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2-11 ガウンムアからツイーネへの侵攻  その2 ボイド編

「ふむ、そちがボイドか。何用だ?」


 新国王に謁見する機会が与えられた。

こちらから挨拶をしたが片膝はつかない。

相手は国王ではあるがこちらは占領軍の士官だ。


「国王陛下、即位して間もない現在の多忙をねぎらいに」

「多忙?嫌味かね。見ての通りの暇人ぶりよ。

夜にブランカを抱くのが唯一の楽しみだな。

あのオッパイは素晴らしいぞ、お前もどうだ?」

「それは遠慮しておきましょう」


 たんなる色ボケのガキか。

ブランカはある意味良くやったと言えるだろう。

属国の王の振る舞いとしては最上であろう。

「ボイドとやらはドルマーの上司か?」

「左様です、陛下」

「ふむふむ。ドルマーも元々は美人であったろうにな。

残念なことだ」


 ここで王が小声になる。

「だが頭が切れすぎるぞ」

「?」


「さて、余は昼寝の時間だ。

夜のために体力を養っておかねばならんからな」

わざとらしい大声で言った新国王の

リチエルド・ホ・トノフは静かに立ち上がり

すれ違いざまに私にそっと何かを手渡した。


 数名の従者が彼の後に従い部屋を出て行く。

残ったのは女中数名とヴァレリ中将の配下の魔人数名。

私は肩をすくめ同僚の顔を見る。

ニヤニヤ笑っていた。

私が何か手渡されたのは見えていなかったようだ。

「では私も失礼する」

部屋を出て自分のテントに戻る。


 一人になりポケットから紙片を取り出した。

そこには走り書きの乱筆で

『今夜ブランカが私の部屋を出て行ったら

窓からこっそり侵入してきて欲しい』


 なにか話があるようだな。

ドルマーに事情を聞いてみるか。


~~~~~~~~~


「ブランカめ。なかなか出てこないな」

夜も更けた頃ようやくブランカが城から出てきた。

こころなしかフラフラしているように見える。

やりすぎだ。


 城の見取りは覚えている。

くうを数回つなぎ王の居室のベランダに到着、窓から侵入する。

ロウソクが数本灯っている薄暗い部屋のベッドの上に上半身裸のリチエルド国王が

あぐらをかいていた。

昼間は解らなかったが16才の若者とは思えないほどの逞しい筋骨だ。


「よく来たな。座ってくれ」

小さなテーブルに椅子が二つ。

その一つに腰を掛けた。

王も座る。


「ドルマーから聞いた。ボルド上級尉官に相談しろとな」

昼間のうちにドルマーから事情は聞いていた。

即位したばかりの新国王は色ボケの骨抜き野郎を演じているだけのようだ。

この国の将来について話が出来る魔人はいないのかと相談を持ちかけられたそうだ。


「なぜドルマーなんです?陛下」

「余の観察では魔人軍も様々な事情を抱えているように見えた。

占領軍のヴァレリやブランカはわかりやすいな。

殺して奪え、が信条だろう。

だがドルマーとその上司であるあんたは異質に見えた。

むしろヴァレリ達の邪魔をしているように見えるのだが。

なぜだ?」


「邪魔だてなどしておりません。私にはそんな力はない。

ただ本国の意向から大きく外れないように助言しているだけですな」

「本国の意向とは?」

「人間の『支配』です」

「ほう、てっきり滅ぼすものと思っていたぞ」

「我々魔人軍は強力です。理屈の上では滅ぼすことも可能です。

だが二つの大陸を蹂躙して廻るほどの規模はない。

なんの補給もなしに大勢の軍を侵攻させることなどできません。

それに報告ではルド王国が中心となり人間の国々は結束を固めている様子。

なめてはかかれないのです。

まずはガウンムア王国を属国化して北の大陸に攻め入る橋頭堡を築き上げたのです」


「なるほど。ルド王国が負ければ後は皆殺しにするだけか」

私は返事をせずに黙っていた。


 しばらくの静寂のあと王が言った。

「その沈黙が答えだろう。今夜の所はこの辺で。

これからは定期的に連絡を取りたい。

ブランカにも言っておくから交代でドルマーを余の夜伽に出させよ。

なに、実際には何もせんよ。ブランカにたっぷり搾り取られてるからな」

「わかりました。今後はドルマーを通じて連絡を取りましょう」

「言っておくが余は見た目での差別はせんぞ。

ドルマーの顔面は気の毒だがあれは頭の切れる良い女だ」

「本人に伝えておきましょう。では」


~~~~~~~~~


 この若き王はあなどれない。

取引材料としてガウンムア王国内のテイマーを貸与する事を条件に

ツイーネの状況を逐一教えろと提案してきた。

自分が誰かの意志で生かされていることを承知した上で話をしてきている。

その上で私に当たりをつけ接触してきたのだろう。

あの日、値踏みされていたのは私の方だったのだ。


 ツイーネの王族は親類だそうだ。

元々は北の大陸にいた王族が分家してガウンドワナ大陸に王国を作ったのが始まりとなっている。

両国は海を挟んで貿易や文化交流にいそしみ良好な関係を保ち続けてきた。


 王家の血を引く者をただの一人でもいいから残してやれるようにして欲しいとも要請された。

元よりそのつもりだったので了承したのだ。


 なにより驚いたのはこの若き王の思想である。

王は君主として君臨するが政治には民の代表を加えて皆で話し合える国家を作りたいと言っていた。

この国は東西に長い。端から端まで目を届かせるのはなかなかに苦労が多い。

ならば地方にはある程度の自治を認めるべきでは?との考えから思考を飛躍させていったそうだ。


 機会を見てグレイン少将に会わせてみたい。  

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