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3-11  1000年前の勇者  その1 サミュエルの回想

大賢者サミュエルの回想話です。


 故郷は魔王とその配下によって蹂躙された。

理由は私達の種族がなびかなかったからだ。

エルフは争い事を好まぬ平和を愛する種族だ。

人間を滅ぼす相談になど乗れるわけがなかったのだ。


「ではおのれらの信義と共に滅びるがよい」

魔王が下した号令と共に戦闘が始まった。

私達は普段平和に暮らしているが降りかかる火の粉は払う。

そんなのは当たり前の話だ。


 何人かの魔人や魔貴族を倒せたがそれ以上に

奴らはめちゃくちゃに暴れ回った。

私は戦闘の途中意識を失い気がついたら涸れ井戸の底に居た。

誰かが放り込んでくれたのだろう。


 井戸からはい上がると戦闘は終わっていた。

生き残ったのはどうやら私を含め数名だけらしい。


 また魔王と魔人が襲ってこないとも限らない。

私達は故郷を離れ流浪の旅に出た。

旅の途中で定住できそうな森を見つけ

結界を張り隠れるように生活を始めたのだ。


 だが魔王をどうしても許すことの出来なかった私だけは

魔王を滅する手段を探す旅に出たのだ。


 さまようこと丸一年。

なんの手がかりも得られぬまま一度村に帰ろうとした時である。

なだらかな丘が連なる丘陵地帯で盗賊に襲われた。

正確に言うと襲われそうになった。

 

 見たところ何のスキルもなさそうな連中である。

無駄な殺生はしたくなかったので適当に眠らせてその場を

立ち去ろうと考えてたその時。


 彼等は忽然と姿を現した。


 二人の若者のうち一人がすっとぼけた口調で話しかけてきた。

「オッス、オラ正義の味方。悪い奴はどっち?」

私は黙って五人の男達を指さす。


 盗賊の一人が大声を上げた。

「あぁん?なんだてめーら!何が正義の味方だコラ。

カモが増えただけだぜ、死ねやぁぁぁぁぁぁ!」


 大上段から振り下ろされたその盗賊の剣が宙を舞った。

握っていた両腕と共に。


「はぇっ!う、うわぁぁぁぁぁぁ!俺の手ぇぇぇぇぇぇ!」

「やかましい」


 もう一人の若者が剣に付いた血を払いながら言う。

すっとぼけた若者が再びのんびりした口調で

残りの盗賊に話しかけた。

「さて残りの皆さんはどうします?」


 四人は剣を構えたままお互い顔を見合わせている。

一人の悪そうな面構えの男が言った。

「ふっ、そんなもん。逃げるに決まっとろうがぁぁぁぁ!」

四人は一目散に駆けだした。


 私は落ちている剣から切られた手を引きはがし

尻餅をついてへたり込んでる盗賊に近寄った。

「そのまま。動かないでください」


 切り口は綺麗だった。

この若者は相当の手練れに違いない。

左右を確かめて切り離された両腕を治癒魔法でつないでやった。


「どうです?動きますか」

「あ、ああ・・・・すまんね」

「いえいえ。なにも取られてませんし」

「そ、そうだよな。未遂だったし、な。

えっと・・・・帰っていい?」

「ええ、お気を付けてお帰りください」


 盗賊はこちらを見ながらゆっくり歩き出し

少し離れたところで駆けだしていった。


「お二方、命拾いしました。ありがとう御座います」

二人に向かってお礼を言うと返事の代わりに腹の鳴る音が聞こえた。

盗賊の腕を切り落とした若者がばつの悪そうな顔をしている。

「干し肉と乾パンがあります。よろしいかったらどうぞ」

「かたじけない」


 食べながらむせている若者にもう一人が水魔法で水を飲ませた。

「いやー、正直助けいらなかったでしょ?

なんか俺たちの方が盗賊みたいだね。ごめんごめん」

「いやいや。物理系は苦手だったので助かりましたよ。

申し遅れました、私はサミュエルと申します」


 二人が真顔で顔を見合わせている。

「え、なにか?」

「い、いやーなんでもないよー。

俺は*****。

この凄腕剣士はアーノルドだ」


「そうですか。お二人はどちらに行かれるんですか?」

「それが解れば苦労しないんだけどね」

「はい?」


「サミュエルさん、魔王の居場所知ってる?」

「各所で暴れてるみたいですね。

普段は魔王城にいるはずです。

まあ私も城の場所は知りませんが。なぜそんなことを?」


「魔王を倒すとアーク王国の王様がご褒美くれるんだって!」

「ああ、それで。ならば私もご一緒させていただきたいのですが」

「うん、いいよ!」


「そんな簡単に返事していいんですか?」

「目の前ですっげぇ治癒魔法見せてくれたじゃん。大歓迎だよ!」

「ありがとう御座います、えー、*****さん。アーノルドさん。

すいません、*****さん?ちょっと発音しにくい名前ですね」


「じゃあ勇者って呼んで」

「えっ!勇者様でしたか!」


「うん。アーク王国が勇者を募集してたので応募したら

先着100名様の中から抽選で選ばれたの」

「そ、それは運が良かったですね」

「だよねー。当選者は城に呼ばれてこの勇者の剣を渡されてね。

路銀も渡されたんだけどたいした額じゃなかったので

今はすっからかん。

空きっ腹を抱えてたところサミュエルさんが

襲われてるとこに遭遇して」


「ええ」

「助けたらなんか食わせてくれるかも!

などという下心満載の善意を抱えて馳せ参じました!」


 屈託のない笑顔で話をする勇者。

あまりの人懐っこさに私も頬の筋肉がゆるんでしまった。


「ところでサミュエルさんは耳が長いけど。エルフさんなのかな?」

「あ、はいそうです。今年で300才になります」

「うぉっと!これは失礼しました。

見た目が俺らと同じくらいに見えましたので。

俺たちは同い年で二人とも25才です」


「いやいや、ため口でいいですよ」

「ありがたい。じゃあサミーもため口でよろしくね!」


 親しげにサミーと呼ばれた事など今まで一度もなかったので

なんだか嬉しくなってしまった。

「了解。じゃあ普通に話をするよ。

ここで立ち話も何だし最寄りの町を目指すって言うのはどう?」


 アーノルドが小さく手を挙げて賛成と言った。

ふと気がつくと勇者がいない。


「消えた。どこにいったんだろ?」

アーノルドが黙って上を指さす。

上空に黒い点が見えた。

「空の上から町を探してるんだ。見つけたら降りてくるよ」


 とん、と音がしたので振り返って見ると勇者が立っていた。

「アッチの方角に町を発見。じゃあ行こうか!」


 勇者が私とアーノルドの腕を掴む。

そして勇者が開けた空間に三人で飛び込んで行った。


 こうして私達の冒険の旅が幕を開けたのである。


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