第二十四話:義臣の決断
物心付くころには父親は行方不明、いや、正確に言えば遺跡発掘のために世界を放浪してた。
写真は見ていたからすぐに父親だとわかったが、いきなり現れて自分の大切な婚約者をさっさと助けて、現在社長室に閉じこもっているのである。
「面白くねぇ」
「そう怒るな。気持ちは分からんでもないがな」
苛々している龍二を快は冷静に宥める。しかし、宥めている本人も決していい気分というわけではなかった。
出来るなら社長室に盗聴器でも付けてやりたいところだが、ちゃらんぽらんながらも最強の男がそれを見破らないわけもないのだから……
そんな二人の様子を傍目に、白真はコーヒーを飲みながら修に尋ねた。
「だけど、アレだけのメンバーが揃って何話しているんだろうね」
「今度の作戦か失態の反省ってところだろう。それに俺達に聞かれたくない影の内容かだろうな」
修の予想は半分だけ当たっていた。
「よく集まってくれたな、脩三、龍一、太陽、そして夢乃さん」
最後だけ間違いなく愛妻家の声のピントが上がった。この場に集まったのは修、龍二、大地の父親達である。かつて最強のバスターとして掃除屋界にその名を轟かせた人物達だ。
「まったく、こっちはとっくにバスターを引退した身だって言うのに、大原ちゃんの情報網まで利用して探すなんてなんてひどい奴だ。世界の遺跡が俺を待ってるって言うのによ」
龍一は高校卒業とともに遺跡探索に出た男である。影の総隊長の役柄は義臣が放浪するついでに与えたのだ。
もちろん、影は総隊長不在で少しばかり混乱したわけだが……
「まあまあ、そう文句言うなよ。こっちだってそれなりの事情があって呼び付けたんだ。俺達の息子がクローン人間として存在している可能性があるからな」
「……風野博士の研究が使われたのか?」
脩三の問いに夢乃は俯いた。細胞バンクが義臣と夢乃の子供の細胞を手に入れるチャンスは一度だけ。八年前、流産した男の子がどのように処分されたかなど知りたくもない。
しかし、細胞バンクにとっては絶好の研究材料になったのだろう、容易にその子の細胞を手に入れ、あとはクローン人間を造るだけとなった。
「ああ、陽子の様子からも間違いなく風野博士が研究していた人間兵器として造られたクローンだ。だが、その暴走は快に止めさせる」
部屋の中にいた全員が驚きを隠せない。いくらこの内容を伝えなくても、自分の弟を始末しろといっているのだ。
「苛酷な任務だとは分かってる。だが、あいつに任せるしかない」
重い決断だった。




