2-26 ウーファ奪還に向けて
「おい、そっちに行ったぞ!」
シルバーウルフに率いられたブロンズウルフの群れが
森の奥に逃げ込もうとしている。
待ち伏せしていた兵士達は息を切らせて走ってくる
魔物達を倒し始めた。
今現在王都周辺では大量の魔物狩りが行われている。
理由は魔石が大量に必要だから。
討伐軍をウーファに送り込むための
空間トンネルの作成に必要なのである。
それと同時に魔道銃の作成もペースを上げて居る。
部隊の増員も行われ訓練が行われていた。
特殊な能力無しに扱える魔道銃は
長期間の訓練無しに扱える程操作も簡単であるが故に
部隊の増員は急ピッチで進められた。
ウーファが落とされたと知ったときの
セシリアの狼狽ぶりは見ていて気の毒なほどだった。
彼女の両親の安否は確認できていない。
だが何の準備も無しに突っ込んでいっても勝てる見込みは少ないのだ。
可哀相だが待って貰うほかなかった。
一度目視した地点でないとトンネルは開けないので
俺は老師と共に訓練と偵察を兼ねてウーファ近郊まで行ってみた。
「老師、地形的にもこの辺りが部隊を送り込める限界ですね」
「そうじゃな。ウーファまで10km程度か。
この先の村々は壊滅状態だそうじゃな」
逃げてきたウーファや近隣の農民達から情報を聞いて廻った。
どうやら正規軍、討伐軍共に全滅しているらしい。
ダニエル、マイクル、タチアナ達はどうなっただろう。
「老師。ここまでの空間トンネルをそれなりの時間、
大部隊が移動完了するまで開いておくことは可能ですか?」
「いや、一度では無理じゃな。数度に分けるしかあるまい。
それにワシ1人では無理じゃ。
エリック、お主もここまでの距離の空間トンネルを
作成できるようにして貰わんとな」
「わかりました。教えてください」
老師にレクチャー受ける。
「魔石が大量に必要ですね」
「そうじゃな。マチルダ女王に掛け合ってみるか」
「なぜ女王に?」
「魔石の流通を管理してるのは国じゃからの。
マリアンさんが帳簿の管理をしとるそうじゃから
融通してくれると期待しとる」
マリアンに掛け合った所徴兵が増えたおかげで冒険者が減り
魔石の回収量が若干減っているとの事だったので、
討伐軍の中でも手隙の者は魔物を狩りに行くことになったのだ。
当然俺も時間があるときは参加する。
兵士達がひときわ大きいシルバーウルフを担いできた。
こいつは俺がエドのパーティに入ったばかりの頃
出会った奴だろうか?
「いや、あれはザクレム近郊の奴だもんな。
ここにはいないだろう。よし、解体を始めよう」
魔石を回収したら肉は食える。
狼の肉はあまり旨くはないが貴重なタンパク源だ。
こんな感じで俺たちは魔石の回収を続けていった。
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女王の執務室には俺、殿下、マチルダ女王の三人がいる。
「陛下、俺もここにいていいんですかね?」
「もちろんよ。外務部のスパイが魔人の国から持ち帰った情報があるの」
「えっ、どうやって」
「外務の腕っこきのスパイがいるみたいなのね。
どうやら空の使い手みたい」
「どうやら、と言うのは?」
「スパイの素性はたとえ王家の人間にも漏らすことはできないそうなの」
なるほど、面が割れてはスパイの意味がなくなるもんな。納得。
「魔王はすべての能力を揃えていよいよ
こちらの大陸に乗り込んでくるそうよ。
もちろん狙いはあなた。勇者エリックね」
ついに来たか。
だが今の俺で魔王に勝てるのだろうか?
不安はあるが俺が勝てなきゃ誰も勝てない。
やるしかない。
「わかりました。覚悟しておきます」
「頼んだわ。次にアレックス。
パールバディアの現状は書面で報告を受けたけど本当なの?」
「ええ、偵察部隊が国境を越え最初の町に入っていった所
住民達は皆キョトンとした顔をしていたそうです」
「キョトン?」
「はい、なぜルド王国軍がここにいるのかと真顔で尋ねられたそうです」
「なんと答えたの?」
「魔人軍に占拠されていたクルトフを奪還して
ここまで来た事を説明したそうですが反応が薄かったみたいなんです。
すぐにパールバディア王家に連絡を取り
偵察隊の代表が王都まで行ったのですが
魔人など影もなく国民は皆平和に生活していたそうです」
「報告書に書いてあったことは事実なのね。
パールバディアもツイーネ同様
滅ぼされたのだとばかり思っていたわ」
「ええ、なにがなんだかさっぱりわかりません。
が引き続き調査は続けたいと思ってます」
「そうね。しかしこちらの軍が勝手に他国を
歩き回ることは外交上できない。
やはりスパイを送り込みましょう。
それと同時に私の方であちらの王と
話ができるかどうか掛け合ってみるわ」
スパイと言えば俺も気になる事がある。
「陛下、ツイーネの魔人軍にはスパイを潜入させてないんですか?」
「もちろん行かせてる。でもほとんど帰ってきてないわね」
「そうですか、残念です」
「アレックス、エリック。
可及的速やかにウーファを奪還して欲しい。
魔石は王城のストックもすべて供給します」
「了解しました母上。よしエリック、
主な者を集めて作戦会議を開こう」
俺たちは女王の執務室を後にした。
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マリアンが帳簿を持って来た。
「先輩、これ以上魔石の回収が遅れると母星から文句が来ますよ」
「わかってる。でもここでルド王国が滅ぶのを
眺めてるわけにもいかないでしょう。
使うときはケチケチせずに使わせて貰うわ」
「その事で船長から話があるそうです」
プライベートスクリーンを展開する。
回線を母船に繋ぐとすぐにボイパ船長が出た。
「陛下、ご機嫌麗しゅう」
「麗しくないわよ。話ってなんですか?」
「魔石の回収なんだがこちらの地上作業員の数を増やしてみたぞ」
「大丈夫なんですか?ばれません?」
「大丈夫だ。活動地域はツイーネ国境付近だ。
死んだ魔物が大量に放置されてたし
住民は皆殺しになっていたからバレようがない」
「魔人には見つからなかったんですか?」
「ああ、今回の侵攻が始まるまでは
農村地帯なんて放置されてたからな。
そんなわけでこちらのノルマは達成できてるぞ」
「感謝します」
「元はと言えば俺の作戦だからな。責任は取るさ。
だがお互い母星にはばれないようにしないと。
じゃあがんばれよマチルダ陛下!」
船長は二本指をこめかみに当てた
いい加減な敬礼をして回線を切った。
「マリアン、聞いての通りよ。
魔石をアレックスのところに届けて頂戴」




