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2-8 『あの日』 マチルダ編 その2 殺された王


今思い返すと後悔せざるを得ない点が多々ある。

まず、あの日は私とマリアンは北の塔に泊まっていた。

そして北の塔の警戒システムは庭にまでしか及んでいなかったこと。

城と北の塔を取り巻く庭園を繋ぐ唯一の門を外側から土魔法で固められた事に

私達は気がつけなかったのだ。


 その日も遅くまでマリアンと実験を繰り返し日付が変わる前頃にようやく一段落したので

いつものように警戒システムを作動させてから安心して熟睡してしまったのである。

 城の中からの叫び声などは北の塔まで届かない。

目を覚ましたのは何となくいやな胸のざわめきを感じたからだ。


 これも後になって解ったことなのだがこの時点で既に愛する夫である

国王ウォルター・ボ・ルドウィンは殺されていた。


 門はあちら側から固く閉ざされている。

様子を伺うためにインセクト・アイを飛ばした。

スクリーンに移ったのはおびただしい数の死体。

そして反乱勢力と剣を交える正規軍の兵士達だった。

正門の内側辺りに陣を置いたクレイグが指揮を執っている。


「クーデターが起こりクレイグが正規軍を率いて鎮圧に当たっているようね」

「これを見る限りではそのようですが」

「ええ、違和感ありまくりだわ、ね」

私もマリアンもその違和感がなんなのかが解らない。


「マリアン、ここからの脱出を試みるわ。

最悪の場合個人装備で強引に突破しなきゃならなくなるかも」

「母船にバレたら大事ですね」

「だから最悪の場合と言ったの。できれば他の手段がいいわね」


 二人で再び門に行き脱出ルートを探す。

その時門の向こう側からガラガラと音がし、門が開いた。

正規軍の兵士達が分厚い土壁を取り除き門を開けてくれたのだ。

「王妃様!ご無事でしたか!」

「私達は大丈夫。クレイグのところに連れて行って頂戴」


 兵士の後を追い正門近くのクレイグの陣に行く。

「クレイグ、これは・・・・・」


~~~~~~~~


 変わり果てた夫の姿を見た時はなにが起きたのかは理解できるが

心がそれを受け入れられない複雑な心境だった。

しばらくは呆然としていた。


「母上、王位を空白にするわけには参りません。

王位継承権を持っている伯爵や侯爵家が騒ぎ出す前に

私が王位を継ぐことを先に宣言しておきます。

父上の葬儀を執り行う前におふれを出してしまいましょう」

「え、ええ・・・・。そうね、クレイグ」

「マリアン、母上はまだ放心状態だ。

少し休ませてやってくれ」


 マリアンが私の手を引き王城内にある私の居室に連れて行ってくれた。

手渡されたハーブ・ティーを飲むと少し思考がはっきりしてきた。

 

 こんな時感情は邪魔だ。

やるべき事、なさねばならぬ事をシステマチックに

かつ迅速に解決していかねばならない。


「マリアン、ありがとう。落ち着いたわ。

状況を整理するわよ。アレックスたち魔王討伐軍と勇者のパーティはクルトフに向かっている。

このタイミングでクーデターが起きるなんてあまりにも都合が良すぎる。なぜだと思う?」

「クレイグが仕組んだ、としか」

「そうね。おそらくその線でしょうね。

でも裏を取ってる時間はないわ。

クレイグが王位を継承してこの国の全権を手中に収める様子を

ボケっと眺めているわけにはいかない。

阻止するわよ」


 私はマリアンにいくつか指示を出した。

私は私でやることがある。

当面は二手に分かれて行動することにした。

「インカムは常に作動させておいてね。個人装備の装着を許可します。

私も着替えるわ。ばれないようにある程度の偽装はしておいてちょうだい」

「誰かに見られたらどうします?」

「気がつかれないように最大限の注意を払って。

見られたら敵味方かまわず殺してちょうだい。私もそうする

時間がないわ、動きましょう」


~~~~~~~~


 先輩は敵味方かまわず殺せと言った。

できれば味方は殺したくないのだが味方って誰だ?

