2-27 国産ミスリル
北西部の山岳地帯から流れてくる川が渓流から清流域に変わる付近は
地形的にも平らなところが多くなってくる。
道路が整備され仮設の小屋が建てられ小さな町が形成されていった。
最初のうちは露呈している砂地にて人海戦術で砂ミスリルを採取していったが、
河川工事が行われ川の流れを変えて川底の砂地をむき出しにすると
採取できる面積が広がっていった。
人力のベルトコンベアーが稼働し始め川砂は効率よく精錬小屋に運ばれ
川砂からのミスリル採取は少しずつ生産量を増やしていった。
それと同時に有望な鉱脈探しをガルノルド教授の指示の元
探し続けていたのだがようやくそれらしき場所を発見した。
俺たちは教授の研究室で地図を眺めていた。
教授が新たに指定した地点を確認しているところだ。
「教授、ここってかなり平野部に近いですよね」
「そうだね。周辺を見るとなだらかに山裾が広がっているが
ここだけ切り立った崖になっている。
この山脈は隆起で形成されたと考えられているが、ここだけ
急激に隆起したように見えるのだ。
おそらく古い地層が露呈しているだろう」
「わかりました。とりあえず崖下の岩石を採取してきましょう」
「頼んだぞ」
「あ、なんなら教授も一緒に行きますか?」
「私を空で運べるのかね」
「ええ、訓練を積んだおかげでプラス1人くらいなら
同時に移動できるようになりました」
「ではちょっと待っててくれ」
教授は厚手のオーバーコートと道具類一式を持ってきた。
「道具類は空間収納バッグに入れますね。
では俺の手を掴んでください」
繋いだ空間の入り口に二人で同時に入る。
「おお、あっという間だな。これは凄い!」
「ええ、さらに大人数を運べるように研究中です」
「そうか、さすが勇者様だ。
で、あそこの崖なんだが。行ってみよう」
崖に近寄ってみると、かなり切り立っているのがわかる。
落ちている岩石を教授が手に取り調べている。
「うん、熱変質を受けてかなり硬化している。
この崖の内側を見たいのだがさすがに崩せたりはできんよね?」
「いや、そんな言われ方されるとやりたくなっちゃいますね」
「では頼んだ」
危険なので教授を連れて数百メートル下がる。
そこから数発土魔法で岩塊を射出。風魔法で加速させて崖を崩しはじめた。
辻埃を風で払ってみると地形が変わってしまった崖が見えるようになった。
「勇者君、あの中腹辺りのサンプルを取ってこれるかね?」
「お安いご用で」
取ってきた岩石を教授に手渡す。
教授はハンマーで岩石を割り亀裂を眺めたあと俺に見せてきた。
「どうだ、当たりだったようだぞ」
「おお、キラキラ度が半端じゃないですね」
「ここを掘削していこうと思うのだが手伝って貰えるかね?」
「残念ですが俺はここに張り付くわけにはいかないんです。
まず殿下に予算の都合を相談して土魔法使いとドワーフを
派遣できるように要請してみますね」
俺たちは教授の研究室に帰ってきた。
再び地図を眺める。
「古い熱変質花崗岩層が急激に隆起してる場所が見つかって良かったよ」
「ええ、当面ここの開発を行いましょう。予算の都合がついたら
教授、鉱山開発にも加わってもらえますか?」
「もちろんだ。アホ学生相手にするよりもよっぽど有意義だな」
テーブルに広げられた地図を眺める。
ここであることを思い出した。
「そうだ、教授。話は変わりますが
ラヴェイルっていう地名をご存じですか?」
「知ってるぞ。なんだ、君もオカルト好きなのかね」
「はい?」
どうやら東の海の真ん中にラヴェイルという名の大陸があったらしい。
現代よりも遙かに進んだ文明があったのだが巨大な地震とともに
一夜にして海に沈んでしまった伝説があるのだ。
「若い頃私もそんなオカルトチックな話にかぶれていてな。
眉唾物ではあるがロマンがある話だろ」
「ええ、わかります。そうですか伝説の大陸の名前だったんですね」
「うむ。ここに名前もない小島群があるだろ。
ここはラヴェイル大陸の中心部にあった山脈の頂だという説もある」
「確かめられたんですか?」
「いや仮説の類だね。
まず海流が複雑で船で近寄る事は困難だそうだ。
近寄れたとしても切り立った崖ばかりで船が接岸できないみたいだな」
「それにしても島の形とか割と具体的に描かれてますね」
「それもオカルトチックな話になるんだが。
現在使われている世界地図は過去から受け継がれた古地図を足して
作成されている。新たに測量された部分は書き換えられていく。
で、この島が描かれている地図は
現存する地図の中でも最古の地図なのだ」
「誰が作成したのでしょうか?」
「解らないのだよ。
私が見る限り1000年前の測量技術よりも
遙かに優れた手法で作成されているように思えるね。
失われた古代文明の残滓と考えるとワクワクせんかね」
「興味深い話をありがとう御座いました。
機会があれば東の島に行ってみたいですね」
「戦争が終わったら行ってみるといい」
ムー、アトランティス、レムール等々。
小学生の頃はそんな話にワクワクしたものだった。
「まさかこの惑星の住人は宇宙からやってきた移民の子孫だったりしてな」
そんな飛躍した想像はとても楽しい。
1000年前の勇者がラヴェイルに行けと言ったのはなぜなんだろう。
しかも日本語で。
謎は深まるばかりだ。
だが今は戦争中だ。
殿下達と会い話を詰めているうちに
ラヴェイルの事は意識の外に追いやられてしまった。
ドワーフは総動員で魔道銃の作成に取り組んでくれている。
既に1万丁近くの納品が終わっていた。
ライフルは試射が行われ特に精度の良い物は狙撃部隊に渡される。
貴重なガラスを磨いたレンズを使用したスコープを作ってもらい
かなりの遠距離射撃が可能となった。
既に望遠鏡は存在していたのでスコープの生産は割と早く軌道に乗った。
殿下が練兵場に魔道銃部隊を集める。
「諸君、銃は剣とは違う。騎士道精神に則った一騎撃ちはもはや通用しない。
部隊による運用が優先される。その考え方に慣れて欲しい」
殿下が魔道銃部隊に数多くの平民を登用したのはこういった訳がある。
すでに騎士道のなんたるかを学んでいる貴族の師弟は集団で1人をボコる
のを良しとしない。
あくまで一騎打ちで敵を倒すのが騎士であると教育を受けている。
その点先入観のない平民は素直に部隊運用の訓練を受けいれたのだ。
「出立は今夜だ。夜のうちに部隊をウーファ近郊に進め
朝方一気に奪還に向け突撃をする」
いよいよ始まる。
討伐軍の大部分は正面からウーファに当たる。
幾つかの小部隊はサフラス王国とグレンヴァイス王国の軍と
連係してツイーネの西側及び南側から攻め入る予定だ。
サフラスからグレンヴァイスの平野部までの街道は開通しており、
既に部隊は出立している。
グレンヴァイスの海岸沿いを奪還してからツイーネに入り挟撃していく作戦だ。
「エリック、老師殿。頼みます」
「殿下、頭を上げてください」
「いや、二人とも正式に言えば私の部下ではない。
頭を下げるのが当然なのだ」
俺と老師は受け取った魔石を使い空間トンネルを作る。
部隊が続々とウーファ近郊に移動していった。
与力があったのでグレンヴァイスの臨時政府がある温泉地にも
魔道銃部隊を送った。
夜が明けた。
殿下が号令を下す。
ウーファ奪還作戦が開始された。




