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2-7 『あの日』 マチルダ編 その1 老師とマチルダ


『あの日』からさかのぼること約一年前からお話せねばなるまい。


 船長が母星から持ち出してくれた禁制品の機器。

ハイパー高速航行に使用される反応炉の実験及び検証に使われる物だ。

機器自体はさほどの大きさではない。

分割して私の衣装ケース3個分程度なので怪しまれずに北の塔に運び込むことが出来た。


 私が着目したのは『魔法の固定化』である。

魔王討伐軍の講師に加わったスフィーアからの亡命者ハリエク・ロウ老師。

彼は空間を固定する能力を持っている。

彼が作り出す空間収納バッグは軍の物資輸送に革命をもたらした。

今までは数がなく新製品もそんなに出回っていなかったため軍では採用されていなかったのだが、

現在老師が鋭意大量生産中である。

 

 アレックスの同期であり現在は部下のベルトランなど大喜びしていた。

彼はアレックスの魔王討伐軍で兵站を含む後方支援を担当しているからである。


 この『空間の固定化』が出来るように他の魔法も固定化が出来るのだ。

そしてそれらは魔石を燃料としているのである。

この固定化のメカニズムは魔法の一言で片づけられているし、

解明などおそらく出来ないであろう。

だが望む結果が安定的に得られれば途中のプロセスは無視しても良い。

 

 私やマリアンが使用できる個人装備の中に個体バリアがある。

機器を中心とした半径1m以内に接近する物理的脅威はすべてはじいてくれる。

オートモードにしておけばどこからか飛んでくる弾丸程度なら難なく防いでくれるのだ。

 

 この個体バリアには膨大なエネルギーが必要になる。

ハイパー高速航行用の燃料を使用する極小小型反応炉が必要になってくるのだが

魔石が利用できるのなら利用したい。

さらに魔法による固定化が実現できるならこの星で調達できる物資及び技術で

個体バリアやその他の兵器も生産できるかも知れないのだ。


 持ち込んだ計測機器で魔石のエネルギーの流れを把握できれば

固定化へのプロセスも明確になってくると考えたので

船長には無理を聞いて貰ったのだ。


~~~~~~~~~~


「王妃さまにおかれましてはご機嫌麗しゅう・・・・」

「はいはい、麗しいわよ。老師どの、

単なるお茶会だから楽にしてくださいな」


 老師はニコニコ笑っていた。

「いやはや、ざっくばらんで助かりますわい。

して私のような老体にいかようで?」

「色々聞きたいことがあるの。

ただあなたはスフィーア王国の方だしこちらから強制はできないわ。

答えられることだけいいです。お願いできるかしら?」

「もちろんですとも。なんなりと」


 老師の説明では魔法の固定化はイメージだそうだ。

本人もこまかな課程は理解できていない。

ただ自分が習得した魔法を究極的に高めないとその魔法の固定化はできないらしい。


 少しカマをかけてみよう。

「今から見せる魔法は他言無用に願います。

マリアン、そこからそのスプーンを私に投げつけて」


 マリアンは振りかぶって全力のオーバースローでスプーンを投げつけた。

なにか怨みでもあるのかしら?

その怨みを込めた?スプーンは私の手前1m付近ではじき落とされた。


「初めて見る魔法ですな。

確かにこれは人には言わんほうがいいでしょう」

「これを固定化できないかしら?」

「なるほど、そういうことですか。ふむふむ」


 老師は真剣な顔つきであごをなで回している。

「今のは王妃さまが任意で作り出したようには見えませんでしたな。

なにかこの、飛んでくる物があると自動で発動したような印象でしたが?」

「鋭いわね。そう、自動なの」

「自動は無理ですが任意なら出来るかもしれませんぞ」

「それはどうやって?」


「その前にひとつ。

現時点で王妃様、あなた自身が隠している事が多々あるのでしょう。

ワシは魔力を感知できます。

今の『魔法』は魔力を全く感知できませんでしたわい。

魔法とは違う何か、としか言いようがありませんが」


「老師、あなたを敵に廻さなくて本当に良かったわ。

良いでしょう、しかしあまり多くはしゃべれません。

私自身がここに居られなくなりますから。

これはこの世界とは別の場所で開発された技術です.

他言無用に願います」


「ほほう、それは人の手で開発されたと?」

「そうです。魔法のない世界で人々の長年の知識と経験の蓄積から紡ぎ出されました」

「にわかには信じられませんが目の前で見せられたのですから

信じるほかありますまい。

わかりました。

ワシが今からお見せするのはワシ自身の研究の成果です。

こちらからも他言無用を願います。

それに誰にでも出来ることではないとだけ言っておきましょう。

マリアンさん、もう一度ワシにむけてスプーンを投げてくれませんかの?」


 マリアンはアンダースローでそっとスプーンを投げた。

私には全力投球したくせに。

ここは後でネチネチ突っ込んでやろう。


 老師は『なにか』を生成しスプーンをはじいた。

「今のは?」

「これはくうの魔法の一種です。

簡単に言うと魔素と空気の壁を任意で生成したんですわい」

くうって空間と空間を繋げる魔法じゃなかったの?

それに魔素ってなにかしら」

「正確に言えば空間を任意で操る魔法ですじゃ。

魔素とはすべての魔法の元となる物です。

魔素をまとった空気の粒を固形化させるんですわい」


 この老人はいったいどれほどの研究を重ねてきたのだろうか?

この国でも宮仕えの魔法使いは研究職でもあり魔法学校の講師もやっている。


 本業の傍ら魔法のメカニズムの解明に取り組んでいる者もいるのだが、

魔素の部分まで踏み込んで研究している者はいただろうか?

過去の研究すべてを調べたわけではないのでなんとも言えないが。


「愚考を重ねた結果としか言いようがありませぬ」

「すごい。老師、素直に尊敬するわ」


「これを固定化出来れば王妃様がお望みの物に近い物が出来上がるかと。

まあ色々と解決せねばならん点は多々ありますが」


 私は老師の両手を取った。

「ありがとう老師。今のは重大なヒント、いえ、もうほぼ答えだわ。

これが魔道具として大量生産出来れば、魔法が使えない者でも魔人に対抗できるかもしれない。

今後も実験に協力してくれるかしら?」

「対価を求めても?」

「もちろんよ」

「スフィーアの再建に力を貸して欲しいのですじゃ」

「それは安全保障会議でも約束してたわよね?」

「生き残りを捜し出しでも人が足りません。

移民も視野に入れております」

「なるほど、わかったわ。協力をお約束します」


 老師との実験が始まった。

老師も自身の仕事があるため頻繁にはつきあえない。

実験はかなりの期間を要した。


 だがこの実験も一時中断してしまう。


 そう、『あの日』が来たからだ。 

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