私達はこの世界に入り込んだ異物だ。あくまで母星の利益のために働いている。

そう言った意味での味方はここにはいない。


 先輩はあくまで王妃として出来ることを優先させるつもりだ。

が、最終的に『利益』が確保できれば問題はない。

苦労して築き上げた魔石の回収ルートを守るための行動と理解すれば

それは母星に対する裏切り行為とはならないだろう。

私はそう解釈した。


 二人で一度北の塔に戻る。

それぞれの居室で個人装備を装着するために。

私も部屋に入り鍵を掛けメイド服を脱いだ。

下着も取り全裸になる。


 黒い合成多重構造のコンビネーション・スーツを着る。

肌にぴたりと合わさる素材なので体の線が丸わかりになる。

内側の薄い皮膜には酸素が供給され皮膚呼吸を助ける。

流れ出る汗や体液は浄化処理され再利用される。

ふくらはぎまで隠れる密着ブーツを履き装備ベルトを巻き配線を繋ぐ。

これに専用ヘルメットを装着すれば短時間であれば宇宙空間での活動も出来るのだが、

今回はフルフェイスのメットをかぶる必要はないしむしろ邪魔なので装着しない。


 その上から再びメイド服を着る。これで少しは目立たなくなる。

レーザー銃はそのままの形での使用は出来ないため射出孔とトリガーは指輪に仕込み

配線した本体は装備ベルトに装着してある。

マイクロ・インカムを耳につけテスト発信。

先輩はすでに準備を整えたみたいだ。


 二人で城に戻る。

ここで二手に分かれた。

私の任務はクレイグが仕込んだ大規模な精神干渉装置の破壊である。

大量の魔石を使用しているため解除に失敗すればカタストロフィを招くおそれがある。


 仕組みに関してはおおよその見当はついているものの、

実際には目の当たりにしなければ解らないだろう。

まずは本体を見つけ必要な工具類を取りに一度戻らねばならないかもしれない。

つまりは現場におまかせってやつだ。


 王城内はまだ後片付けの真っ最中である。

放置されている死体はすでにないが壊されたドアや調度品などが瓦礫と化している。


 メイド服を着ているとは言え出来れば人には見られたくない。

人目を気にしながら旧王城区画にたどり着く。

ここは王族が持っている鍵がないと入れないのだが、

私はコピーを手渡されているので難なくはいることが出来た。


 問題の場所にたどり着く。

「ここかな?でも入り口はないわね」

最寄りの部屋に入る。使われなくなったテーブルなどが積み上げられてる部屋だ。

特に怪しいところはない。

「奥行きがあやしいなあ。

入り口があるべき場所にもう一つ部屋があるのね」

廊下側を破壊するわけにはいかない。

今居る部屋の鍵を掛け壁に近寄る。

携帯レーザーの出力を絞り直径1cm程度の穴を開けそこからインセクト・アイを進入させ

中の様子を伺った。


「あったわ。目視できる罠のようなものはないわね。

行ってみるか」

私は人が通り抜けられる程度の穴を開け進入した。

低いテーブルの上に置かれた長方形の箱に蓋はない。

中には魔石が敷き詰められ小さな箱が隅に据え付けられている。

おそるおそる蓋を取ってみた。

「おお、なんてこと」

中にはミイラ化した人の頭が納められていた。


「まずは仕組みを解明しないと。

出来なければ丸ごと破壊しか・・・きゃっ!な、なに?」


 長くて粘りけのある何かが複数本私のからだに巻き付いてきた。

「どっから出てきたのよ!あっ・・・!やん!」

まずはこの正体不明のネバネバ触手と戦わねば。

「ちょっ、ちょっと!そんなとこ反則よ!あっ、あん!」

まずい、これは・・・・いやいや気持ちよくなってる場合ではない。

「んっ、もう!レーザーで焼き切るしかないか」


 見ると部屋中から触手がわき出ている。

「こんな状況じゃなかったら楽しんでもいいんだけどね。

ごめんね、全員死んで」

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