと思ったのは大地と翔だけ。しかし、義臣が威圧したとは口が裂けても言えなかった。信頼関係があるからこそ、荒立てることでもないからだ。
「そうか。白が帰って来たら食事を紫織の部屋に運ばせる。だが、快の奴はどうしたんだ? 寝てるわけもないだろう?」
最もな問いに食堂にいた面々は首を傾げた。本日、快が所属するサッカー部の練習は休み、剣道部と弓道部が遅くなると聞いてるぐらいだ。
ならば、考えられるのは一つだけと優奈は答える。
「次の任務の打ち合わせかしら? ブラッド崩壊以来、大きな任務が来てないのでしょ?」
「そうだね。だけど、嫌な予感がする……」
翡翠はブラッドと戦った時と同じ、不安が胸を埋め尽くしていた。
そしてその当人は……
「俺は飯が食いたいんだがな、社長」
夕食前に呼び出され快はご機嫌ななめなのだが、義臣は口角に笑みを浮かべてあっけらかんとして答えた。
「そう怒るなって! お前に面白い任務を流してやるからさ」
義臣は書類を快に投げ渡した。それが今回の事件の幕開けだった。




