表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/149

2-31  実験国家と魔人達 その1


 パールバディア国王であるエインリヒ・H・パールバディアは

ルド王国女王からの書簡を受け取った。


「グレイン、ルド王国の女王が私に会いたいそうだ」

「ご自由にどうぞ」

「いや、会わないよ」

「なぜ?」


「戦争が始まる前にルド王国主導の安全保障会議に参加して

調印まで終えているからな。

この国が無事だとわかったら魔王討伐軍に加われと言ってくるだろう。

そういう約束になっている」 

「なるほど、それは面倒くさいね」


「グレインが連れてきた魔人達は皆上手く

パールバディアにとけ込んでいる。

中には魔人の兵士と結婚している国民までいるのだ。

他の国には悪いが約束は反故にせざるを得ないな」


 グレインは腕組みしながら王の顔をじっと見ている。

「ふむ。ではルド王国にはなんと返事をするつもりだ?」

「正直に言うしかあるまい。

我が国は魔人軍の占領下にある、だが平和なので手出し無用とな」


「ほほう、王もジョークのセンスがあるようだな」

「いたって真面目だがね」


「ではこうしよう。私が占領軍の代表として

ルド王国の特使と会談しよう。

場所は国境にある関所でいいだろう」

「ではそのように連絡をしよう」


~~~~~~


 ルド王国の王城の一室、女王の執務室には

マチルダとアレックスが居た。


「母上、パールバディアの王はなんと?」

「会うことを拒否されたわ。

書簡にはパールバディアは魔人軍の占領下にあるため

自由に動けないと書いてあるわね」

「しかし、我々の偵察部隊が行った時には魔人などおらずに

国民は平常通り平和に生活していたとのことですが」


「そうね、その辺のことは国境沿いの関所にて

占領軍の代表がご丁寧に説明してくださるそうよ。

私が行っていいかしら?」

「ご冗談を母上。外交上そのような場に女王陛下が行けばなめられます。

私が行きましょう」


「あなたが行くのもどうかと思うけど」

「魔人の司令官をこの目で見ておきたいのです。

クルトフであれだけ我々を苦しめた張本人を」


「仕方ないわね。護衛を連れて行きなさい。

条件としては会談場所の関所にはお互い武器を持ち込まない

事になっているけど、相手は魔法使いですものうちが不利だわ」

「エリックに護衛を頼んでみます」

「それがいいか。私からも要請してみるわね」


~~~~~~


「もちろん良いですよ。殿下の護衛としてお供いたします。

アケミの事も詳しく聞いてみたいですし」

「ありがとう、エリック」


 パールバディアの現状の話は俺も聞いている。

が、占領されているけど平和ってどういう事だ?

安全保障条約の件もある。


パールバディアが窮状に陥っていたら支援せねばなるまいし

平和であるなら討伐軍に加わって欲しい。

ところがそのどちらでもない状況は誰も想定していなかったからな。

さすがの殿下も頭上にハテナマークが浮いてる状態だ。


 実際に占領軍である魔人軍の代表と会うのは

殿下と俺だけである。

戦時中に敵軍との会談の場を設ける際には

双方共にいつでも軍を動かせるように待機させておくのが普通だ。


 今回はクルトフ方面軍にその任に当たって貰うことになった。

俺は殿下と二人で空を繋ぎクルトフに移動した。

殿下だけなら一回で済んだのだがもう一人連れて行く事になったので

再び王都に帰る。


「セシリア、なんだその荷物は」

「女の子は色々と大変なんですぅ」


 おそらく一泊で終わるはずなんだが

あえて俺は何も言わずにセシリアのばかでかい鞄を収納し

手を繋いで空間を超えた。


 その日の夜はブラン将軍の屋敷で一泊させて貰うことになった。

夕食をご馳走になり食後のお茶を飲みながら明日の予定を確認する。


「国境の町まで既に部隊は移動を完了している。

後は我々が行くだけだ。

聖女様はここで待っててくれるだろうか?」

「はい?殿下、もしもの時のために私が来たんですから。

部隊と一緒に近くで待機しますよ」

「そ、そうか。そのために来てくれたんだったな」


殿下がちょっと顔を赤らめてる。

自分のために聖女様が名乗りを上げてくれたくれた事が嬉しいみたいだ。


「エリック、明日は国境にある関所まで連れて行って欲しい」

「了解しました」

その後少し雑談して就寝した。


 次の日の朝食後に関所まで移動。

部隊の配置を整えて殿下と俺は会談が行われる

関所の建物に入って行った。


 すでに魔人は到着している。

長いテーブルをはさみお互いが着席した。


「私がパールバディア占領軍のグレインだ。位は少将。

こちらは副官のワッツ中級佐官だ」

「ルド王国王子であり魔王討伐軍司令官の

アレックス・ボ・ルドウィンだ。

こちらは護衛のエリックだ」


 グレイン少将とやらがジロジロと俺を見ている。

「失礼ながらエリック殿に階級はないんですかな?」

「階級はありません。肩書きならありますが。

勇者をやってます」


「ふむ、やはり。あの時クルトフの城壁で会ってますな」

「あの時?」

「そう。アケミ嬢を誘拐した時です」

「思い出した。貴様・・」

「エリック落ち着け。

すまんがアケミ嬢の話は後に廻して欲しい」

「・・・・すいません」


 殿下は落ち着いている。

取り乱した自分が少々恥ずかしい。

俺はしばらく黙っていることにした。


「さて、グレイン少将。パールバディアの現状をお聞かせ願いたい」

「いいでしょう。

まず我々はパールバディアの軍を制圧しました。

襲ったのは駐屯地に居る軍と王城だけですな。

一般市民には手を出してません」


「それだけですか?」

「実際の戦闘行為はそれだけですな。

次に本国から文官を呼び寄せパールバディアの行政に当たらせました。

もちろん元々いたパールバディアの行政職員は

そのまま仕事を続けて貰っています」


「なぜそんな事を?」

「王子殿下、ここからが本題です。

私の部隊はパールバディアで実験を行っております。

第一に魔人と人間の共存です。

第二に共和制の導入ですな」


「共和制・・・とは?」

「簡単に言えば民の代表者達が会議を開き

国の運営に携わっていく制度です」

「それをわざわざ人間の国でやる必要があるんですか?」

「あります。魔人の国は既に十二人会議という

国民の代表者12人からなる最高機関が存在します」


「しかし魔王が絶対君主なのでは?矛盾してませんか」

「してますな。ですが魔人の国のすべてを

魔王様一人で決定することなど物理的に不可能なのです。

生活に関わることなどは十二人会議で決定し

魔王様の承認を得る形を取ってます」


「なるほど。魔人の国の政治形態を人間の国でもやらせて

魔人と人間が共存できる国を作りたいのですな?」

「その通りです」


「しかし結局それはあなた方占領軍が

国民に押しつけている訳ですよね?」

「現在のところはそういう形になってます。

武力で侵攻した事実は変わりませんので否定しません。

が、最終的にはもし民が話し合った結果魔人を追い出して

討伐軍に参加する決定を下すならば、それをも出来る形態にしたい。

まあ、出来れば平和に共存して欲しいのが我々の願いですが」



 黙って話を聞いていたが、毒気を抜かれるとはこのことだ。

まさか魔人の口から平和や共存といった言葉が出てくるとは。

殿下とグレインの話は続く。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