第三十九話:霧澤美咲
霧澤美咲、かつてTEAMに所属していた義臣達の幼なじみ。その彼女は確かに存在していて、死んでいった……
柔らかな陽光がとても心地好いと思った。そして、その光がよく似合う声の持ち主が自分をその世界へと誘ってくれる。
「美咲ちゃん、美咲ちゃん」
「……夢乃」
眠り眼を擦りながら美咲は意識を現実に向けていく。そこには赤ん坊を抱いた穏やかな美女がいた。
「おはよう、珍しいね、美咲ちゃんがお昼寝してるなんて」
夢乃はふんわり笑う。風通しのよい篠原邸の裏庭は絶好の昼寝スポットだ。
「たまにはね。それより、また快君大きくなったんじゃない? ついこの前までヨチヨチ歩きしてたのに」
「そうなのよ、どうも発育が早いみたいね。この前も風野博士に検査してもらったんだけど、普通の子よりIQレベルも高いみたい。細胞操作の実験を私達夫婦でやりたいと言われた時には驚いたけど、こんなに健やかに育ってくれたならいうこと無いな」
「確かにね、どこの子も皆元気ならなにより」
美咲は少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。彼女にも一人女の子がいる。しかし、その子は今、美咲の傍から離されているのだ。その話は追々語られることになる。
「美咲ちゃん、大丈夫。すぐに会えるよ」
夢乃が言うならそうなんだろうと美咲はそう思える。彼女は綺麗に笑った。
「美咲」
「龍一」
美咲は当時、影の総隊長の任についていた瀬野龍一が現れたと同時に凜とした表情を浮かべた。
「義臣からの召集命令だ。すぐに出るぞ」
「分かった」
美咲は瞬時にその場所から消える。その直後風野博士は現れた。
「夢乃君」
「風野博士、あの二人が呼び出されるなんてただ事ではないようですね」
美咲はTEAMの中でもかなりの使い手だ。彼女と龍一が組まなければならないほどの任務となれば危険を伴うもの。
「ああ、二人には申し訳ないが、私の細胞バンクに接触してくる不届きものを懲らしめてもらうことになった。組織の名は『ブラッド』、氷堂が作り上げた無法者集団だ」
それを聞いて夢乃は飛び出そうとしたが、風野博士はそれを止めた。
「医療兵が今回の前線に出てはならない。色鳥透士が不在の中で君が負傷してもらっては困る」
「だけど……!!」
「私がここに来たのは彼等と戦うため。大丈夫、科学の面においてはTEAM一番ではあるからね」
それだけ言い残して風野博士は消えていった。
そして社長室にTEAMの三小隊が集められていた。
「およそのことは聞いてるな。ブラッドに風野博士が掃除屋界のために作り上げた研究品の数々のデータが流出する事態が起こった。悪用される危険性が高いものもある。そうなる前に奴らを始末しろ」
いつも以上に張り詰めた空気。事態は最悪の時間へと突き進み始めた……




