2-28 激戦のウーファ
「おいブランカ、いったいどうなっている!」
「討伐軍が反撃してきました!西の門が突破されます!」
討伐軍は夜明け前に街道沿いの魔人は一掃することができたので
ウーファの城壁まではスムーズに部隊が移動できていた。
西側を攻めている間に南側のエスタンに続く街道と
北側の門にも部隊を送り込む。
空が使える部隊は小銃を抱え港を目指した。
討伐軍は四方からウーファを囲む形となった。
ヴァレリ中将のもとに伝令が走ってきた。
「中将閣下!すでに四方を敵に囲まれています!」
「こうなったら各個撃破しかあるまい。
たった数週間で撤退などできるか!」
ブランカはその命令を覚めた気持ちで聞いていた。
ヴァレリは死刑宣告を自分に下したも同然なのだ。
「おいブランカ、ぼけぼけするな。お前も敵を殲滅してこい!」
「アイサー!」
陣を敷いてある中央教会から中庭に出るとボイド達がいた。
「ボイド部隊の皆さん、何してるのかなー?」
「ブランカ副官。我々も出撃するところです」
「どこに?」
「は?」
「行くだけ無駄よ。あんた達はグレイン少将から預かってる部隊。
ここで死なせる訳にはいかないわ。さっさと逃げなさい」
「しかし・・・・・」
ブランカがつかつかとボイドに近寄り顔を寄せ小声で話し始めた。
「あんた達も敵の新兵器の話を聞いているでしょ。
あれは反則だわん。
嘘だと思うならまず見てきなさい。
その上で勝てる見込みがあると思うなら忠義に散れば良い」
「わかりました。まず観察します。ブランカ殿は?」
「中将には世話になったしね。見捨てる訳にも行かないのよん。
でもあんた達は別。
出来れば生きてグレイン少将にありのままを伝えて欲しい」
ボイドはじっとブランカの顔を見た。
「なに?もしかして惚れた?」
「いえ、それはありません。ブランカ副官もご無事で。では」
五人は教会の敷地を出て表通りに移動する。
一通り市内を見て回り、開いてる家屋を見つけ中に入った。
「あの新兵器のおかげでかなりの劣勢だな。
それにまさかここまでの大部隊を一気に送り込んでくるとは。
さて諸君、我々はブランカ副官の『要請』を受けた。
逃げようと思う。どこに逃げる?」
サラが懐から地図を出しテーブルに広げた。
「ボイド隊長、おそらく主要な街道はすべて封鎖されてると思います」
「そうだな、手薄な所はあるだろうか?」
「おそらくここでしょう」
サラが指し示したのは森と平原が交互に入り交じる未開拓地域だった。
「ここを通り抜けるとツイーネのだいぶ西側、
サフラスとの国境近くに出ることになるな」
「ええ、こちらは側は我々も部隊を置いてません」
「ここしかないか。よし、まずは南西の城壁を目指す」
既に教会の廻りでも戦闘が始まっていた。
小競り合いに遭遇したときは手助けに入るが
大部隊は相手にしていられない。
ボイドと五人は城壁の上に降り立つ。
「まずあの森の入り口に行こう」
皆で森に入る。
再び地図で確認。
サラが提案する。
「ツイーネの王族をかくまった村を目指しましょう」
ボイドが承認する。
全員で森の中からウーファの城門を見た。
「まだ部隊があんなに控えている。
いったい何人連れてきたんだ」
しばらく眺めた後彼等は森の奥へと消えていった。
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ヴァレリは怒りにまかせて魔法を駆使し市内を暴れ回った。
討つ敵に事欠かない状態。それだけ味方が少ない。
突然背中に痛みが走った。
「なんだ、今のは?」
振り返ると通りの向こうに討伐軍の兵士が数人銃を構えている。
「あの距離で届くのか。こしゃくな」
ヴァレリは空を使い銃を構える兵士達の
ただ中に降り立ち剣を振りまわす。
数人の首が宙を舞った。
「アホどもが。接近戦では飛び道具など役に立たん!」
だがいかんせん数が多い。
斬っても斬っても沸いてくる討伐軍の兵士達。
ヴァレリの体力も限界に近づいて来た。
ふいにブランカが傍らに姿を現す。
「中将、こちらですわ!」
ブランカはヴァレリの手を掴み空を数回繋ぐ。
教会の裏手にある倉庫に逃げ込んだ。
「ブランカ、お前俺を掴んでの移動が出来たのか?」
「出来ますわよん。今までご披露する場面がなかっただけですわん」
「ふっ、まあいい。少し休んだら出るぞ」
「ここで討ち死にするおつもりで?」
「俺は仮にも将軍だぞ。部下を捨てて自分だけ逃げるマネはできんな」
「勇ましい事ですこと。
しかし生きていればまた反撃の機会も巡ってきますわ。
中将、生き延びるべきです」
ヴァレリは背中の傷の痛みがどんどん増してくるのを感じた。
心臓が脈打つ度に背中に痙攣が走る。
「どのみち俺はもう長くは保たん。
お前は逃げろ。逃げ道があればな」
ヴァレリは立ち上がりドアを開ける。
「ブランカ、たった今副官の任を解く。あとは好きにしろ」
表情は逆光で見えなかった。
残されたブランカはため息を一つつき呟いた。
「馬鹿ね。本当に」
ブランカは投げ捨ててあった修道女の服を羽織り港を目指した。
沖に停泊してるのはガウンムアで接収した船だ。
あらかじめ一隻だけ沖に待機させておいた。
一気にその船の甲板に降り立つ。
「これ以上ここに留まっても誰もこないわ。
出航してちょうだい」
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市街戦はほぼ終わった。
四方から進入した討伐軍は中央広場に続々と集結している。
アレックス殿下と俺は一人の体格の良い魔人の死体を眺めている。
「エリック、この男が将軍なのだろうな」
「ええ、階級章からしてそうだと思います」
ウーファの町は全滅させられたと思われていたが
小数の市民は魔人軍の食事の世話や夜の相手のために生かされていた。
彼等が言うには正規軍、討伐軍ともにウーファに居た部隊は全滅したそうだ。
「殿下、ダニエル達は・・・・」
「良く戦ってくれた、としか言いようがない」
二人で黙っているとギルバートが近寄って来た。
「殿下、エリック」
「ギルバート」
彼は剣士として殿下の部隊に配属され階級も少佐だ。
幼い頃から剣に慣れ親しんできたギルバートは銃は馴染まないと言い
かたくなに剣にこだわってきた。
その彼が階級を落としてくれてもいいから
銃を与えて欲しいと言って来た。
「殿下、今更何を言うかと思われるかも知れませんがお願いいたします。
おそらく、これからの戦争は剣士は足手まといになるだけです。
今回の戦闘で思い知らされました。
今のままではタチアナとマイクルの仇を取れません。
どうか、殿下!」
ギルバートの妹のタチアナはマイクルと婚約していたそうだ。
戦争が終わったら結婚する約束だったらしい。
ギルバートは二人の仇を討つために
もはや剣士としてのプライドは捨てたのだろう。
「騎士爵家のギルバート・エステス。
新たな部隊を編成する際には隊長として取り立てよう。
新しい部隊長にふさわしい技術を培ってくれ。おい、誰か銃を」
殿下のお付きの兵士が一丁のライフルタイプの魔道銃を手渡す。
「訓練に励め」
「はっ!ありがたき幸せ!」
身近な人が死んで行く。
これが戦争なんだと完全に割り切ることなど出来ない。
「早く魔王を倒さねば」
俺のつぶやきは殿下の耳に届いて居たはずだが
殿下は黙ったままだった。




